病気の治療
medical treatment
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肝硬変になると肝臓が萎縮・硬化し、肝臓の血流が減少します。すると、肝臓に血液・栄養物を運ぶ門脈(静脈)の圧が上昇します(門脈圧亢進)。門脈圧が25cmH2O(通常は8~13 cmH2O)を超えると、門脈と上大静脈系の間に側副血行路が形成され、それが胃上部や食道粘膜下層から盛り上がって拡張・怒張します。これが食道・胃静脈瘤です(図、1、2)。
図1 食道静脈瘤
図2 胃静脈瘤
門脈圧亢進をきたす疾患で最も多いのは、肝硬変です。肝硬変の原因には、肝炎ウイルス、自己免疫疾患、アルコール多飲などが挙げられます。その他には、特発性門脈圧亢進症、バッド・キアリ症候群、慢性膵炎、肝がん、膵がんなどがあります。
多くは無症状ですが、胸のつかえ感などを認める場合もあります。食物、胃液による刺激により破裂・出血した場合は、新鮮血あるいは暗赤色の吐血がみられます。
検査はX線造影検査(バリウム検査)、上部消化管内視鏡検査などがあります。内視鏡検査で、青色、連珠状、発赤所見(Red Color sign;RC sign)陽性の静脈瘤は、出血の危険があります。
静脈瘤出血に対して行う緊急的治療と、出血が落ち着いてから行う待機的治療、未出血例に行う予防的治療に分けられます。治療には以下の方法がありますが、内視鏡的治療が一般的です。
硬化療法(EIS)と結紮術(EVL)があります。硬化療法は、内視鏡で静脈瘤を確認しながら注射針を用いて穿刺し、硬化剤を注入し血栓化させて静脈瘤を固める方法です(図3、4)。
図3 静脈瘤硬化療法:血液の逆流を確認して硬化剤を注入します
図4 静脈瘤硬化療法:X線で硬化剤の注入を確認します
結紮術は、内視鏡の先端にO-リングという輪ゴムを装着し、静脈瘤を吸引しながら根部をゴムで縛り、血流を途絶させる方法です。結紮術は緊急時の止血術にも多用され、比較的簡単ですが再発が多いのが欠点です(図5、6)。
図5 静脈瘤破裂・出血
図6 緊急内視鏡的結紮術:止血成功しました
カテーテルを用いて胃静脈瘤に硬化剤を注入する、バルン閉塞下逆行性経静脈的閉塞術(B-RTO)と、肝静脈と肝内門脈の間にステントを挿入して門脈圧を低下させる、経皮的肝内門脈肝静脈シャント(TIPS)という方法があります。
食道を離断、再縫合する食道離断術などがあります。
門脈圧を下げる効果のある、バソプレシン、β遮断薬、亜硝酸薬、アンギオテンシン受容体拮抗薬などが有効な場合があります。
緊急時の止血には、内視鏡的静脈瘤結紮術(EVL)が行われることが多いですが、全身状態が不安定な場合や、内視鏡治療のできない環境では、S-Bチューブによる圧迫止血法が行われます。
肝硬変の三大死亡原因は、肝不全、肝がん、静脈瘤出血です。予防的治療をしすぎると肝臓への負担が増大し、肝不全(黄疸・腹水・肝性脳症など)に陥ることもありますし、逆に静脈瘤を放置して破裂・出血すると、失血死や吐血に伴う窒息で命を落とすこともあります。仮に止血できたとしても、出血している間は肝臓への血流が低下するため、肝不全が進行したり、出血した血液の消化吸収により体内のアンモニア濃度が上昇し、肝性脳症を起こす危険性もあります。
図7 内視鏡的治療後:静脈瘤がほとんどなくなりましたアルコールが原因の肝硬変では、禁酒が絶対条件ですし、ウイルスが原因の肝硬変では、抗ウイルス治療が必要です。食道・胃静脈瘤の治療は、併存する肝硬変等の疾患を考慮し、両者のバランスを保ちながら治療を行うことが大切なのです(図7)