徳洲会グループ TOKUSHUKAI GROUP

徳洲新聞ダイジェスト

Tokushukai medical group newspaper digest

2017年(平成29年)3月27日 月曜日 徳洲新聞 NO.1075 一面

湘南藤沢徳洲会病院
本態性振戦の新治療に奏功
MRガイド下集束超音波で1例目

湘南藤沢徳洲会病院(神奈川県)は3月14日、新規に導入したMRガイド下集束超音波治療(MRgFUS)装置を用い、1例目の本態性振戦(自分の意思と関係なく身体の一部が細かく震える疾患)患者さんを治療し、奏功した。同装置はMRI(磁気共鳴画像診断装置)と超音波装置を組み合わせたもので、脳神経領域の疾患を穿頭(せんとう)手術(頭蓋骨に小さい孔を開ける手術)することなく治療できるのが特徴。昨年12月に本態性振戦への利用が薬事承認され、同院は臨床研究をスタート、今回、1例目の治療に踏みきった。

患者さん「震えがありません」

かかわった医師、看護師、診療放射線技師など多くのスタッフ かかわった医師、看護師、診療放射線技師など多くのスタッフ

湘南藤沢病院は昨年11月にMRgFUS装置を導入。これはMRIと超音波装置を組み合わせることで、MRIによりリアルタイムで患部の位置と温度をモニタリングしながら、1024本の超音波を集束させ、患部を焼灼(しょうしゃく)する。本態性振戦への利用は昨年12月に薬事承認を受けたばかりだ。同院は将来的な保険適用をにらみ臨床研究を開始。本態性振戦10例、パーキンソン病20例を予定している(本態性振戦については募集を終了した)。

本態性振戦やパーキンソン病の運動神経障害には、身体の一部が自分の意思とは無関係に震える症状がある。コップが持てない、文字が書けないなど、生活に支障を来し、QOL(生活の質)が著しく低下する。

治療前・中・後に図形や数字を書いて震えの状態を確認 治療前・中・後に図形や数字を書いて震えの状態を確認

これまで薬物療法で効果を得られなかった難治例に対し、震えに関与する脳の深部には電極を、前胸部には刺激発生装置を埋め込み、電気刺激を持続的に与え、神経活動を抑える「脳深部刺激療法(DBS)」や、脳外科的手術により、細い電極を留置し患部を焼灼する「定位熱凝固療法」を選択していた。

これらには穿頭手術が必要だが、MRgFUSなら超音波で患部を焼灼するため外科的侵襲がない。また、効果を治療直後に確認できるために治療の安全性・確実性が高く、早期の社会復帰も可能になるなど、患者さんが受ける恩恵は大きい。

同院は1例目の治療を迎えるにあたり、MRgFUSを開発した医療機器メーカーと調整を重ねてきた。治療前日はトレーニング用モデルを使いシミュレーションを実施するなど、周到な準備で本番に臨んだ。

当日は主治医である同院の伊藤恒・神経内科部長が全体の指揮を執り、湘南鎌倉総合病院(神奈川県)の山本一徹・脳神経外科医師が、治療経験の豊富な東京女子医科大学脳神経外科の平孝臣教授の指導のもとに機器を操作。さらに、同院の放射線技師の指導にあたった新百合ヶ丘総合病院放射線診断研究所の山口敏雄所長も応援に駆け付けた。湘南藤沢病院の看護師や診療放射線技師を含めて大勢のスタッフが見守った。

一番左が治療前で、一番右が治療後の結果 一番左が治療前で、一番右が治療後の結果

ヘルメット型の超音波装置を頭に装着した患者さんがMRI室に入室したのが午後5時前。最初にMRIで患部の位置を確認する作業を開始した。MRgFUSの標的可能部位は約2㎜ときわめて微小なため、精度の高い焼灼が可能。患部の特定が治療の成否を分けるため、多様な方向から撮影、微調整を繰り返した。

午後6時過ぎに照射の準備が完了。震えの状態を把握するため、渦巻きや直線、数字を書くテストを行い、その後1回目の照射を開始した。MRIで患部の温度を確認しながら2回目、3回目と続けた。

患部の温度が54度以上にならないと治療効果は出にくく、64度を超えると出血など危険性が高くなるため、MRIのモニターを厳しくチェックしながら慎重に続け、午後6時半に4回目の照射が終わったところで、2回目の書くテストを実施。1回目に比べ整った図形や数字を患者さんが書くと、周囲のスタッフから驚きの声が上がった。

治療後に患者さんの震えの様子を確認する伊藤部長 治療後に患者さんの震えの様子を確認する伊藤部長

患者さんへの気配りにも余念がない。照射の合間に伊藤部長は何度も「頭は痛くないですか。寒くないですか」と声をかけ、少し休ませたり毛布をかけたりするなど、患者さんを気遣った。7回目の照射後に3回目の書くテストを行い、10回目の照射を終えたところで治療は終了した。午後8時過ぎ、書くテストを行ったところ、格段に美しい図形や数字が並んだ。患者さんも何度もうなずき、満足した様子だった。

患者さんは16日朝に笑顔で退院。「文字がきれいに書けますし、箸使いがスムーズになりました。ひげも剃りやすい。これまではひげ剃りの際に鏡を見ていると、下あごと頚部(けいぶ)が震えていましたが、それがありません」と効果を実感していた。

湘南藤沢病院の亀井徹正総長は、「無事に1例目が終わり、はっきりと治療効果も出て良かったです。今後も周到に計画・準備して2例目以降につなげていきたい」と意欲を見せた。

頭蓋骨密度で効果に差

「医師、看護師、診療放射線技師がミーティングを重ね、治療前日からのフローを作成し、治療の流れと、それぞれの役割を把握することに努めたことが成功の一因です」と伊藤部長は振り返る。ただし、「すべての症例でうまくいくとは限りません」と警鐘を鳴らすことも忘れない。

事前検査でSDR(頭蓋骨密度比)が低い(綿のように頭蓋骨内の骨密度がまばらな状態)と、超音波が通過しにくく、温度が上がりきらないことがある。この場合、何回も超音波を照射することを余儀なくされ、治療時間が長くなり、患者さんへの負担が増大。思うように治療効果が得られないこともある。とくに東洋人は頭蓋骨が厚く、SDRがやや低めの傾向があり、適応をしっかりと見極めることが不可欠との指摘もある。

SDRが極端に低い症例では、DBSや定位熱凝固療法も選択肢のひとつとなるため、同院でも将来的に、これらの手術に対応できるように準備を進めている。

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