2020年(令和2年)5月4日 月曜日 徳洲新聞 NO.1234 四面
葉山ハートセンター
QOL改善する漏斗胸手術
独自の「胸肋挙上術変法」施行
葉山ハートセンター(神奈川県)の飯田浩司・副院長兼心臓血管外科部長は長年にわたり漏斗胸(ろうときょう)や鳩胸の治療に尽力している。漏斗胸は前胸部が陥凹する先天的な胸郭変形疾患で、QOL(生活の質)に大きな影響を与える疾患だ。独自の“胸肋(きょうろく)挙上術変法”に取り組んでおり、「金属棒など人工物を用いないことから感染症など合併症のリスクが低く、術後の運動制限も3カ月と比較的短期間ですみ、患者さんの満足度は高いです」とアピール。胸郭変形疾患で困っている患者さんをひとりでも多く救うため、今後も徳洲会病院と連携を取りながら治療にあたっていく考えだ。湘南鎌倉総合病院(神奈川県)や名古屋徳洲会総合病院、中部徳洲会病院(沖縄県)でも同手術を行っている。
合併症少なく運動制限も短期間
「患者さんの満足度は高いです」と飯田副院長(左)、深井部長
漏斗胸の発症原因は不明だが、肋骨と肋軟骨(肋骨と胸骨を結び付ける軟骨)に歪みが生じることで、前胸部にくぼみが生じると考えられている。400~1500人に1人の頻度で発症し、男性のほうが有意に発症頻度は高いとされる。
生命予後(生存の見とおし)には影響しないと言われているが、成人患者さんの半数以上は胸痛や動悸(どうき)、胸部圧迫感、易疲労感(疲れさすさ)、呼吸苦などの自覚症状があり、他人と異なる前胸部の形状から精神的な苦痛を抱える患者さんも多い。飯田副院長は手術の適応がある患者さんに対し、胸肋挙上術という術式に独自の改良を加えた胸肋挙上術変法に取り組んでいる。
この術式は、飯田副院長の研修時代の恩師であり、札幌医科大学で日本初の心臓移植を行った和田壽郎教授のグループが1981年に東京女子医科大学で考案した胸肋挙上術に独自の改良を加えた方法。変形した肋軟骨を部分的に切除・再縫合し、自己の肋骨の弾力によって胸郭を矯正する。これにより心臓への圧迫を除去し、術後の形態を良好に保つことが可能となる。異物を留置せず、小児と成人にほぼ同様の術式が施行可能で、再陥凹が生じにくく、感染など合併症が少ないなどのメリットがある。
飯田副院長と湘南鎌倉病院呼吸器外科の深井隆太部長のほかには、胸肋挙上術変法に取り組んでいる医師がいないため、飯田副院長は使命感をもち漏斗胸手術に取り組み続けている。
「小学校入学前後手術の最適時期」
漏斗胸の手術前(写真左)と手術後
手術の適応に関しては陥凹の位置や範囲、体型に個人差が大きいため、胸郭内径の縦横比などの数値だけで判定するのは困難。そのため「おおむね患者さんの手拳と同等以上の体積を有すると推測される陥凹が前胸部にある」、「心電図異常など客観的な理学所見がある」など適応基準を設け、患者さんの希望をふまえて手術実施を判断しているという。初診時には比較的被ばく量が多いCT(コンピュータ断層撮影)検査を行わない方針を掲げている。
「手術を受けた患者さんの平均年齢は約16歳で、成人にも手術は可能ですが、小学校入学前後が手術の最適時期と考えます。骨が柔らかく小さな傷で手術が可能であり、術後の形もきれいになること、手術についてある程度理解でき、入院生活に適応できるためです」(飯田副院長)
前胸部に手術創ができるが、未就学小児の場合平均3・6㎝、成人でも6・5㎝程度。術後に特別な管理や装具は必要なく、術後平均入院期間は6日ほど。退院後約1カ月で通学や勤務が可能で、3カ月目以降は運動制限が必要ない。飯田副院長は胸肋挙上術変法により93年以降、500例以上の漏斗胸手術を施行してきたが、これまでに再手術や重篤な合併症、長期入院の症例はなかった。また、大半の症例で身体的症状が改善・消失している。
なお、鳩胸は前胸部の骨が突出した状態を指す。発症頻度は低く、漏斗胸の5%以下だ。漏斗胸と同様に直接、生命に大きな影響はないが、洋服の上からでもわかるほど大きな突出の場合は精神面への影響も考慮し手術の対象となる。手術方法は胸肋挙上術変法とほぼ同様の手術方法で、肋軟骨を切除短縮し矯正する。
飯田副院長は患者さんにメリットが多い同術式を広めるために、国内外の学会などで積極的に発表を行っている。2014年からは湘南鎌倉病院胸壁外科のホームページを通じ、漏斗胸・鳩胸治療について詳細な情報発信に努めている。年々、閲覧数が伸びており、それにともない問い合わせも増えているという。