徳洲会グループ TOKUSHUKAI GROUP

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Tokushukai medical group newspaper digest

2017年(平成29年)5月15日 月曜日 徳洲新聞 NO.1082 四面

MRガイド下集束超音波
パーキンソン病治療に奏功
湘南藤沢徳洲会病院が国内初

湘南藤沢徳洲会病院(神奈川県)は4月25日、MRガイド下集束超音波治療(MRgFUS)の臨床研究で、振戦優位型のパーキンソン病患者さんを治療、症状の軽快を認めた。同研究は3月14日の本態性振戦(自分の意思と関係なく手や首が震える疾患)の患者さんから始まり、今回で4例目(前3例はいずれも本態性振戦)。振戦優位型のパーキンソン病患者さんを同装置で治療したのは日本初。

平教授の指導の下、病室で患者さんに専用フレームを付ける伊藤部長(右から2 番目)ら 平教授の指導の下、病室で患者さんに専用フレームを付ける伊藤部長(右から2 番目)ら

MRgFUSはMRI(磁気共鳴画像診断装置)と超音波装置を組み合わせた治療法で、MRIでリアルタイムに患部の位置と温度をモニタリングしながら、1024本の超音波を集束、患部を焼灼(しょうしゃく)する。昨年12月に本態性振戦の治療用医療機器として薬事承認を受けるなど、難治性神経疾患の新しい治療法として注目を集めている。

穿頭(せんとう)手術(頭蓋骨に小さい孔を開ける手術)をすることなく治療できるため、外科的侵襲や感染のリスクが低いのが特徴。治療効果をすぐに確認できることから、治療の安全性、確実性が高く、早期の社会復帰が可能だ。ただし実施には十分な知識と技術が求められる。

標的可能部位は約2㎜ときわめて小さく、精度の高い焼灼をするために患部の位置決めが重要となる。また患部の温度が54度以上にならないと治療効果が出にくく、64度を超えると出血などリスクが高まるため、術前術中のMRIでのモニタリングを正確に行わなければならない。

事前検査でSDR(頭蓋骨密度比)が低い(綿のように頭蓋骨内の骨密度がまばらな状態)と、超音波が通過しにくく、温度が上がりきらないことがある。この場合、何度も超音波を照射するが、患者さんへの負担が高くなるだけでなく、思うように治療効果が得られないこともある。とくに東洋人は頭蓋骨が厚くSDRが低い傾向にあるため、適用する症例を見極めなければならない。

5 回目の照射を終えたところで患者さんに手首を回してもらって運動障害の評価を行う 5回目の照射を終えたところで患者さんに手首を回してもらって運動障害の評価を行う

湘南藤沢病院は同装置を昨年11月に導入し、今年から臨床研究を開始。本態性振戦に加え、日本では薬事未承認ながら海外で治療成績が報告されていることからパーキンソン病も対象としている。本態性振戦10例に加え、振戦優位型のパーキンソン病10例、ジスキネジア(不随意運動の一種)を呈しているパーキンソン病10例を予定(被験者を募集中)。

3月14日に本態性振戦の患者さんにMRgFUSによる治療を初めて実施し、これまで合計3例の治療に奏功。今回、振戦優位型のパーキンソン病患者さんを治療した。

パーキンソン病は静止時振戦、筋強剛(きんきょうごう)(こわばり)、歩行障害が緩徐に進行する原因不明の難病。神経伝達物質であるドーパミンが脳内で減少することが確認されており、これを補充する薬物治療が第一選択。しかし、経過の長期化にともない薬効の持続時間が短くなるケースや、幻覚など副作用により投薬の継続が難しくなるケースもある。

薬物治療が困難な場合は外科的治療も選択肢のひとつ。電気刺激を持続的に与え神経活動を抑える「脳深部刺激療法(DBS)」という治療法もある。同院の伊藤恒・神経内科部長は「DBSには穿頭手術が必要であり、電極や刺激装置を植込むために感染のリスクもあります。このため、入院日数が長期化しますが、MRgFUSなら、これらのリスクはほとんどありません」と説明する。

治療当日は、主治医である伊藤部長が全体を統括。東京女子医科大学脳神経外科の平孝臣教授の指導の下、湘南鎌倉総合病院(神奈川県)の山本一徹・脳神経外科医師が機器を操作するとともに、湘南藤沢病院の福武滋・神経内科医師が全身管理を担当した。

患者さんは68歳時に上肢振戦で発症した73歳男性。治療を受けるにあたり、「治療は薬しかないと思っていたけど、副作用がつらいこともあったので、今回の新しい治療に期待しています」と笑顔を見せた。

午後3時半に治療開始。今回は右上肢の振戦の緩和が主目的となる。局所麻酔をして専用のフレームを装着した後にMRI室に移動。ヘルメット型の超音波装置を頭に装着して標的部位を確認する作業を開始。治療の成否を決めるため、何度も調整を繰り返した。

治療後にすぐ歩けるのも外科的な侵襲の低い治療だからこそ 治療後にすぐ歩けるのも外科的な侵襲の低い治療だからこそ

午後5時半に1回目の照射。3回続けても患部の温度が上がりきらなかったため、照射パワーを強めて4回目の照射をした。患部の温度が上昇し、5回目の照射を終えたところで治療効果を確認するテストを行った。

伊藤部長は患者さんに声をかけ、手首を回転させる、親指と人差し指をタップさせるなどの運動をしてもらい、慎重にその様子を観察。「手のこわばりが取れてきています。震えも少なくなりました」と、患者さんや関係者と話し合いながら治療を進めた。

8回目の照射を終えたところで2回目のテスト。右上肢の振戦の消失のみならず、動きがスムーズになっていることを確認した。午後6時半に10回目の照射をして治療は終了。最後のテストを終えると伊藤部長は「振戦だけでなく、筋強剛にも効果がありました」と評価。治療後に局所的な脳浮腫が生じ患者さんの動作が緩慢になったが、副腎皮質ホルモンを数日間用いることで軽快し、治療から14日目に自宅退院した。

伊藤部長はこれまでの4例を振り返り、「引き続き医師、看護師、診療放射線技師、理学療法士、作業療法士、薬剤師が意見交換し、慎重に治療を重ねていきます。長期的な経過観察も重要です」と気を引き締めていた。

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