徳洲会グループ TOKUSHUKAI GROUP

直言

Chokugen

鈴木 隆夫(すずきたかお)(一般社団法人徳洲会理事長(東京都、大阪府))

直言 生命いのちだけは平等だ~

鈴木 隆夫(すずきたかお)

一般社団法人徳洲会理事長(東京都、大阪府)

2018年(平成30年)10月1日 月曜日 徳洲新聞 NO.1153

医療界全体でネバーイベントを撲滅
安全・安心かつ親切な医療の提供へ
「自己変革を重ねる組織であり続けたい」

長野県の某病院で15歳の少年が脳膿瘍全摘手術を受けた際、血液吸収用の綿を体内に置き忘れたまま縫合するミスが発生しました。その綿を摘出するための再手術で、全身麻酔をしたところ、一時、心肺停止状態になり、11日後に亡くなってしまいました。

米国ケンタッキー州在住の女性が子宮摘出手術を受けた4年後、ひどい腹痛に襲われたためCT(コンピュータ断層撮影)スキャンを受けたところ、手術時に使用したスポンジが体内に残っているのがわかりました。これが深刻な感染症の原因となり、腸を切除する事態となってしまいました。

患者さんは、症状を良くしようと病院を訪れたのに、受けた医療で死亡したり、障がいが残ったり、社会的に孤立したりするばかりか、本来よりも、はるかに多い治療費を支払わされたりすることもあります。2005年から12年の間、米国JC(ジョイントコミッション)警鐘事例データベースに報告された異物残渣(ざんさ)772件のうち16件が死亡に至っています。

痛みをともなう失敗の経験が学習のための大切なデータに

その昔、教授が手術するよりレジデント(研修医)にやらせるほうが病院は儲かると、まことしやかに言われた時代がありました。未熟な研修医が行う手術で、合併症や感染症が発生し医療費が増すことを揶揄(やゆ)したのです。

医療は、どれだけ「危険」なのでしょうか。ある研究によれば、医療で死亡事故に遭遇する確率は、普通レベルとされる自動車運転やチャーター便の航空機より、はるかに高く、登山やバンジージャンプと同程度に危険と区分されています。

安全で安心な医療とは、ほど遠いと言わざるを得ない「医療」から、私たちはどうしたら患者さんを守れるのでしょうか。

高齢化の進展と医療技術の高度化を背景に国民医療費は、ほぼ右肩上がりに推移し続け、2017年度の医療費は42.2兆円と発表されました。国の税収である一般会計税収の約59兆円と比較すると、その膨大さがよくわかります。

日本と同様に医療費の増大にあえぐ米国は、08年に医療事故や過失をカバーする治療には、高齢者や障がい者の保険制度であるメディケアを適用しないという方針を打ち出しました。手術による合併症や感染症などへの追加医療が、保険支払いの対象外となったのです。

医療事故防止と医療費抑制の観点から、日本もまた同じ方向に進まないと誰が言えるでしょうか。人間は誰でも間違いを犯す生き物です。しかし、間違いから学ぶことができるのも、また人間です。痛みをともなう失敗の経験一つひとつを、学習するための大切なデータとして共有することが重要です。

本来であれば、安全で安心な医療を提供する病院は、「決してミスを起こさないこと」を患者さんに約束しなければなりません。それが「ネバーイベント(決して起こしてはならない事象)」です。手術時の患者さんの取り違え、手術部位の間違い、術後の異物の置き忘れ、医薬品の誤投与、装置の設定ミスなどです。

弱みを見せ合える組織こそ自己改革でき進化・発展へ

ニアミス、エラー、ヒヤリハット、ネバーイベントなど、職員が「安全でない状態」を判断し報告できる企業文化(組織の雰囲気)をつくり上げていくことが大切です。互いに弱みを見せ合える組織が、自己改革を成し遂げ、進化・発展へと歩み出せるのです。

患者さん目線から見た世界最高レベルの安全で安心で、親切な医療を提供できる徳洲会にする――。私はそんな大それた夢を見ています。失敗を糧にすることは、決してたやすいことではありません。医療での失敗は、患者さんの生命や人生がかかっているからです。しかし、だからこそ失敗を隠さず、真摯(しんし)に向き合うのです。徳洲会グループのスケールメリットを生かし、失敗の発生事象を集め、RCA(根本原因分析)を行って解決策を見出し、改善したプロセスを文書化、グループで共有することにより、同じような事象の発生を抑制していくのです。

これをグループのみならず医療界全体で共有し「決して起こしてはならない事象」を撲滅していかなければなりません。徳洲会は自己変革を重ねる組織であり続ける必要があります。

皆で頑張りましょう。

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