2019年(平成31年)1月21日 月曜日 徳洲新聞 NO.1168 一面
名瀬病院
院外産科救急の処置学ぶ
BLSO in 奄美2018開催
名瀬徳洲会病院(鹿児島県)は「BLSO in 奄美 2018」を開催した。会場は鹿児島県立大島病院救命救急センター。BLSO(Basic Life Support in Obstetrics)は病院外での産科救急の処置法を学ぶトレーニングコースで、奄美群島での開催は今回で7回目。奄美大島内の救急救命士や救急隊員、看護師ら計23人が受講し、講義や、リアルなマネキンや胎盤モデルを用いた演習を通じ、病院外での分娩(ぶんべん)介助、新生児蘇生、女性傷病者の評価などを学んだ。与論徳洲会病院(同)を会場に「与論BLSO」も開催されている。
「奄美群島出身のインストラクターを増やしていきたい!」と小田切部長
BLSOは産科救急の患者さんに遭遇する可能性がある救急隊員や看護師、救急医、総合診療医などを主な対象として開催されている。筆記試験と実技試験に合格すると、米国家庭医学会とALSO Japan から5年間有効な認定証を受けることができる。
産科医や分娩施設の不足は全国的な課題だ。医療資源の少ない離島・へき地では、より深刻な状況となっているのが現実。こうしたことから産科以外の医療スタッフや救急隊員も、分娩を含む産科救急の場面に遭遇した際に的確な対応を行い、妊産婦さんや新生児の死亡・後遺症を防ぐためのスキルを身に付ける重要性が高まっている。
救急救命士や救急隊員、看護師が参加
2018年12月2日に開催された「BLSO in 奄美 2018」で講師を務めたのは、石川県や東京都、沖縄県、大阪府など鹿児島県内外から集まった産婦人科医や救急科医、救急救命士、看護師、助産師。インストラクターやキャンディデイト(インストラクター候補者)、アシスタントといった資格を有する。
今回は奄美群島で初めて、通常の受講者向けに開催するプロバイダーコースに加え、プロバイダーコースでの講師の担い手を育成するインストラクターコースを、前日の12月1日に開催した。
インストラクターを養成 奄美群島出身増やしたい
演習にも熱が入る(写真は分娩介助の様子)
プロバイダーコースディレクターを務めた名瀬病院産婦人科の小田切幸平部長は「今回のインストラクターコースで、8人のアシスタントがキャンディデイトに昇格しました。今後、奄美群島出身のインストラクターを増やし、奄美群島内からも、できるだけ講師を輩出していきたい」と人材育成にも注力していく意向だ。
続けて「母子の生命にかかわる1分1秒を争うのが産科救急です。迅速で適切な対処に加え、救急隊員と医療機関との間でのスムーズな情報伝達が欠かせません。これまで数回開催してきた奄美大島や徳之島では、医療スタッフ・救急隊員のスキルの向上を感じます」と手応えを示す。
12月2日のプロバイダーコースでは、まず「分娩介助」をテーマに、分娩介助手技や臍帯(さいたい)切断、胎盤娩出(べんしゅつ)、分娩後大出血、肩甲難産(胎児の頭部が出た後、前の肩[前在肩甲]が母体の恥骨にひっかかって娩出困難になること)の対処法などを学んだ。
演習では「娩出後に新生児が落ちないよう、頭から手を離さないでください」、「出産後は時間と場所を確認するようにしてください。救急車内で出産した場合も必ず住所を確認し記録してください」といったアドバイスが飛んだ。
次に「新生児蘇生」では、新生児を模した人形を用い、新生児蘇生法アルゴリズムに基づき、蘇生の初期処置(保温、体位保持、気道開通、皮膚乾燥、刺激)や、呼吸・心拍の評価、バッグバルブマスクによる人工呼吸、胸骨圧迫、酸素投与などを習得。
続いて「女性傷病者の評価」をテーマに、女性傷病者の観察や妊婦外傷への対応、妊婦の心肺蘇生などを学んだ。インストラクターは「女性に処置を行う際は診察時にプライバシーを確保し、本人の同意を得てから開始してください」、「妊婦の心肺蘇生法は一般成人の救命処置に準拠するのが原則です」などポイントを解説。
また、大島病院の救急車を用いて、救急車内分娩の対応などに関しても受講者はレクチャーを受けた。
この後、学んだことを振り返り、適切な情報伝達ができるかどうかを確認するため、いくつかのシナリオに沿った症例検討を実施。患者・家族役に扮したキャンディデイトからの電話を受講者が受け、搬送先に伝えるべき情報を聞き出したり、必要な処置を検討したりした。
最後に筆記試験と実技試験を実施、受講者全員が無事合格。
「喜界島では空港での出産事例もあったと聞いています。今後も奄美群島内で定期的に開催していきたいと考えています」と小田切部長は展望を語っている。
受講した大島病院の坂口有希子看護師は「これまで分娩介助など経験したことがありませんでしたが、実際の事例に遭遇したら今回学んだことを生かしたいと思います」と意欲的。大島地区消防組合龍郷消防分署の栁昭栄・救急救命士は「産科救急の事案に対応する際の自信をつけることができました。リアルな人形などを用いた演習によりイメージをつかむことができました」と充実した表情を浮かべる。
大島地区消防組合笠利消防分署の泉成海・救急隊員は「成人とは異なる新生児の蘇生法など学ぶことができ、とても勉強になりました」と話している。
奄美群島でのBLSO開催状況
開催年月 |
主催 |
会場 |
2012年 12月 |
名瀬徳洲会病院 |
奄美大島(名瀬徳洲会病院) |
2013年 6月 |
NPO法人親子ネットワークがじゅまるの家 |
徳之島(徳之島町保健センター) |
2014年 2月 |
名瀬徳洲会病院 |
奄美大島(大島支庁) |
2015年 3月 |
名瀬徳洲会病院 |
徳之島(農協会館) |
2016年 9月 |
徳之島の将来の医療と福祉を考える会 |
徳之島(天城町保健センター) |
2018年 11月 |
NPO 法人親子ネットワークがじゅまるの家 |
与論島(与論徳洲会病院) |
2018年 12月 |
名瀬徳洲会病院 |
奄美大島(鹿児島県立大島病院) |