2019年(平成31年)2月25日 月曜日 徳洲新聞 NO.1173 四面
東京西病院
ハイブリッド手術室オープン
より安全に血管内治療など可能
東京西徳洲会病院はハイブリッド手術室を開設した。同手術室は心臓や脳の血管撮影などに対応した高性能のX線透視装置を配備、カテーテル(細い管)を使う内科的治療(血管内治療)と外科手術をひとつの部屋で行うことができる。同院ではステントグラフト(金属製の網状の筒に人工布を縫い付けた人工血管)内挿術に加え、さまざまな診療科で同手術室を活用。清潔空間のなか、高度な手術をより安全、着実に実施している。
さまざまな診療科がハイブリッド手術室を利用
徳洲会グループでハイブリッド手術室を開設しているのは、近年に新築移転した病院を中心に、東京西病院を含め合計15施設。同手術室は放射線を遮蔽(しゃへい)するために、手術室全体を囲む壁の中に、鉛を埋め込んだ構造となっている。
同院では同手術室開設前から、胸部・腹部大動脈瘤(りゅう)で開胸・開腹手術が厳しい高齢の患者さんに対し、ステントグラフト内挿術を実施していた。しかし、カテーテル室を使用したりCアーム(外科用X線撮影装置)をレンタルしたりして対応せざるを得なかった。
ハイブリッド手術室のある徳洲会病院
病院名 |
所在地 |
札幌東徳洲会病院 | 北海道札幌市 |
羽生総合病院 | 埼玉県羽生市 |
千葉西総合病院 | 千葉県松戸市 |
成田富里徳洲会病院 | 千葉県富里市 |
湘南鎌倉総合病院 | 神奈川県鎌倉市 |
湘南藤沢徳洲会病院 | 神奈川県藤沢市 |
東京西徳洲会病院 | 東京都昭島市 |
名古屋徳洲会総合病院 | 愛知県春日井市 |
宇治徳洲会病院 | 京都府宇治市 |
岸和田徳洲会病院 | 大阪府岸和田市 |
松原徳洲会病院 | 大阪府松原市 |
吹田徳洲会病院 | 大阪府吹田市 |
福岡徳洲会病院 | 福岡県春日市 |
大隅鹿屋病院 | 鹿児島県鹿屋市 |
中部徳洲会病院 | 沖縄県中頭郡北中城村 |
(2019年2月時点)
こうした状況に対し髙木睦郎・外科部長は、「カテーテル室は手術には適さず、手術ごとにCアームを借りるわけにもいきません。また、待機手術なら準備する時間はありますが、緊急手術の場合は、すぐにCアームを手配できないこともあります」と振り返る。
さらに、「高齢者人口の増加や生活習慣病の蔓延などにより、大動脈瘤の患者さんが増えてきたため、対策を考える必要がありました」(髙木部長)。こうした背景から、渡部和巨院長は同手術室の設置を決断、2017年8月頃から開設のための準備を開始した。
導入した撮影装置は、血管内にカテーテルを挿入し造影剤を注入することで、血管病変(狭窄(きょうさく)や瘤)の診断・治療に役立つ。また、従来はCT(コンピュータ断層撮影)検査室でしか得ることのできなかった三次元画像の撮影も同手術室で可能になり、複雑な血管の走行も短時間で確実に把握できる。これにより医師は、画像を確認しながら術中に治療を修正することも容易になるため、より迅速で高精度な治療が可能になる。
髙木部長は同手術室を開設したメリットについて、「循環器内科、心臓血管外科、形成外科の先生方とタイアップして治療にあたることで、患者さんの負担が少なく治療回数も減るなどメリットは大きい。ハイブリッド手術室ならではです」と説明する。
ハイブリッド手術室では血管撮影を行いながら手術を実施
18年11月16日に施行した1例目の手術は、胸部大動脈瘤に対するステントグラフト内挿術。外科チームや麻酔科医、手術室看護師、診療放射線技師など多職種チームで遂行し、経過は順調だ。その後も、透析患者さんへのシャント造設手術を含め、さまざまな診療科が同手術室を活用し症例を重ねている。
将来的には、循環器内科が中心となり、TAVI(経皮的大動脈弁置換術)やMitraClip(経皮的僧帽弁接合不全修復システム)などの実施も視野に入れている。
髙木部長は「これまで近隣の医療施設は、ハイブリッド手術室がない当院に大動脈瘤の患者さんを紹介しにくかったと思いますが、より安全に治療できる体制が整ったので、今後はもっと積極的に受け入れていきたいと考えています」と意気軒高だ。
同院では、同手術室開設に関し、近隣の医療施設との情報共有を推進。同時に、地域の方々に対しては、医療講演などで大動脈瘤の早期発見を啓発するなど、地域医療に貢献していく構えだ。
手術中に画像を見ながら指示を出す髙木部長
今後は学術的な活動も積極的に行っていく。そのひとつとして、同院は日本血管外科学会が実施する「破裂性腹部大動脈瘤に対する開腹手術とステントグラフト内挿術の治療選択に関する全国多施設観察研究」に参加(徳洲会グループでは湘南鎌倉総合病院も参画)。
同研究の目的は、破裂性腹部大動脈瘤症例の治療内容を全国から広く集め、多数の症例データを解析することで、開腹手術が適する症例とステントグラフト内挿術が適する症例を明確にすることだ。データに基づき適確な治療法を導くことで、破裂性腹部大動脈瘤の救命率向上を目指している。
髙木部長は「ハイブリッド手術室の稼働は血管内治療のスタートラインに立ったにすぎません。現在も新たなデバイスや治療法が日進月歩で進んでいるので遅れずにキャッチアップし、かつ新たなエビデンスを発信できるようつねに努力が必要です」と意気込みを見せる。