徳洲会グループ TOKUSHUKAI GROUP

徳洲新聞ダイジェスト

Tokushukai medical group newspaper digest

2017年(平成29年)6月12日 月曜日 徳洲新聞 NO.1086 一面

吹田徳洲会病院
〝積極的緩和治療〟50例突破
新しいアプローチ
抗がん剤の動注を活用

吹田徳洲会病院(大阪府)は、緩和ケアに動注療法(腫瘍の栄養動脈から高濃度の抗がん剤を注入する治療法)を用いる〝積極的緩和治療〟の治療実績が50例を超えた。2015年4月に腫瘍内科の一部門としてがんカテーテル治療センターを開設して以来2年で達成。標準治療(手術、化学療法、放射線治療)の効果が出なかったり(不応)、副作用に耐えられなくなったり(不耐)した再発進行がん患者さんに対し、さまざまながん性症状の緩和を図るのが狙い。同院の関明彦センター長は、緩和ケアの新たなアプローチとして同治療を積極的に推進している。

延命だけでなくQOL改善も

「積極的緩和治療を広めていきます」と関センター長 「積極的緩和治療を広めていきます」と関センター長

積極的緩和治療とは、がんの化学療法のひとつである抗がん剤の動注療法を緩和ケアに用いることで、積極的に患者さんのがん性症状の緩和を目指すことをいう。

がんと診断がつくと、「がん診療ガイドライン」にのっとって標準治療を実施する。しかし不応不耐の場合は、標準治療を中止し、緩和ケアに移行する場合が多い。

関センター長は、現在の一般的な緩和ケアだけでは患者さんのニーズに対応できない場合があると指摘。「麻薬を含めた薬物療法は、がん性症状緩和に有効な治療法ですが、便秘や倦怠(けんたい)感など副作用に悩みながら、症状が改善しきれないことがあります。また、ガイドラインには積極的に推奨される治療法がないというだけで、がん性症状に苦しみながら生き続ける患者さんもいます」と説明。「大切なのは延命に加え、QOL(生活の質)の向上。患者さんを救済できる方法は、まだあると考えました」と新アプローチ導入を振り返る。

カテーテル治療を行う関センター長 カテーテル治療を行う関センター長

関センター長はビーズ(塞栓材料)を使うがん治療研究の先駆者のひとり。この研究を進めるなか、再発進行がんに対して塞栓術だけでは、がん性症状を抑制するには限界があることに気付いた。

「腫瘍性病変をできるだけ制御しないと、関与するがん性症状を抑えることはできません」(関センター長)。そこで塞栓術と同時に実施可能な抗がん剤の動注療法を、従来より積極的に併用する治療法を開始した。

通常、がんの化学療法では主病変に加え全身の転移、再発を抑制するため、静脈内注射や内服により抗がん剤を全身投与する。一方、標準治療が不応不耐になった段階では完治はすでに難しく、症状緩和を優先するため、関与する腫瘍性病変を特定しやすい。このため積極的緩和治療では、抗がん剤の動注による局所療法を選択する。

抗がん剤の全身投与では、目的の病変に到達する前に濃度が薄まって局所効果が弱まるだけでなく、副作用が出てしまう。動注療法なら特定の腫瘍性病変に限定し、抗がん剤が高濃度な状態で攻撃するため、高い局所効果を発揮し、副作用を抑えることが期待できる。

ビーズ製剤に抗がん剤を含ませ、腫瘍近くに注入 ビーズ治療とは微小な新規塞栓材料であるビーズ(100〜500μm)を腫瘍性病変に対しカテーテルで注入する塞栓術。一部の抗がん剤を腫瘍内で徐放する効力をもつ。2014年2月に保険適用となった。従来の塞栓材料であるゼラチンスポンジ(1〜2mm)に比べると、かなり小さく、腫瘍の中まで入り込み、ドラッグデリバリーシステム(薬剤を狙いどおりに患部に届ける)として使用することもできる。

ビーズ治療と併用することで治療効果が向上。動注療法直後にビーズで動脈を塞栓することで、抗がん剤のウォッシュアウト(薬剤の全身への流出)を低下させるだけでなく、ビーズ自体に抗がん剤を含ませ薬剤溶出性塞栓材料として使用すれば、効果を長期間持続させることが可能になる。

適応としているがん性症状は、がん腫により異なる。たとえば、婦人科がん(子宮体がん、子宮頚(けい)がん、卵巣がん)は骨盤内転移(播種、リンパ節転移、局所再発)が問題になることが多く、がん性疼痛(とうつう)に加え出血やリンパ浮腫を治療対象としている。リンパ浮腫が進行すると足が腫大し歩行困難になるが、関与する腫瘍性病変を制御すればリンパの流れがよくなり、浮腫や痛みが緩和される。これにリンパ浮腫マッサージを加えるとさらに効果は高まる。

自立歩行ができるまでに

動注2日後 動注2日後 マッサージ介入 退院(動注12日後) 浮腫でパジャマも履けず2年間寝たきりの患者さん。動注2日後、左足の浮腫が軽減、リンパ浮腫マッサージを追加することで、さらに改善、自立歩行も可能に

「マッサージだけでは、たまったリンパ液を流出する出口がないため浮腫の改善は不十分。私の治療でリンパの流れを良くしたうえで、緩和ケア病棟の中島静枝・看護師長がマッサージを施す。この方法で、何人ものリンパ浮腫やがん性疼痛に苦しんでいた患者さんが自立歩行できるまで回復しました」と関センター長。

肺がんなら呼吸苦や喀血(かっけつ)の原因となる気管支周辺に位置する縦隔(じゅうかく)肺門リンパ節転移を対象、大腸がんなら全身倦怠感やがん性疼痛を来たし生命に直結する肝転移を対象とすることが多い。

関センター長は、どのような症状を緩和したいのか、治療前に目的を患者さんと必ず共有している。これにより、夏休みに子どもと旅行したい、出血を止めて気兼ねなく外出したいといった具体的な目標が生まれる。「たとえ一定期間でも、がん性症状から解放される意義は大きいです。目標ができれば、がんと向き合う気持ちも生まれてきます」と前置きし、「それ故に、この治療を〝積極的緩和治療〟と呼んでいます」と説く。

がんカテーテル治療センターは、緩和医療科の馬場美華部長と連携を図り運営している。センター開設にあたり、同治療で用いる動注レジメン(治療計画書)を整備。たとえば、卵巣がんならドセタキセル30~40㎎、シスプラチン30㎎など、がん腫ごとに使用する抗がん剤の種類と分量を設定し、3~4週間隔でまずは3サイクルを目標に治療介入を開始する。

抗がん剤の動注療法は化学療法のひとつだが、緩和ケア目的で使用することは「がん診療ガイドライン」にないため、同院の倫理委員会の承認を経て実施している。

まだ新しい治療のため、認知度アップが今後の課題。しかし年々、紹介患者さんも増えてきている。「緩和ケアは単なる終末期医療ではありません。適応患者さんの設定など、まだ手探りの部分はありますが、治療実績を学会などで報告しつつ、今後も〝積極的緩和治療〟の啓発に努めていきたいです」と関センター長は意欲を見せている。

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