2018年(平成30年)2月26日 月曜日 徳洲新聞 NO.1122 一面
NPO法人TMAT
ロヒンギャ難民キャンプ調査
バングラデシュに隊員派遣を検討
主に国内外の大規模被災地で医療支援活動に取り組んでいるNPO法人TMAT(徳洲会医療救援隊)は、1月中旬から約1週間、バングラデシュを訪れ、ミャンマーの少数派イスラム教徒であるロヒンギャの難民キャンプを調査した。現地の医療ニーズや治安・生活環境、TMATとしてどのような役割を果たせるかを調べた。調査結果をふまえ、国際医療協力の一環として隊員派遣の可否を検討する。派遣を決定した場合、TMATとして初めて難民への医療支援に取り組むことになる。バングラデシュでの活動自体もTMATとして初。
女性・子ども・高齢の患者さん多く
コックスバザール県のクトゥパロンにあるロヒンギャ難民キャンプ
ロヒンギャはミャンマー西部のラカイン州を根拠地とする少数派イスラム教徒。同国の多数派である仏教徒から、歴史的な背景などにより迫害を受け、隣国のバングラデシュに流入、同国南部のコックスバザール県にある難民キャンプでの生活を余儀なくされている。
ロヒンギャの難民問題は1990年代からあり、当時から数万人規模の難民キャンプが同県につくられていた。徐々に増加し、約20万の難民が存在していたが、昨年8月にラカイン州で大規模な衝突があり、大量の難民が発生。新たに発生した難民の数はUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)によると68万8000人(2月5日時点)。
右から野口・事務局員、菅波代表、山本教授、AMDA Bangladesh スタッフ
今回、TMATからバングラデシュを訪問したのは、野口幸洋・事務局員兼ロジスティクス統括(一般社団法人徳洲会係長)。1月17日に日本を発ち、首都ダッカの国際空港から入国。翌18日に難民キャンプがあるコックスバザール県に国内線航空機で入り、22日まで調査などを行い、23日に出国、帰国した。
今回の調査は、岡山県に本部を置き国際的な医療支援活動を展開する国連総合協議資格をもつNPO法人AMDA(アムダ)の協力により実現。AMDAはバングラデシュに支部(AMDA Bangladesh)があり、同支部の母体である日本バングラデシュ友好病院などの支援を得て、昨年10月から難民キャンプでの医療支援活動に取り組んでいる。同院院長で同支部長であるナイーム医師は、以前に徳洲会グループと交流があり、今回のスムーズな連携が実現した。
AMDA Bangladesh が開設する仮設診療所
同支部の活動に協力する形でTMATの派遣が可能かどうかという視点から、AMDAが仮設診療所を開設しているクトゥパロンというエリアを中心に調査。同県の市街地から車で1時間半程度の距離だ。難民キャンプは同県内に16のエリアに分かれ存在し、クトゥパロンは最大規模。野口・事務局員は菅波茂AMDA代表、長崎大学熱帯医学研究所の山本太郎教授と行動をともにした。
現地調査入りの発端は昨年10月にさかのぼる。菅波代表とTMATの福島安義理事長(一般社団法人徳洲会副理事長)が、国内外の災害医療に関する連携について意見交換をするために面談。その際、菅波代表からロヒンギャ難民支援に関し、すでにAMDAの支部が活動を開始しているとの話があり、長期的な支援を行うためTMATとの連携について提案が出た。
小児の診察を行うAMDA Bangladesh の地元医師
菅波代表自身の現地入りが、この時点で決まっていたことから、TMATも同行し調査を行うことになった。
「昨年8月の大規模な衝突後、緊急的な医療ニーズが増えているという情報を得て、TMATとして、できることがあるか模索していました。ただし災害医療支援と異なり、赤十字などを除くバングラデシュ国外の団体が、同国政府から許可を得て活動するのはハードルが高く、また急性期医療よりも、難民キャンプ生活のなかでの内科的な医療提供や支援活動の長期化など、TMAT単独での活動の難しさも感じていました。そうしたなか、すでに現地で始動していたAMDAと連携する形で、支援を検討する機会を得ました」(野口・事務局員)
仮設診療所内の様子
AMDA Bangladeshの仮設診療所は、難民の住居が建ち並ぶ沿道の一角にある。支援者のバングラデシュ人の医師2人、助産師1人、薬剤師1人と、地元ボランティア2人、ロヒンギャ難民のボランティア1人、AMDABangladeshスタッフの診療所コーディネーター2人の計9人で運営。バングラデシュではイスラム教の信徒が多いため、同教の安息日である金曜日を除く毎日、午前9時から午後2時30分頃まで診療所をオープンしている。
野口・事務局員は「患者さんの多くは女性や子ども、高齢者という印象でした。1日平均120人程度が訪れ、外科的な医療ニーズはほとんどなく、主訴は感冒症状、発熱、消化器症状、皮膚症状が多く、妊婦さんの姿もありました。ロヒンギャ難民が話す言葉はバングラデシュの言語であるベンガル語の方言であるため、バングラデシュ人でも通訳が必須。このため医療支援を行ううえで言葉の問題は大きな課題になると感じました」と現地の状況を伝える。
TMAT活動年表
1995年 |
1月 |
阪神・淡路大震災 |
5月 |
サハリン大地震 |
1999年 |
9月 |
台湾921地震 |
2004年 |
10月 |
新潟県中越地震 |
12月 |
インドネシア・スマトラ沖地震 |
2005年 |
3月 |
福岡県西方沖地震 |
10月 |
パキスタン地震 |
2006年 |
2月 |
フィリピン・レイテ島地滑り災害 |
5月 |
インドネシア・ジャワ島中部地震 |
2007年 |
3月 |
能登半島地震 |
7月 |
新潟県中越沖地震 |
2008年 |
5月 |
ミャンマー・サイクロン災害 |
5月 |
中国・四川大地震 |
6月 |
岩手・宮城内陸地震 |
7月 |
岩手県沿岸北部地震 |
2010年 |
1月 |
ハイチ大地震 |
2月 |
チリ地震 |
4月 |
中国・青海省地震 |
10月 |
奄美豪雨災害 |
2011年 |
3月 |
東日本大震災 |
10月 |
トルコ東部地震 |
2013年 |
11月 |
フィリピン中部台風災害 |
2015年 |
4月 |
ネパール大地震 |
9月 |
茨城・常総市鬼怒川決壊 |
2016年 |
4月 |
熊本地震 |
10月 |
ハイチ・ハリケーン被害 |
2018年 |
1月 |
バングラデシュ・難民キャンプ調査 |
※NPO 法人化以前も含む
外国人医療支援者の活動許可についてもクリアすべき課題が多く、医薬品などは外国からの持ち込みが厳しく規制され、原則、バングラデシュ国内の医薬品などだけを使用することになっている。
難民キャンプの状況のほか、治安や滞在施設、交通、インフラなど隊員派遣の検討に必要なあらゆる情報を収集。AMDA Bangladeshスタッフとのミーティングも行った。AMDA Bangladeshは少なくとも1年間は活動を継続する意向だ。
バングラデシュでは2016年7月にダッカのレストランでテロ事件があったこともあり、セキュリティが強化されていた。今回の調査により支援活動を行ううえで治安的問題はないと判断した。
野口・事務局員は「食糧は国連機関の支給物資のみで栄養状態はあまり良くないと聞きました。難民キャンプでの長期生活は厳しい環境です。一定の医療ニーズを確認してきましたが、雨季(4月頃~)に入ると環境は悪化し医療ニーズの増加が予想されます」とみている。TMATは今後、AMDAと協議し、隊員派遣の検討に入る予定だ。