2017年(平成29年)8月7日 月曜日 徳洲新聞 NO.1094 四面
名古屋徳洲会総合病院
TAVI2年で50例突破
緊急外科手術への移行ゼロ
名古屋徳洲会総合病院は経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)の治療実績が50例を超えた。2015年8月に開始して以来、2年間で達成。同治療法は重症大動脈弁狭窄(きょうさく)症(AS)のうち、体力的に外科療法(開胸手術)が困難な高齢患者さんなどを対象にしている。同院では、これまでTAVI治療中の合併症による緊急外科手術への移行はない。
TAVI 50 例達成で記念撮影するハートセンターのスタッフら
50例目のTAVIを実施したのは6月29日。これまでで最も難易度の高い症例だったが、治療中の合併症なく終了した。オペレーションを担当した名古屋病院の田中昭光ハートセンター長は「50例目も笑顔で終われて良かったです。2年間で育んだチームワークがあってこそだと思います」と笑顔を見せた。
TAVIが2013年10月に保険適用される以前、重症ASの根治療法は大動脈弁置換術(AVR)のみ。同手術は胸部を切開し、人工心肺装置で血液の体外循環を確保したうえで、機能しなくなった大動脈弁を切除し人工弁を縫い付ける。ただし侵襲の大きさにより、高齢の方や全身状態の悪い患者さんには実施困難な場合があった。
一方、TAVIは折りたたんだ生体弁(生体組織を利用した弁)を付けたカテーテルを挿入、生体弁の開く力で硬化した大動脈弁を挫滅し、そこに押し付ける形で留置する。開胸も心肺を止める必要もなく、低侵襲なことが最大の特徴。AVRを断念していた患者さんも治療適応となる。
「TAVI は役割分担の医療」と田中センター長
同院は15年7月にTAVI実施施設の認定を取得し、同年8月から保険診療を開始。この2年間、術中合併症による緊急外科手術への移行はなく、術後も心タンポナーデ(心外膜の間に液体が大量に貯留し、心臓の拍動が阻害された状態)、脳梗塞などの合併症はない。「7月1日に日本循環器学会東海地方会で治療成績を報告しましたが、参加者の反応からも、当院の良好な成績には自信がもてます」と、田中センター長は胸を張る。
この治療成績の実現には同院の4つの特徴が寄与している。まず、一人ひとりの患者さん用に手順書をつくり、治療にかかわるスタッフ全員で全体の流れを共有している。TAVIはオペレーター(循環器内科医)だけでなく、心臓血管外科医、麻酔科医、看護師、臨床工学技士、診療放射線技師など、多職種がかかわり協働作業により治療を進める。このためスタッフ全員が治療内容を把握することで、スムーズかつ安全な治療ができる。
2つ目は心エコーを専門に診る医師がいること。心エコーを映しながら手技を行うTAVIは、画像上で状態の変化に早く気付くことが、術中合併症の予防につながる。同院では海外でTAVIの経験豊富な心エコー医を招いている。
3つ目は、さまざまなアプローチ法に対応できることだ。TAVIは大腿(だいたい)部からアプローチするのが一般的だが、血管が曲がっていたり血栓(プラーク)がたまっていたりすると合併症のリスクが高くなる。この場合、心尖(しんせん)部(心臓の倒円錐形の先端部分)からアプローチするが、これは外科的な技量が必要になる。同院では、難易度の高い治療を行う際には、大阪大学大学院の倉谷徹・低侵襲循環器医療学教授に指導を依頼し、盤石の布陣で臨むようにしている。
TAVI には10人以上のスタッフがかかわる
最後に、2つの生体弁の選択が可能なことが挙げられる。これまではサピエンという生体弁が主流だったが、16年1月からコアバルブという生体弁が保険適用となった。コアバルブは、致死率の高い合併症である弁輪破裂が起こりにくい、置換する位置がずれてもやり直せるなど特徴がある。同院では16年3月からコアバルブを利用し始め、患者さんの状態に応じて使い分けている。
「アプローチ法もデバイス(道具)も、患者さんに合わせてさまざまな選択肢を用意し、それに対応できるだけのスキルがあります。しっかりシミュレーションしたうえで治療に臨んでいるのが良かったのだと思います」(田中センター長)。
患者さんの7割以上は紹介患者さん。周辺の医療機関への説明会、月1回程度の一般向けの医療講演など田中センター長はピーアールにも精力的。「まだ歴史の浅い治療法だけに、患者さんだけでなく、医師への啓発活動も大切だと思います」。
今後はオペレーターを増やすため、大阪大学医学部附属病院にも協力を得ながら研修を行っている。看護師、臨床工学技士などもつねに固定メンバーではなく、何人かが同じレベルで対応できるよう部内で知識や経験を共有し始めている。
「心臓弁のカテーテル治療はデバイスがどんどん進化しています。つねに〝その先〟を見据えて、ハートチーム全体で積極的に取り組んでいきたいと思います」と、田中センター長は意欲的だ。