2017年(平成29年)8月7日 月曜日 徳洲新聞 NO.1094 三面
国立保健医療科学院
超早期がんを発見
水島センター長
血中mRNA解析
「超早期がんの兆候を捉えることが可能になりつつあります」と水島センター長
国立保健医療科学院研究情報支援研究センターの水島洋センター長は「血中RNAを用いた新しい診断法の開発と健康指標への応用」をテーマに講演した。RNAは細胞内でタンパク質の合成に関与しているリボ核酸で、なかでも遺伝情報であるDNA(デオキシリボ核酸)の転写物質をm(メッセンジャー)RNAという。
水島センター長は血中のmRNAを用い、長寿(サーチュイン)遺伝子や、がん関連遺伝子の発現量を調べることで、その時点での健康状態を知ることができる検査方法の開発に携わった。徳洲会グループでは湘南鎌倉総合病院(神奈川県)が同検査を導入。mRNA解析は遺伝子解析技術の高度化と普及により近年、登場した新しい検査で、予防医療の観点から注目を集めている。
「DNA解析は個人の遺伝的な体質を調べるもので、検査結果は基本的に生涯変化せず、生活習慣を改善しても変えられません。一方、mRNA解析の結果は、その時々の体調で変化します。DNAとmRNAの違いは、“体質”と“体調”の違いと言い換えられます。mRNAを解析することで、がんマーカー(生体指標)や画像検査に変化が現れる前に、超早期がんの兆候を捉えることが可能になりつつあります」
これまでの検査事例では、がん検診でわからなかったがんを見つけ、1年後の精密検査で実際にがんの発見につながった事例もあったという。水島センター長は、mRNA検査は単発ではなく、初回検査後に生活を見直し、それがどの程度影響を与えたのかなどを確認するために、複数回実施する利用の仕方が望ましいと指摘した。
「その時点での健康状態を反映するので、mRNAは健康度の指標として用いることもできます。病気になる前の体調変化を“未病”といいますが、病気に近い健康なのか、それとも本当に健康なのか、その指標になり得ます。指標に応じ生活習慣改善の動機付けなどのツールにもなります」
水島センター長は疾患ごとの遺伝子発現パターンによる新たな視点での疾患分類や、難病・希少疾患治療への応用などmRNA活用の展望を提示。また、オミックス(生体分子の網羅的情報)データ解析や、mRNAの発現調節に関与するマイクロRNAに着目した研究のさらなる進展に期待を寄せた。