2017年(平成29年)5月15日 月曜日 徳洲新聞 NO.1082 一面
中部徳洲会病院
カテーテルアブレーション治療
4年で1000例達成
中部徳洲会病院(沖縄県)は不整脈の根治療法であるカテーテルアブレーション治療(心筋焼灼(しょうしゃく)術)の治療実績が1000例を超えた。2013年5月に開始して以来、4年間で達成。不整脈の一種で同治療の対象である心房細動は、脳梗塞を引き起こす危険因子であり、脳梗塞全体の3割は、この心房細動による発症(心原性脳梗塞)と言われる。最近ではクチコミを通じて石垣島(同)や沖永良部島(鹿児島県)など遠方からの受診も増加。心原性脳梗塞の発症を未然に防ぎ、患者さんの健康と生命を守るため、今後も積極的に同治療に取り組んでいく。
脳梗塞を招く心房細動など根治
カテーテルアブレーション治療1000例を達成した不整脈センタースタッフら
1000例目のカテーテルアブレーション治療を実施したのは4月24日。同院は13年5月に同治療を開始し、同年10月に不整脈センターを開設。より安全な治療の実施に寄与する最新の3Dマッピングシステム(心腔(しんくう)内の超音波データから心臓の立体画像を作成)を導入するなどし、同院の大城力・循環器内科部長兼不整脈センター長が中心となり、野村悠・同科医師、同センタースタッフらとともに取り組んできた。14年6月に300例、15年10月に600例を達成、コンスタントに症例を重ねた。
大城部長は「看護師や臨床工学技士、診療放射線技師など関係する多くのスタッフの協力があったお蔭で1000例の大台を達成できました。当院のカテーテルアブレーション治療は、患者さん同士のクチコミや、周辺の病院への出張医療講演などを重ねることで年々、認知・信頼されるようになり、患者さんが増えています」と説明する。
治療開始当初は同院が立地する沖縄県中部地区の患者さんが多くを占めていたが、最近では石垣島や沖永良部島をはじめ遠方から治療を受けにくる患者さんも増えている。加えて県内の公立基幹病院などから、治療技術の習得を目指す研修希望者の受け入れも行っている。
「安全で質の高いアブレーション治療を行える施設が増えれば、それだけ、より多くの患者さんが治療を待つことなく受けられることになります。県内の治療水準の向上に貢献できることを嬉しく思います」(大城部長)
カテーテルアブレーション治療は、脈が速くなる頻脈性不整脈の発生源となっている心臓内の部位を、専用のカテーテル(細い管状の医療器具)で焼くことにより根治を目指すというもの。大腿(だいたい)の付け根からカテーテルを挿入して心臓内に誘導し、カテーテル先端の電極から高周波(電流)を発し約60度の熱で焼灼する。薬物治療が効かない患者さんや根治を希望する患者さんに行う。
カテーテルアブレーション治療では心房細動など不整脈の根治が可能
心房細動や心室期外収縮、心室頻拍、心房粗動、房室結節リエントリー頻拍、WPW症候群、心房頻拍など頻脈性不整脈の幅広い疾患が対象だ。一般的に治療時間は2~3時間で、術後2~3日で退院可能。中部徳洲会病院では同治療の6割は心房細動だという。30歳代から90歳代まで幅広い年齢層に施行している。
心房細動患者さんは国内に100万人いるとも言われている。発症初期には動悸(どうき)や息苦しさ、胸の圧迫感など強い症状が出ることがあるが、無症状の場合も少なくない。『循環器病の診断と治療に関するガイドライン2012』は、心房細動を①発症7日以内に自然に洞調律(正常な脈のリズム)に服する発作性心房細動、②7日以上持続する持続性心房細動、③1年以上持続する長期持続性心房細動――に分類。発作性から持続性、長期持続性へと進行・悪化するほど根治は難しくなり、慢性化して長期持続性心房細動になると自覚症状はなくなることが多い。早期発見・早期治療が重要だ。
心房細動自体は死に至る病ではないが、脳梗塞や心不全を引き起こす恐ろしい疾患である点に注意が必要だ。心房細動は全身を巡った血液が戻ってくる心房(心臓の上室のことで、左心房と右心房がある)内で、異常に多くの電気信号が発生し、心房が痙攣(けいれん)状態となって起こる不整脈。心臓が規則正しいリズムで収縮できなくなり、心房内の血液によどみが生じて血栓(血の塊)ができやすい状態になる。
この血栓が血流に乗って脳血管に飛ぶことで脳梗塞が引き起こされる。脳梗塞全体の3割はこの心原性脳梗塞と言われている。大城部長によると、発作性であれば8~9割の患者さんは1回の治療で根治可能。一方、慢性化した心房細動の場合は再発の可能性が高まるため、複数回の治療を要するケースもある。
大城部長は「目標は、質の高い治療を数多く実施することです。それによって心原性の脳梗塞を減らすことに貢献していきたい」と意欲的だ。
臨床工学技士が受賞
大城部長(左)とベストアブストラクト賞を受賞した工藤副主任
院臨床工学部の工藤幸雄副主任(臨床工学技士)は1000例達成に大きく貢献したひとり。16年4月時点で全国に299人と限られている不整脈治療専門臨床工学技士(日本臨床工学技士会)の認定をもつ。
工藤副主任は今年2月に開かれた第9回植込みデバイス関連冬季大会(日本不整脈心電学会)で、「RFCA(カテーテルアブレーション)におけるPacemaker 電磁干渉反応の各社比較」というテーマの口演(口頭発表)を行い、高い評価を受け、すべての演題のなかから1演題のみ選出されるベストアブストラクト賞(最優秀賞)を受賞。
工藤副主任は「臨床工学技士として不整脈治療のフロンティア(最前線)にかかわれることに喜びを感じるようになり、認定を取ったり、学会で発表したり、勉強会に参加したりするようになりました。これからも治療をサポートしていけるよう研鑽(けんさん)を積んでいきたい」と抱負を語っている。
大城部長は「3Dマッピングや各種デバイス(医療機器)などに関する専門知識・技術に長けていて、不整脈治療のパートナーとして欠かせない存在です」と話している。なお大城部長の方針で、不整脈センター専属の看護師は置かず、循環器内科の病棟看護師が交代で同センターの看護業務を担当。これにより同センターでの業務に必要な知識・技術が病棟にも浸透し、病棟での患者さんのケアをより適切に実施できるようになるなど、レベルアップにつながっている。