産婦人科の病気:婦人科手術
アプローチは腹部と膣からの2通り
婦人科手術のアプローチとしては、腹部からと腟からとの2通りに大別できます。
腹部からのアプローチとして開腹手術と腹腔鏡下手術に分けられます。開腹手術はその名の通りおなかを10㎝以上切開し、手術を行います。下腹部横切開または正中縦切開で行います。縦切開か横切開かは疾患や摘出物の大きさにより決定されます。がんの手術の場合は通常、縦切開になります。
腹腔鏡下手術は主に臍から腹腔鏡というカメラを挿入し、腹部に数カ所の穴をあけて行う手術です。傷が小さいため、早期退院、社会復帰が可能です。腹腔鏡下手術は基本的に子宮筋腫や卵巣嚢腫など良性疾患が対象となりますが、初期の子宮体がんについては骨盤リンパ節郭清に限定されますが、2014年より基準を満たした施設に関して保険適応となっています。
腟からの手術(腟式手術)にもさまざまな手術があります。腟式に子宮摘出することも可能です。子宮頚部異形成、子宮上皮内がんでは子宮頚部のみ一部摘出する円錐切除術があります。子宮鏡という内視鏡を用いた子宮鏡下手術では子宮の内側面にある子宮筋腫やポリープを摘出することができます。子宮脱や膀胱瘤のような骨盤臓器脱に対して腟式にメッシュを挿入したり、腟壁を骨盤の靭帯に固定するなどしてもとの位置に押し戻すような手術もあります。
- 子宮全摘術(開腹・腹腔鏡下・膣式)
- 子宮全部を摘出する手術です。卵巣、卵管は必要に応じ、摘出、温存選択できます。良性疾患であれば子宮筋腫、子宮腺筋症などが対象となります。子宮の癌の場合も摘出になりますが、疾患や状態で(準)広汎子宮全摘術が必要となります。子宮摘出後、膣断端縫合しているので、性行為は膣断端の治癒が落ち着くまで控える必要があります。
- 腟上部切断術(開腹・腹腔鏡下)
- 子宮亜全摘ともいわれています。子宮頸部を残し、体部のみ摘出する手術です。子宮筋腫など良性疾患が対象です。産後多量出血のため、子宮摘出しなければならないときにも行われることがあります。子宮摘出より手術としては簡便で費用も安いなどのメリットはあります。ただ、子宮頸部が残るので子宮頚がんになる可能性はあり健診は必要です。
- 子宮筋腫核出術(開腹・腹腔鏡下)
- 子宮筋腫のみ核出し、子宮は温存する手術です。筋腫の個数や大きさによりますが腹腔鏡下手術も可能です。子宮筋腫が大きい場合やたくさんある場合は出血が多くなることがあります。そのため、ホルモン療法(偽閉経療法)をすることで筋腫を小さくし、子宮への血流を減らすことで手術中の出血量を減らしたり、手術前に自己血を貯血し、多量出血時に備えるなどの対応をすることがあります。筋腫を腹腔鏡下手術で核出する場合、筋腫を腹腔内から取り出すためにモルスレーターという筋腫を細断する機械を使用することがあります。筋腫ではなくがんである肉腫であった場合、がん組織が腹腔内に散らばる可能性があるため、注意が必要です。
- 子宮鏡下筋腫核出術
- 子宮の内側に飛び出た粘膜下筋腫に対して膣式に子宮鏡を用いて核出する手術です。おなかを切らないので日帰りを含めた早期退院が可能です。粘膜下筋腫を摘出することで生理時の出血量を減らしたり、不妊症の原因となっている子宮筋腫を摘出することができます。子宮筋腫の大きさや飛び出し具合により一部筋腫が取りきれないことがあります。
- (準)広汎子宮全摘術(開腹・腹腔鏡下)
- 子宮悪性腫瘍、主に子宮頚がんに対して行われる手術です。子宮頸部の周りの組織も摘出するため、子宮全摘術と比べ、手術時間や出血量が多くなります。また、膀胱への神経を傷つけることが多く、術後、排尿障害が起きる可能性が高まります。フォーリーカテーテルという管を膀胱に数日間留置することが多いです。その後、自分で排尿できるか確認し、排尿障害ある場合は自己導尿が一時的に必要になります。
- 卵巣嚢腫摘出術(開腹・腹腔鏡下)
- 卵巣嚢腫のみ摘出し、卵巣は温存する手術です。基本的に良性の卵巣腫瘍に対して行われる手術です。近年は主に腹腔鏡下手術で行われています。卵巣を温存できるメリットがありますが、腫瘍の再発の可能性もあります。
- 付属器摘出術(開腹・腹腔鏡下)
- 卵巣、卵管を摘出する手術です。卵巣がん、卵巣境界悪性腫瘍で行われます。良性卵巣腫瘍でも卵巣温存希望のない方や閉経後の方、巨大卵巣腫瘍で子宮温存が困難な方に行われます。良性腫瘍に関しては主に腹腔鏡下手術で行われています。
- 円錐切除術
- 子宮頚部異形成、子宮上皮内がんなどに対して、子宮頸部を一部摘出する膣式に行う手術です。摘出した頚部を病理検査に出すことでより正確な子宮頸部病変の診断ができる検査の一面もあります。子宮頚部異形成、子宮上皮内がんでは完全摘出することで治療することも可能です。頚部を一部摘出するため、今後、妊娠を希望する方の場合、妊娠中に頸管無力症、切迫流早産のリスクが通常より高くなります。
- リンパ節郭清術(開腹・腹腔鏡下)
- 子宮頚がん、子宮体がん、卵巣がんなどの悪性腫瘍の手術時にリンパ節への転移がないか調べるため、摘出手術を行います。子宮、卵巣周囲の骨盤リンパ節から必要に応じ、傍大動脈リンパ節まで郭清術が行われます。リンパ節転移が認められた場合、術後に追加治療として抗がん剤や放射線治療が行われることが多いです。