2017年(平成29年)10月23日 月曜日 徳洲新聞 NO.1105 一面
修復腎移植
透析患者さんに新たな治療の道
先進医療へ「条件付き適」
厚生労働省は10月19日、第63回先進医療技術審査部会を開き、東京西徳洲会病院(東京都)が申請した修復腎移植術について審議、同移植術を先進医療に条件付きで適用することを決めた。これを受け徳洲会グループは、同部会で出された条件をクリアし、同移植術への先進医療の正式適用を目指す。国内では約32万人の腎臓病患者さんが透析治療を受けており、うち約1万2000人が腎移植を希望しているが、腎移植待機期間は平均15年と長く、その間、多くの透析患者さんが亡くなっている。同移植術への先進医療適用により、新たに治療の選択肢が増えることは、透析患者さんにとって朗報と言えよう。
徳洲会は条件クリアし適用目指す
審議する先進医療技術審査部会のメンバー
修復腎移植術とはドナー(臓器提供者)の腎臓に発生した小径(直径7㎝以下)がんを切除した後、同腎臓を修復、レシピエント(臓器移植者)に移植する治療技術。修復腎移植術が先進医療に適用されることで、患者さんは保険診療(診察料・検査料・投薬料・入院料など)と保険外診療(先進医療技術部分)を併用し治療(混合診療)を受けることができる。
また、今後は大学病院などの医療機関が同移植術を実施する可能性も広がると同時に、将来的に保険診療に適用される道も開かれることになる。
徳洲会グループは2009年12月から同移植術を臨床研究として実施、これまで第三者間の移植を13例、親族間を含めると18例の移植を行い、おおむね良好な成績を収めている。親族間では、今年3月15日に5例目を実施、目標例数を達成し、臨床研究を終了した。
今月19日の先進医療技術審査部会では、まず同移植術に関して「先進医療を実施可能とする保険医療機関の要件として考えられるもの」を読み上げた。
これに対し、部会構成員や専門技術委員から「実施責任医師に専門医や認定医を入れるべき」、「症例は一例ごと精査すべき」などさまざまな意見、要望が出された。
なかでも多くの時間を費やして議論されたのがレシピエントの選定。内視鏡下手術支援ロボットを用いた手術など治療技術の進歩により、小径腎がんは部分切除し治療することが第一選択とされており、全摘した腎臓を使う同移植術ではレシピエントの選定を慎重に考えなければいけないという指摘があった。また、第三者組織のレシピエント判定委員会の設置の有無を含め、設置する場合は委員を全国から募ることや、修復腎移植検討委員会に関係学会の会員を入れること、5例目までをめどに同部会が監査することなどの声が上がった。同部会は「懸念されているような事項は、条件を付けることで解決できると判断する」と総括し、先進医療への条件付き適との結論で一致した。
「早く先進医療として治療開始してほしい」
先進医療技術審査部会を傍聴する安富祖・副理事長(左)と小川センター長
これを受け、傍聴に訪れていた患者団体の会員は「長らく待ったかいがありました。早く先進医療として治療を開始してほしいです」と笑顔を見せた。
一般社団法人徳洲会の安富祖久明・副理事長は、「修復腎移植術が先進医療として認められるということは、『技術』として認められるということです。腎移植を待っている患者さんに新たな道ができました。今後、徳洲会グループ以外の医療機関でも同移植術が実施される可能性があります」と展望。
さらに、「現在、小径腎がんの第一選択は部分切除ですが、それが厳しいと判断した場合は腎全摘を選択します。治療成績をしっかりと評価し、運用していきたいと考えています」と話し、グループ内の泌尿器部会で検討する意向を示した。
また、修復腎移植臨床研究責任者である小川由英・東京西徳洲会病院腎臓病総合医療センター長は、「条件付きながら『適』をいただきました。これもひとえに腎移植を待っている患者さんの熱意が委員の先生方に伝わったのだと思います。『患者さん第一』という徳洲会の理念に基づき、条件をクリアし、その熱意に応えていきたいです」と意気込みを見せた。
小川センター長は今後の同移植術の啓発活動の重要性も指摘。「今後、修復腎移植の先進医療適用により、恐らく腎臓がんになった患者さん側から腎臓を提供したいという声も出てくるのではないでしょうか。これからが本当の意味での修復腎移植のスタートです。腎移植待機患者さんの力になっていきたいと思います」と意欲を示した。
腎移植待機患者さんは1万2000人に上る
現在、国内では約32万人の腎臓病患者さんが透析治療を受けており、毎年、新たに約3万人が透析治療を導入する一方、約2万人の透析患者さんが亡くなっている。こうした透析患者さんのうち約1万2000人が腎移植を希望しているが、心臓死や脳死ドナーからの献腎移植は年200例前後にとどまっているのが実情。
腎移植待機期間は平均15年と長く、その間に亡くなる透析患者さんが多いことから、同移植術はドナー不足解消の決定打となり得る。小径がんを摘出した腎臓は年2000例と推計されることから、透析患者さんから同移植術への先進医療適用に大きな期待が寄せられている。
なお、海外では100例を超す同移植術の報告があり、また、WHO(世界保健機関)のガイドラインでは小径腎がんを、がんの伝播リスクが低いカテゴリーとして分類。徳洲会グループが実施した同移植術全例で、がんの再発がないことと合致している。
海外の同移植術に関する研究では、透析患者さんより、腎移植患者さんのほうが8年長く生存しているという報告があり、献腎を待つよりも、同移植術を受け入れることで、QOL(生活の質)の向上と延命が期待できる。
小川センター長は「小径がんを発症した腎臓を捨てることは、もったいないと思います。循環型エコ社会の構築を目指す世界的な運動である“モッタイナイ・キャンペーン”と、修復腎移植はマッチしています」と話している。
これまでの臨床研究の経過
第35回徳洲会グループ共同倫理委員会は2009年7月、修復腎移植の第三者間の臨床研究を審議し、条件付きで承認。その後、米国のClinicalTrials.gov(国立国会図書館内)、日本の大学病院医療情報ネットワーク(UMIN)、日本医師会の治験促進センターに登録後、10月から同研究のレシピエント登録を開始し、現在までに118人が修復腎移植を希望し登録。
09年12月30日に1例目(第三者間)、10年3月3日に2例目(親族間)、4月6日に3例目(第三者間)、27日に4例目(第三者間)の修復腎移植を実施。この間、5月16日に2例目(親族間)の患者さんが死亡する有害事象が発生し、6月8日から臨床研究を一時中断して、原因追究と厚生労働省への報告などを実施し、7月16日に再開。その後、24日に5例目(第三者間)、8月24日に6例目(第三者間)を実施。
10月20日の第50回同委員会で、第三者間について5例目までの実施状況を報告し、これまでの5例からさらに5例追加し10症例ついて承認を得た。
その後、11年1月12日に7例目(第三者間)、30日に8例目(第三者間)、6月1日に9例目(第三者間)、9月14日に10例目(第三者間)、12年2月13日に11例目(第三者間として10例目)を実施。
5月16日の第70回同委員会で、第三者間について10例目までの実施状況を報告し、さらに10例追加で20例について承認を得た。さらに8月8日に12例目(親族間)、10日に13例目(第三者間)、13年3月29日に14例目(第三者間として12例目)を実施。
6月5日の第85回同委員会で、第三者間移植に関する実施期間の延長を承認(16年まで)。14年11月の第104回同委員会で、親族間移植に関する実施期間の延長を承認(16年まで)。15年3月18日に15例目(親族間として3例目)、7月8日に16例目(親族間として4例目)を実施。さらに12月4日に17例目(第三者間として13例目)を実施。
16年2月15日の第24回同委員会迅速審査で、親族間移植に関する実施期間の延長を承認(19年5月まで)。17年3月15日、18例目(親族間として5例目)を実施。
先進医療申請の経緯
病気腎(小径腎腫瘍)を用いた修復腎移植術(第三者間)の研究について、2011年10月31日に中国四国厚生局四国厚生局愛媛事務所を通じ先進医療申請。その後、書類不備との指摘を受けたために申請内容の見直しを行い、12年6月20日に再度申請。
その結果、8月23日開催の第67回先進医療専門家会議で先進医療の定義の再確認と、修復腎移植の審査での留意すべき問題点などについて指摘を受け、研究実施計画書を修正。
16年8月25日開催の第46回先進医療技術審査部会で追加の指摘を受け、継続審議。また4月に「ロボット支援腹腔鏡下腎部分切除術」が保険適用となった状況をふまえ、当該部分切除の対象となる腎がんを同研究の対象から除外するなど見直しを行い、17年3月16日開催の第55回同部会で審議されたが、追加の指摘を受け継続審議。
17年10月19日の第63回同部会で、前回追加で受けた指摘事項について、主に主要評価項目であるレシピエントの腎生着率の評価期間を術後1年から術後5年に延長、早期無効中止を想定した中間解析を設定し、それに伴い目標症例数を40例から42例に変更し、審議され、条件付き適を得た。