2018年(平成30年)5月21日 月曜日 徳洲新聞 NO.1134 三面
徳洲会呼吸器部会
幅広い症例を共有
肺がん研究会・症例検討会
徳洲会呼吸器部会は4月21日、京都市内で第9回肺がん研究会・第7回症例検討会を開催した。徳洲会オンコロジー(腫瘍学)プロジェクトの一環で、肺がんなど呼吸器疾患に対するグループの診療レベル向上が目的。医師、薬剤師、看護師、臨床検査技師、CRC(治験コーディネーター)など約60人が参加した。幅広い症例を共有、知見を深めるなど研鑽を積んだ。
「肺がんキャンサーボードは、難治性の肺がん症例などの日常診療に役立っています」と竹田部長
冒頭の開会挨拶で徳洲会オンコロジープロジェクトの新津洋司郎顧問(札幌医科大学名誉教授)は「オンコロジープロジェクトのなかから当部会のほかに、消化器がん部会、乳がん部会が発足し活動しています。3部会の横のつながりも検討していきたい」と展望。
続いて、呼吸器部会の部会長である竹田隆之・宇治徳洲会病院(京都府)呼吸器内科部長が登壇。同部会主導の下、多施設参加型で2017年4月に開始した肺がんキャンサーボードに言及し「参加施設が8病院に拡大し症例は100例を超えました。難治性の肺がん症例などに関する日常診療に役立っています」とアピール。「今日の症例検討会も明日からの診療に役立ててください」と挨拶した。
がん薬物治療の50年の歩みと展望を語る福岡総長
症例検討会では、まず千葉西総合病院の浦田英樹・初期研修医が
「重度のⅡ型呼吸不全を呈した多発性神経線維腫症による脊柱側弯(せきちゅうそくわん)症の1例」と題し発表。「治療は早期の手術が推奨されています。無治療の場合は拘束性換気障害から呼吸不全になります」と報告した。
大和徳洲会病院(神奈川県)の杉本栄康・呼吸器内科部長は
「難治性の粘膜類天疱瘡(るいてんぼうそう)、口腔(こうくう)内扁平苔癬(へんぺいたいせん)を合併し、免疫グロブリン静注療法が奏効したGood症候群の一例」がテーマ。「原発性免疫不全症のひとつであるGood症候群に合併した自己免疫性疾患に対し、ステロイドを含む免疫抑制剤を使用する際には、重症感染症、日和見感染に十分注意する必要があります」とまとめた。
千葉西総合病院の岩瀬彰彦・呼吸器内科部長は
「千葉西総合病院における結核関連死亡症例の臨床的検討」と題し発表。「既存疾患により胸部X線で陰影を有するものが多く、とくに高齢結核患者の早期発見には細菌検査が重要。予後は結核重症度よりも年齢や基礎疾患、全身状態に左右されます」などと結んだ。
座長の青笹・最高顧問
この後、竹田部長による
「肺がん領域におけるbevacizumabの位置付け」と題したミニレクチャーを実施。bevacizumabは分子標的治療薬のひとつ。非扁平上皮非小細胞肺がんに対する上乗せ効果、がん性胸膜炎などに対する有効性、EGFR(上皮成長因子受容体)遺伝子変異陽性肺がんに対する併用療法の有効性などを解説。自験例の症例提示も行った。
症例検討を再開し、八尾徳洲会総合病院(大阪府)臨床検査科の岩﨑由恵・臨床検査技師は
「セルブロック法運用の現状」がテーマ。同法は細胞診検体に種々の方法を加え組織学的に観察する手法。症例を提示し利点や欠点などを説明し、「当院ではセルブロック法を小さな組織片や細胞診材料に適用し診断につなげています」と発表した。
札幌東徳洲会病院の青栁瑛子・検査センター臨床検査技師は
「非小細胞肺癌における病理検査の重要性と当院の現状」と題し発表。EGFR遺伝子変異、ALK遺伝子転座、PD-L1という物質の検索で推奨される検体処理方法や同院の病理検査の実際を紹介した。
湘南藤沢徳洲会病院(神奈川県)の日比野真・呼吸器内科部長は
「人工呼吸器管理中のMRI拡散強調画像ガイド下骨腫瘍生検が治療方針決定に有用であったALK陽性肺癌の1例」と題し、呼吸困難感を主訴とする救急搬送症例を発表。
肺腺がんの組織分類などを講演する野口教授
急性呼吸不全で肺からの安全な組織採取(生検)は困難だったことから「骨腫瘍のMRI(磁気共鳴画像診断)拡散強調画像とT1(縦緩和によるコントラスト)強調画像の融合画像を参考に、CT(コンピュータ断層撮影)ガイド下骨腫瘍生検を行い、治療方針の決定に有用でした」とまとめた。
八尾病院の瓜生恭章・呼吸器内科部長は
「治療に抵抗性を示したALK転座陽性肺癌の一例“ 血漿(けっしょう)遊離拡散を用いたデジタルPCRの結果の検討”」がテーマ。放射線治療後、複数の分子標的薬を順次投与したものの、腫瘍の縮小と増大を繰り返し、徐々に効果が得られなくなった。
耐性機序を調べるため札幌東病院に依頼し、同院が保有する高精度のデジタルPCR(遺伝子増幅手法)で解析。
「デジタルPCRは非常に有用。全国の徳洲会病院のALK転座陽性肺がんの耐性機序のデータベース化に寄与します」と結んだ。
羽生総合病院(埼玉県)の橋本大志・初期研修医は
「検診で高血糖と胸部異常影を指摘された、肺原発のSFT(solitary fibrous tumor)の1例」と題し発表。胸部CTで胸椎椎体(きょうついついたい)右前方に境界明瞭な内部充実性の腫瘍を認めた症例。画像診断では縦隔腫瘍が疑われたが「実際には腹腔鏡(ふくくうきょう)で肺原発のSFT(孤立性線維性腫瘍)と判明」と報告した。
湘南鎌倉総合病院(神奈川県)の深井隆太・呼吸器外科部長は
「肺小型病変に対する気管支鏡下マーキング(VAL―MAP; virtual-assisted lung mapping)後区域切除」をテーマに発表。胸腔鏡(きょうくうきょう)手術の普及で肺の触知困難病変が増加。また従来のCTガイド下マーキングには気胸や出血といった合併症などの問題があるため、同院は多施設共同研究として気管支鏡下色素散布によるマーキングであるVAL―MAPを実施。
VAL―MAPによる区域切除症例を解説し「深部肺実質に存在する小型肺病変の切除に有用でした」とまとめた。
最後に和泉市立総合医療センター(大阪府)の益田典幸・臨床研究センター長が総評で発表を一つひとつ振り返り「多様な症例を共有でき、とても勉強になったと思います」と締めくくった。
病理診断テーマに講演
症例検討会終了後、別会場で肺がん薬物療法をテーマにした講演会を開催(主催は他団体)。筑波大学医学医療系診断病理学研究室の野口雅之教授が「肺癌病理診断の実際―特に初期腺癌の診断について―」と題し講演。徳洲会病理部門の青笹克之・最高顧問(大阪大学名誉教授)が座長を務めた。続いて、和泉市立総合医療センターの福岡正博総長が「肺がん薬物治療50年の歩みと今後の展望」をテーマに講演し、竹田部長が座長を務めた。
野口教授は“野口分類”という小型肺腺がんの病理分類の考案者で知られる。野口教授はWHO(世界保健機関)の肺腺がん組織分類について病理画像を提示しながら解説。AAH(前浸潤病変)からInvasive Cancer(浸潤がん)への進行に関与する遺伝子異常に言及し、初期肺腺がんの進展を促すタンパク質の一種であるStratifin(SFN)などを説明した。
肺がん化学療法の泰斗である福岡総長は、小細胞肺がん、非小細胞肺がんに対する化学療法の治療戦略や医薬品開発の変遷を解説。
分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬にも言及し、作用機序や治療成績などを紹介。「がん医療は精密医療(プレシジョンメディスン)の時代に移ってきています」と強調した。