徳洲会グループ TOKUSHUKAI GROUP

ダイジェスト

Tokushukai medical group newspaper digest

2018年(平成30年)10月1日 月曜日 徳洲新聞 NO.1153 一面

僧帽弁閉鎖不全症で新治療
湘南鎌倉総合病院
低侵襲MitraClipを開始

湘南鎌倉総合病院(神奈川県)は外科手術が困難な重症の僧帽弁閉鎖不全症(MR)に対する低侵襲な治療法であるMitraClip(マイトラクリップ)(経皮的僧帽弁接合不全修復システム)を開始した。MRの根治療法は、これまで外科手術(僧帽弁形成術・僧帽弁置換術)に限られ、高齢や併存疾患などが原因で手術困難な患者さんが少なくなかった。MitraClip は、こうした患者さんにカテーテル(管)による新たな根治療法の選択肢を提供する国内初の治療法だ。実施施設は9月上旬時点で約20施設。徳洲会グループでは岸和田徳洲会病院(大阪府)も実施している。

「大きな改善効果が期待できる治療法です」と齋藤総長(右)、水野部長 「大きな改善効果が期待できる治療法です」と齋藤総長(右)、水野部長

僧帽弁は心臓の左心房と左心室の間にある弁で、前尖と後尖の2枚の弁からなる。肺を経て十分な酸素を含んだ血液は左心房に入り、僧帽弁を通過して左心室から全身に送り出されている。僧帽弁は、拍動によって左心房から左心室に血液が送られるのに合わせ開閉しているが、MRは僧帽弁が適切に閉じず血液が逆流してしまう疾患だ。聴診による心雑音の確認と心エコー(心臓超音波)検査で診断を行う。

自覚症状としては呼吸困難やむくみ、動悸(どうき)など心不全症状が現れる。重症の場合は突然死を引き起こすなど生命予後(生存の見とおし)の悪化を招く。また、逆流によって左心房に負荷がかかることから、心房細動を合併することもある。

湘南鎌倉病院はハイブリッド手術室で実施 湘南鎌倉病院はハイブリッド手術室で実施

MRは原因によって変性性MRと機能性MRの2タイプある。変性性MRは、弁尖の軟化や、左心室側から僧帽弁を引っ張っている腱索(けんさく)の断裂などによる。機能性MRは、心筋梗塞や拡張型心筋症にともなう左室・弁輪の拡大により、弁尖の動きが阻害され起こる。

MitraClipは脚の付け根にある大腿(だいたい)静脈からカテーテルを挿入、心房中隔穿刺(ちゅうかくせんし)を行い右心房から左心房にカテーテルを導き、X線透視や経食道心エコーガイド下で、先端に付いたクリップにより僧帽弁の前尖と後尖をとめ、逆流の改善を図る治療法だ。欧州では2008年から実施している。

湘南鎌倉病院の齋藤滋・総長兼循環器科部長は「MitraClipはクリッピングする位置決めがとても重要です。適切な部位でとめないと逆流が残ったり、後ではずれてしまったりしてしまうのです。逆に、弁尖の間をせばめすぎると十分な血流を確保できなくなります。心房中隔穿刺の手技も含め難易度は高いですが、適切に行えば大きな改善効果を期待できる治療法です」とアピール。

重症僧帽弁閉鎖不全症を低侵襲に治療できるMitraClip。先端に特殊なクリップが付いている(画像提供:アボット ジャパン) 重症僧帽弁閉鎖不全症を低侵襲に治療できるMitraClip。先端に特殊なクリップが付いている(画像提供:アボット ジャパン)

同院はMitraClipの治験を行った国内6施設のひとつ。15年から16年にかけ、外科手術が困難な計30例に実施、同院は4例を行った。この治験の結果をふまえ今年4月に保険適用となった。

4月以降9月3日までに同院は21人の患者さんに実施し、症例は累計25例に到達。うち1例のみ1カ月以内に再入院したものの、内科的治療を行い間もなく退院。いずれも患者さんの経過は順調だ。治療にかかる時間は2~4時間ほどで、入院期間は術後平均3~4日。

齋藤総長とともにMitraClip治療に取り組む水野真吾・循環器科部長は「MitraClipが始まってから欧州で10年、米国で5年が経ちました。生存率は外科手術と同等であるという海外からの報告があります」と説明する。

同院では、僧帽弁逆流の重症度評価3度以上(1拍あたりの逆流量60㎖以上、逆流率50%以上など)と、左室駆出率(LVEF=左室拡張末期容積に対する左室駆出血液量の比率)30%以上をMitraClip実施の必須条件とし、付帯条件のいずれかの項目にあてはまる場合にMitraClipの対象としている。

左:MitraClip 治療のイメージ図。右:前尖と後尖をクリップでとめて血液の逆流を防ぐ(画像提供:アボット ジャパン) 左:MitraClip 治療のイメージ図。右:前尖と後尖をクリップでとめて血液の逆流を防ぐ(画像提供:アボット ジャパン)

その条件とは①STSスコア(外科手術のリスク評価)8以上、② Porcelain Aorta(上行大動脈石灰化)または上行大動脈の可動性アテローム変性、③縦隔(じゅうかく)の放射線治療歴や縦隔炎の既往歴▽機能性僧帽弁閉鎖不全かつLVEF40%未満、④年齢75歳以上かつLVEF40%未満、⑤開存している冠動脈バイパスグラフトのある状態での再手術、⑥2回以上の心臓・胸部外科手術歴、⑦肝硬変、⑧その他の外科的手術の危険因子。

また日本心不全学会や日本心臓病学会など6学会は合同で「適正使用指針」を策定、施設基準などを定めている。ハイブリッド手術室(血管撮影装置を導入した手術室)での実施を推奨しており、同院は同手術室でMitraClipに取り組んでいる。

「MRは弁膜症のなかでも多く見られる疾患です。当院がMitraClipを実施してきた患者さんのうち10人以上は、以前から当院に通院していた患者さんたちでした。これまで手術を断念してきた重症MR患者さんや家族の方たちに、この治療法があることを知ってもらい、ひとりでも多くの患者さんの治療に貢献していきたい。徳洲会グループ内外の医療機関で、重症MR患者さんがいましたら、ぜひご紹介いただけたらと考えています」と齋藤総長は話している。

PAGE TOP

PAGE TOP