2020年(令和2年)2月10日 月曜日 徳洲新聞 NO.1222 一・二面
データに基づき医療の質改善
徳洲会グループ第4回QI大会
湘南鎌倉病院が初戴冠
徳洲会グループ医療経営戦略セミナーが2月1日から2日間、千葉県で開かれた。初日に第4回QI(Quality Improvement / Indicator)大会を開催、審査を経て選ばれた徳洲会グループ10施設が医療・介護の質向上の成果を発表した。参加者による投票の結果、1位に湘南鎌倉総合病院(神奈川県)が初選出された。同大会は、医療の質向上や業務改善に取り組む各施設の活動成果を共有することで、グループ全体の底上げを目的としている。
過去最多の応募110演題
今回は全国の徳洲会病院・介護施設から過去最多となる110演題の応募があり、審査を経て10演題が選出された。大会当日、はじめにQIプロジェクト担当理事の東上震一・医療法人徳洲会(医徳)副理事長が挨拶。「客観的なデータから自分たちが提供している医療・介護を、どう洗練していくかが大事」とQI活動の意義を強調し、回を重ねることで「徳洲会グループの財産となります」と呼びかけた。
大会の意義を説明する東上・副理事長
その後、10施設がそれぞれ演題を発表(発表7分、質疑応答3分)し、参加者が最良と評価した1演題に投票した。最後に、一般社団法人徳洲会(社徳)の鈴木隆夫理事長が「どれも甲乙付けがたい、素晴らしい内容でした。前回、前々回よりもはるかに進化していると感じます」と総評した。表彰順位(表)ごとに発表概要を紹介する。
手・腕洗いでVA感染減 湘南鎌倉総合病院
1位を喜ぶ湘南鎌倉病院職員(中央が種山・副技士長)
臨床工学技室の種山かよ子・副技士長(臨床工学技士)が「血液浄化センターにおけるバスキュラーアクセス(VA)感染の低減化~患者さんとの協業によるグラフト感染ゼロに向けた取り組み~」と題し発表した。
2017年夏に自院の血液浄化センターで複数のグラフト(人工血管)感染を経験したことから、外来血液透析患者さんに対し、入室前の手指衛生の重要性についてグループ勉強会を実施。個々の患者さんにはベッドサイドでシャント肢の洗浄方法を直接指導した結果、シャント肢手洗い実施率の上昇とともに、介入直後からの8カ月間はグラフト感染だけでなくVA感染の発生自体も抑制したデータを報告した。
種山・副技士長は表彰式で自院の名が最後に呼ばれたことに、「患者さんと共に取り組んできたことが評価され、素直に嬉しいです」と笑顔。壇上でプレゼンターの鈴木理事長から賞状を受け取る際、涙をこぼした場面については「入職当時、鈴木理事長が当院の院長で、ご指導いただいたことを思い出しました。発表で緊張していたせいか、鈴木理事長の顔を見たらホッとして目が潤みました」と振り返った。
カンファで警鐘事例低減 武蔵野徳洲会病院
「素晴らしい結果を得ました」と吉田・武蔵野病院看護師長(左から2人目)
医療安全管理室の吉田和子・看護師長が「警鐘事例の低減~ Safety1 からSafety2 への序章~」をテーマに、警鐘事例の50%低減を目標とした取り組みを発表。具体的には①全部署で医療安全カンファレンスを開催、②全職員混合カンファレンスを開催、③全部署で開催した医療安全カンファレンスの内容を「一言集」として冊子にまとめ全職員に回覧。
結果、警鐘事例は2019年7月35件が11月には7件に減少した。
吉田・看護師長は「これらカンファレンスの開催は、一人ひとりの職員が行動目標を自ら見出すことに有効で、その結果、警鐘事例の低減につながったと考えます」とまとめた。
表彰式で吉田・看護師長は「医療安全文化をどう根付かせようか考える日々ですが、スタッフの皆さんの協力により、2位という素晴らしい結果を得ることができました」と感謝の気持ちを表した。
行動制限の低減に向けて 東京西徳洲会病院
「さらなる改善を目指します」と三戸・東京西病院看護師(中央)
三戸萌望看護師は「行動制限実施率の低減︱看護師の意識の変容と病棟での介入︱」と題して発表。同院は不要な行動制限の低減を目指し取り組みを実施した。2019年1~3月の行動制限実施率0・27%を、全国の医療保険適用病床の平均値の75%値である0・16%以下とすることを目標とした。
改善策として、身体抑制基準スコアシートの記載漏れが多いスタッフにレポート提出を求めたほか、行動制限の基準を明確化し、さらに、スタッフ全員で情報共有や申し送りなどが行えるカンファレンスを開催。これらの結果、介入開始後、行動制限実施率(19年6~12月平均)は0・16%に低減し目標を達成。「さらなる低減に向けて、同シートの100%記載を目指すとともに、カンファレンスの継続に取り組んでいきます」と三戸看護師は結んだ。
表彰式で三戸看護師は「これに満足せず、さらなる改善を目指します」と意気軒高。
病院全体で腰痛対策 札幌徳洲会病院
「職員の健康づくりは個人任せではなく組織で」と垣見・札幌病院副主任(中央)
「健康経営を支える腰痛対策WGの発足(根本原因分析手法を活用して)~行動変容段階モデルとVASを用いたプロセス評価~」と題し、リハビリテーション科の垣見尚宏副主任(理学療法士)が発表。札幌病院は、院内の労働安全衛生委員会内に多職種で構成する腰痛対策ワーキンググループ(WG)を立ち上げ、腰痛に着目した職場環境の改善などに取り組んでいる。今回、同WGが48人の看護補助職員向けに腰痛対策研修(体操指導含む)を実施し、職員の意識変容・疼痛(とうつう)評価を通じてプロセス評価を行ったところ、いずれも改善の傾向がうかがえた。
垣見副主任は、プロセス評価が職員の健康に関する問題点の把握や研修内容の改良に有効である可能性を指摘するとともに、今後は、アウトカム評価による“職員の健康の見える化”を図る意向を示した。
肺炎の抗菌薬適正使用へ 長崎北徳洲会病院
湧川・長崎北病院薬剤師(右から2人目)は「来年も表彰されるよう頑張ります」
湧川朝也・薬剤科主任(薬剤師)が「肺炎での抗菌薬適正使用を目指して――TAZ/PIPCの乱用を防ごう――」をテーマに発表。自院の抗菌薬使用量(2018年3~8月)をAUD(抗菌薬使用量の評価指標)で比較したところ、強力な広域抗菌薬TAZ/PIPCが乱用傾向にあることが判明。市中肺炎、医療・介護関連肺炎に対して第一選択で使用される抗菌薬のうちTAZ/PIPCの割合を33%減らすことを目標に、19年3月から薬剤師が介入した。
結果、8月までに市中肺炎と医療・介護関連肺炎に対する同抗菌薬の使用割合は減少。平均在院日数の短縮、抗菌薬購入費の減少にも寄与した。
湧川薬剤師は、専門医不在の小中規模病院ではガイドラインを用いて薬剤師が介入することで、抗菌薬の適正使用に近づける可能性を示唆。
離職率を低減 札幌東徳洲会病院
坂本真起代・看護部長は「離職率︱年初の常用労働者に対する離職者数の割合︱」をテーマに、離職防止対策の取り組みを発表。方策として①現状把握を目的とした退職者アンケートを実施、②時間外勤務45時間以上の職員との個人面談、部署平均30時間超の部署長との面談、③有給休暇取得推進、④人間関係による離職を防止するため、多職種合同管理者研修を実施し管理者を育成――を実施。
結果、2017年度の離職率12・4%が、18年度には9・9%にまで改善した。坂本・看護部長は「これからも職員が定着し、長く働き続けられる職場をつくっていけるよう職員の協力を得ながら取り組んでいきます」と意欲的だ。
車いすの転倒予防策 老健吹田徳洲苑
番場恵副主任(介護福祉士)は「ブレーキのかけ忘れによる転倒を減らす取り組み」と題して発表。認知症の利用者さんは危険認知度が低いため車いすでの転倒が多い。そこで、車いす使用者への転倒予防対策として①ブレーキを忘れないよう声かけ、②ブレーキのかけ忘れがわかるよう延長バーを付加、③自動ブレーキ付き車いす(体重がかかるとブレーキがはずれ、立ち上がると自動的にブレーキがかかる)を導入――などを実施した。
その結果、転倒が減少。特にブレーキ忘れによる転倒は、10件(2018年10月~19年3月)から3件(19年4月~20年10月)に大幅減少。番場副主任は「『ブレーキ忘れ』と『急な立ち上がり』の利用者に絶大な効果がありました」と報告した。
圧迫骨折の圧潰例が減少 瀬戸内徳洲会病院
リハビリテーション科の徳重信海副主任(理学療法士)は「圧迫骨折に対するコルセット作製とリハビリテーション科主導で作成したクリニカルパス導入の有効性検証」をテーマに発表。以前はコルセットの作製や安静度などその都度、担当医が判断して指示していた。しかし業務が煩雑化し判断が困難なことも多く、応援で来ている整形外科医へのコンサルテーション回数が増え、負担の増加が課題となっていた。
そこで、これらの課題の解決を図りながら、廃用予防や予後改善、医療の質の向上などを目指すため、①コルセットの積極的な作製と圧迫骨折パスの導入、②情報共有、介助方法などの指導目的で看護師や看護補助者への講習会を実施、③パスの改良――に取り組んだ。
こうした施策により「整形外科医へのコンサル回数が減ったほか、圧潰例が有意に減少するなど医療の質の向上につながりました」などと徳重副主任は報告した。
質の高いトリアージへ 中部徳洲会病院
「アンダートリアージ実施率低減に向けた取り組み」と題し、仲松さおり看護師が発表した。同院救急センターでは、2012年からトリアージ(緊急度・優先度の選別)を実施し、18年からはJTAS(日本版緊急度判定支援システム)に基づき行っている。そのなかで、看護師によるアンダートリアージ(適切な基準よりも低めに判断してしまうこと)が見受けられたため、月1回「アンダートリアージ症例検討会」を開催。
しかし、アンダートリアージ実施率に明らかな変化は見られなかった。
アンダートリアージの内容を分析したところ、誤嚥(ごえん)性肺炎や腎盂(じんう)腎炎等の感染症、うっ血性心不全脳卒中、ACS(急性冠症候群)、消化管出血の5つの疾患が60%を占めていることなどが判明したことから、それらの疾患に重点を置いた検討会の実施など、今後も勉強会を継続し、質の高いトリアージの実践に取り組む意欲を示した。
術前の消毒薬変更が奏功 八尾徳洲会総合病院
川人彩看護師が「SSI(手術部位感染)に関する業務改善」と題し発表した。2017年度の自院の全手術におけるSSI発生率を調べたところ、とくに消化器外科、肝臓外科系創分類のクラス2(準清潔創)での発生率が全国平均より高いことが判明。手術前の消毒薬を変更した結果、消化器外科・肝臓外科系創分類クラス2(準清潔創)でSSI発生率の低下が見られ、さらに一部を除く対象術式でもおおむね全国平均を下回る結果となった。コスト面での効果も得られたことを明かし、「今後、術中の一重手袋の着用禁止や、手袋の2~3時間ごとの交換に取り組むことが必要」とまとめた。