2017年(平成29年)9月25日 月曜日 徳洲新聞 NO.1101 一面
石井・古河病院消化器科医師
大腸憩室出血治療で論文発表
米国消化器内視鏡学会誌に掲載
古河病院(茨城県)消化器科の石井直樹医師は、米国消化器内視鏡学会(ASGE)のオフィシャルジャーナルである『Gastrointestinal Endoscopy』に投稿した論文がアクセプト(採択)され、同誌に掲載されることになった。石井医師は消化管全般の内視鏡治療を専門とし、大腸憩室出血の新しい止血法である内視鏡的バンド結紮(けっさつ)術(EBL)の第一人者だ。論文タイトルは「大腸憩室出血に対する内視鏡治療の系統的レビューおよびメタ解析」。同院の福江眞隆院長との対談を通じて紹介してもらった。
3種類の治療法を比較検討
福江院長(左)と石井医師
福江院長:まず論文のテーマを教えてください。
石井医師:大腸憩室出血の主な治療法は、凝固法、クリップ法、結紮法の3種類あります。どの方法の治療成績が優れているかを比較検討しました。
福江院長:なぜそのような研究を?
石井医師:この3種類を比較検討したランダム化比較試験(被験者をランダムに治療群と対照群に分けて試験を実施)は世界でも実施例がありません。治療法を選択する際の判断基準に関してエビデンスレベル(科学的根拠の強さ)の高い研究事例がなかったため、今回の研究を行いました。
福江院長:具体的にはどのような方法で比較検討したのですか?
石井医師:大腸憩室出血は救急領域の疾患であり、前向きの介入研究は難しいことから、過去の観察研究の系統的レビュー(網羅的な文献調査)を行い、約1,200本の論文から適切と判断した16本の論文のメタ解析(複数の研究結果の統合分析)を行いました。
福江院長:結果は?
石井医師:評価項目は①初回止血効果、②再出血率、③動脈塞栓率もしくは外科手術への移行率の3点です。結果は結紮術が最も優れていました。詳しく言うと③は統計的な有意差があり、②の再出血率は結紮術が最も低いという結果が出たものの、①、②ともに統計的な有意差は出ませんでした。ランダム化比較試験がないなかで、観察研究の系統的レビュー及びメタ解析という研究デザインの下、この研究テーマでは最もエビデンスレベルの高い成果を、消化器内視鏡領域のリーディングジャーナルに発信できたことに意義があると考えています。
消化器センター開設を構想
古河病院の消化器内視鏡チーム
対談後、福江院長は「今後、体制をさらに充実させ、消化器センターの立ち上げを構想しています。地域の消化器診療の拠点となることを目指しています」と意欲を見せ、石井医師は「日常診療のクリニカルクエスチョン(診療上の疑問)を大切にし、それを克服するとともに情報発信を行っていきたい」と抱負を語った。
また、同院の堀井勝徳事務長は「消化管出血に対する高い内視鏡治療技術によって、当院では、より幅広い救急症例への対応が可能になり、救急搬送の受け入れ幅も広がっています」と話している。
なお、WEB版の『Gastrointestinal Endoscopy』に論文の一部が先行して掲載されたほか、世界的な医学雑誌『The New England Journal of Medicine(NEJM)』を発行するNEJMグループが、主要な医学雑誌の最新論文のなかから重要な情報を紹介する『NEJM Journal Watch』で取り上げるなど注目を集めている。