2019年(令和元年)10月21日 月曜日 徳洲新聞 NO.1207 一面
岸和田病院 離島病院を積極的に応援
ルポ 名瀬病院での内視鏡診療
岸和田徳洲会病院(大阪府)消化器内科は、離島病院への応援診療に積極的に取り組んでいる。同科の常勤医27人の多くが応援診療に従事し、定期的な応援先は2018年実績で21施設(都市部も一部含む)、応援先での内視鏡件数は1万2544件に達する。同院の尾野亘院長が応援体制の確立に尽力した。上下部内視鏡検査や大腸ポリープの切除から、消化管出血の止血術、ERCP(内視鏡的逆行性胆道膵管(すいかん)造影)、ESD(内視鏡的粘膜下層剥離(はくり)術)など高度な内視鏡診療まで手がけ、応援先のニーズに合わせ当直業務も実施。“離島応援は科の通常業務"という認識を同科全体で共有し、症例の多い同院で医師を集め、離島応援を行う仕組みを維持している。
常時7〜8人の医師が出向く
「応援体制の維持・拡大に努めていきたい」と井上・主任部長
「検査は順調に進んでいますよ。今から十二指腸に入りますからね」
奄美大島に立地する名瀬徳洲会病院(鹿児島県)の内視鏡室で、露口恵理医師は受診者さんに優しく声をかけながら、慣れた手つきで上部内視鏡を操っていた。検査を受けているのは、胃のバリウム検査の結果、精査の必要があると判定された80代女性。数年前に慢性胃炎が見つかりピロリ菌を除菌、その後は年に1回の健診で様子を見てきた。
露口医師は岸和田病院消化器内科の後期研修医(医師5年目)。徳洲会の後期研修医・専攻医は3年間のうち3カ月間、離島・へき地応援研修を行う。露口医師も徳之島、与論島、宮古島の徳洲会病院で各1カ月を過ごした。この応援研修とは関係なく、同科では後期研修医・専攻医も含めて応援診療に取り組んでいる。
真剣な表情で上部内視鏡検査を行う露口医師
1回の滞在期間は3日~1週間ほど。取材で訪れたのは10月10日で、露口医師は今回7~11日まで滞在。少なくとも1カ月に一度は応援診療の順番が回ってくるという。
滞在中も多忙だ。毎日午前・午後ともに上下部内視鏡検査を中心に、消化器疾患の入院患者さんへの朝の回診や、木曜日は内視鏡の合間に外来を行い、同じく奄美大島にある笠利病院で当直。内視鏡検査は1日当たり、ひとりで平均、上部20件、下部5件を行っている。
冒頭の受診者さんのほか、貧血で入院中の80代女性患者さんに上部内視鏡検査を行い、生検を実施。次いで人間ドックの男性受診者さんに上下部内視鏡検査。下部内視鏡ではEMR(内視鏡的粘膜切除術)を施行した。その後も検査結果の説明などを立て続けに行った。
露口医師は「岸和田病院では緊急内視鏡や特殊検査が多いので、他の先生と話し合いながら知識や技術を高めています。離島では、それを生かし仕事をしています」と話す。また「業務終了後は島の方々や自然に触れ合うことが、仕事のモチベーションになっています。都市部でも離島でも医師の活動は看護師や薬剤師、リハビリテーションスタッフ、技師、MSW(医療ソーシャルワーカー)など、たくさんのコメディカルの皆さんの支えがあって成り立っています。患者さんに力をもらうこともあります。周囲への感謝の気持ちを忘れずに、チームを引っ張っていけるような医師、都市部と離島・へき地をつないでいけるような医師を目指したい」と抱負を語る。
離島のビューポイントでリフレッシュも
応援先は離島病院だけでなく都市部の病院も含む21施設。医師不足はどこでも起こり得る問題だ。
応援スケジュールの調整を一手に担う井上太郎・主任部長は「月によって、ばらつきはありますが、常時7~8人の医師が応援に出ており、1カ月の応援日数は延べ230日ほど。内視鏡検査が多い名瀬病院や宮古島徳洲会病院などには、ほぼ切れ目なく医師が交代で入り、ほかの施設には週の半分や月に数回など業務量にに応じた応援スケジュールを組んでいます」と説明する。
「島内で治療完結」
井上・主任部長自身、主にESDなど治療を行うため応援先を飛び回る。露口医師の今回の滞在初日7日には、名瀬病院で露口医師を指導しながらESDを実施。その後も徳之島徳洲会病院、福岡徳洲会病院を転々としてESDを数例ずつ施行し、岸和田病院に戻った。「後期研修医時代に訪れた喜界島で『島内で治療できないなら治療しなくていい』と言う患者さんがおり、ショックを受けました。離島だから仕方がないと諦めるのではなく、離島に技術をもっていき、疾患の早期発見に務め、できるだけ島内で治療を完結できるよう応援体制の維持・拡大に努めていきたい」と井上・主任部長は力を込める。