2018年(平成30年)6月18日 月曜日 徳洲新聞 NO.1138 三面
徳洲会消化器がん部会
多彩なテーマで研鑽
第2回消化器がん研究会
徳洲会消化器がん部会は5月12日、都内で第2回消化器がん研究会を開催した。徳洲会オンコロジー(腫瘍学)プロジェクトの一環で、徳洲会グループ全体の消化器がん診療のレベルアップが目的。化学療法や緩和ケア、液体生検、腹腔(ふくくう)鏡手術、輸血など多彩なテーマの講演に加え、大腸がん術後補助化学療法に関するパネルディスカッションを実施。多職種約60人が参加し知見を深めた。
「多職種が一緒になって勉強できる会にしていきたい」と下山部長
冒頭、徳洲会オンコロジープロジェクトの新津洋司郎顧問(札幌医科大学名誉教授)は、同プロジェクトを契機に発足した呼吸器部会、消化器がん部会、乳がん部会を統合した研究会の開催に意欲を見せ「今日も実りの多い研究会になるよう積極的な議論を期待しています」と呼びかけた。
続いて、徳洲会消化器がん部会の部会長を務める湘南鎌倉総合病院(神奈川県)の下山ライ外科部長兼オンコロジーセンター長が「医師同士の横のつながりを深めるだけでなく、看護師、薬剤師、検査技師、リハビリスタッフなど多職種が一緒に勉強できる会にしていきたい。多施設共同臨床試験に取り組むことも目標です」と展望を語った。
「実りの多い会になるよう積極的な議論を期待しています」と新津顧問
また、今回の世話人を務めた千葉徳洲会病院の鶴田好彦副院長(外科)が「多職種がチームとして最善の医療を提供していけるよう、明日からの診療に役立つことを学んでいただけたら嬉しいです」と挨拶した。
この後、まず吹田徳洲会病院(大阪府)がんカテーテル治療センターの関明彦センター長が
「大腸癌肝転移に対するoxaliplatin、bevacizumabを用いたsalvage TACE」をテーマに発表。TACEは高濃度の抗がん剤と極小のビーズ(塞栓物質)を、栄養動脈からカテーテルで腫瘍に注入する治療法。腫瘍に栄養を送る血管をビーズで塞栓し、がんを兵糧攻めにする効果も期待できる。
「明日の患者さんへの医療に役立つことを学んでいただけたら嬉しい」と鶴田副院長
自験例を検討し「全身化学療法を併用したTACEは、肝転移が優位となった標準治療不応の再発大腸がんに対する救済的、緩和的治療選択肢のひとつになり得ます」と結んだ。
名古屋徳洲会総合病院緩和ケア外科の坂本雅樹部長は
「急性期病院における緩和ケア病床、病棟の運用」を発表。同院は2013年8月、外科病棟内に緩和ケア病床(10床)を設定。14年4月の新築移転時には緩和ケア病棟(18床)を開設した。
それぞれの運用状況を紹介し「緩和ケア病床は一般病棟のため医療処置が比較的容易で、リハビリ算定可能など利点がある一方、スタッフ教育や地域連携、待機時間など問題点があり、緩和ケア病棟を開設する際の課題としました」とまとめた。
吹田病院消化器外科の吉川清部長は
「局所進行膵(すい)癌に対しGEM+nab-PAC4コース施行後、conversion surgeryでR0 resectionしえた1例」がテーマ。Conversion surgery は、初回治療前に根治切除不能と判断した症例に、化学放射線療法など施行し腫瘍縮小後に手術すること。自験例を紹介し「慎重かつ丁寧に経過を見ることで根治切除にconvertできる症例は確かに存在します」と訴えた。
札幌東徳洲会病院医学研究所臨床生体情報解析部の小野裕介部門長は
「膵液中に存在する腫瘍由来核酸の遺伝子変異検出の試み~デジタルPCRを用いたリキッドバイオプシー(液体生検)」と題し発表。デジタルPCRは超低頻度の遺伝子変異の検出が可能な遺伝子増幅手法。
術後補助化学療法をテーマにパネルディスカッションを実施
膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)患者から採取した膵液と十二指腸液を精製した核酸から、KRASとGNAS遺伝子の変異の検出に成功した症例を紹介し「リキッドバイオプシーは早期膵がんの診断の正確性を上げる選択肢になると期待できます」とまとめた。
千葉徳洲会病院外科の村田一平医長は
「当院における食道癌に対する胸腔(きょうくう)鏡手術の導入」をテーマに発表。同院は17年に食道がんに対する腹臥位胸腔鏡/用手補助腹腔鏡下食道がん手術(VATS/HALS)を開始。利点として呼吸器合併症の減少や、拡大視効果により微細な脈管や神経などを視認しながら手術できることなどを挙げた。
手術成績や手術手技を紹介し「ハイボリュームセンターで確立された手技を取り入れ、安全な術式の定型化に向けて取り組んでいます」と結んだ。
湘南厚木病院(神奈川県)肝胆膵外科、無輸血治療外科の川元俊二部長は
「がんと輸血~エホバの証人の無輸血手術の経験から~」と題し発表。川元部長は近年欧米で広まっているPBM(Patient Blood Management)に言及。これは、患者中心の輸血医療に関する考え方のことで、「同種輸血が必要と考えられる患者さんの予後改善を目指した新しい治療概念」と説明した。
全国の徳洲会病院から約60人が参集し研鑽
同種輸血を用いない術前・術中・術後の具体的な対応や処置などを解説し、同院で取り組んできた消化器がん無輸血治療の内容や結果を報告した。
講演後、パネルディスカッションを実施。テーマは
「術後補助療法6カ月vs3カ月 IDEA試験の結果から術後補助療法の期間を変えることを考えるか?」。下山部長が司会・進行を務め、パネリストとして鶴田副院長、中部徳洲会病院(沖縄県)の江口征臣・消化器外科部長、湘南鎌倉病院の門谷靖裕・副薬剤部長(がん薬物療法認定薬剤師)、千葉病院の定免亨看護師(がん化学療法看護認定看護師)が登壇。
ステージ3の大腸がんは、完全切除後、再発の可能性を減らすため術後補助化学療法が推奨されている。現在の標準治療はオキサリプラチンという抗がん剤をベースにした6カ月間の治療だ。ただし、有害事象として長期(4~5カ月間以上)使用により生活に支障を来す程度の末梢(まっしょう)神経障害が生じることがある。グレード3の神経障害の発生率は12.5%。
治療期間6カ月と3カ月を比較するために行ったのが、術後補助療法の至適期間を検討するIDEA試験だ。結果、6カ月に対する3カ月の非劣勢は証明されなかった(治療期間3カ月は6カ月と比べて、効果は劣っていないとは言えない、つまり劣っている可能性がある)。
切除不能・再発胃がんに対する化学療法を解説する朴副院長
ディスカッションでは「エビデンス(科学的根拠)ベースでは6カ月が正しいが、患者さんの希望や副作用の状況を見て3カ月にすることも考えたい」、「治癒を目指して治療を続けている患者さんには6カ月間頑張りましょうと伝えると思う」、「ステージ3の再発率は30%。3カ月でやめて再発したらお互いに後悔する。3カ月に変更するのは時期尚早」など、治療効果と副作用の間で悩みながらも患者さんのために真剣に討論する姿が印象的だった。
終了後には別会場で、Immuno-Oncology Seminar 2018 という講演会を開催(主催は他団体)。新津顧問が座長を務め、国立がん研究センター中央病院の朴成和・副院長兼消化管内科長が「切除不能・再発胃癌に対する化学療法の新展開」をテーマに講演を行った。
切除不能・再発胃がんに対する化学療法の一次、二次、三次治療を巡る臨床試験データを解説し、免疫チェックポイント阻害薬に由来する有害事象を説明。この後、実際の症例を提示し治療内容や臨床経過を紹介した。