徳洲会グループ TOKUSHUKAI GROUP 45th

徳洲新聞ダイジェスト

Tokushukai medical group newspaper digest

2018年(平成30年)5月21日 月曜日 徳洲新聞 NO.1134 一面

福岡徳洲会病院
アジア人向け人工膝関節を開発
5大学などと共同研究し保険適用

福岡徳洲会病院の長嶺隆二・人工関節・リウマチ外科センター長は東邦大学、千葉大学、日本大学、大阪大学、大分大学の共同研究に参加し、アジア人用の人工膝関節「Future Knee」を開発した。昨年10月に保険適用され、1例目の手術は同16日に福岡病院で長嶺センター長が施行した。現在、同院と5大学のみで手術可能だが、初期臨床評価を終え、今秋から他の病院でも施行可能になる予定。今後はアジアへ普及を目指す一方、福岡病院内に新たに人工関節センターを創設し、離島を含む九州の拠点としての役割を果たすことも視野に入れている。

長嶺センター長が1例目の手術

「膝の痛みは手術で治ります」と長嶺センター長 「膝の痛みは手術で治ります」と長嶺センター長

欧米を中心に開発された人工膝関節は、欧米人の骨格やサイズ、生活様式を基準に設計されている。たとえば、欧米人は体格が良く、足が真っすぐなのに対し、アジア人は体が小さくO脚ぎみだ(図参照)。また、欧米ではいすに座れる程度の膝の可動域があればいいが、アジアでは正座や横座りなど床での生活を考慮しないとならない。しかし現在、世界的に流通している人工膝関節は欧米人用が中心。こうした状況に対し長嶺センター長は「人種により解剖学的バリエーションがある」と警鐘を鳴らし、20年ほど前から欧米人とアジア人の膝関節の差異などに関する論文を発表してきた。

2014年、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の資金援助を受けた帝人ナカシマメディカルが人工膝関節の専門家を募り、アジア人用の人工膝関節の開発に乗り出した。これに5つの大学に加え、論文や手術実績などを評価された長嶺センター長が参加、約3年かけて開発したのがアジア人用の人工膝関節「Future Knee」だ。

図 米国と日本のTKA症例の骨格の違い

この人工膝関節と手術時に使うガイド器械を合わせたシステムは、正座や横座りができる深屈曲の獲得を目指し、前後および内外反の安定性を確保しつつ、屈曲位での十分な内外旋可動域を獲得しているのが特徴。また、人工膝関節の形状には前十字靱帯を切離して設置するCR型と、前十字靱帯(じんたい)と後十字靱帯を両方切離して設置するPS型があり、同システムはアジア各国での展開も考えたうえで、シンプルな手技で手術できるようにPS型を採用した。開発はタイ王国を拠点にして進めた。まずは、タイ人の骨形態を把握することからスタート。タイ国立科学技術開発庁の協力を得て、タイ人の下肢CT(コンピュータ断層撮影)画像を解析。同様に、日本人の下肢CT画像も解析し、膝関節を構成する大腿骨(だいたいこつ)と脛骨(けいこつ)の骨形態がタイ人と日本人で類似しているという知見を得た。

アジア人用の人工膝関節「Future Knee」 アジア人用の人工膝関節「Future Knee」

新しい人工膝関節と手術時に使うガイド器械を試作した後は、タイ北部のチェンマイ大学でタイ人のカダバー(解剖実習用の遺体)を使用し、5例の模擬手術を実施。開発した人工膝関節の適合性や機能性を評価した。

全例とも手術前にCTで撮影した後、ナビゲーションシステム(膝に目印を付けてコンピュータで解析する装置)を設置し、人工膝関節形成術(TKA)前、前後十字靱帯切離後、TKA後の評価を行った。評価では膝の伸展・屈曲を行い、脛骨に対する大腿骨の回旋角度、内外反角度、前後位置を計測。次に、伸展位、屈曲30度・60度・90度・120度の各屈曲角度で、徒手的に前後、内外反、内外旋のストレスをかけ、柔軟性を計測した。徒手的評価であるため、同一術者(長嶺センター長)がすべての操作を実施。各計測とも全例で3回行い、ナビゲーションシステムで取得したデータの平均値を採用。この結果、良好な成績を得た。

同時にタイ国立金属材料技術研究センター(MTEC)の協力を得て、膝関節シミュレーターによる耐摩耗試験を実施。結果、日本で実績のある人工膝関節の摩耗量と同等か、それ以下であることを実証した。

また、長嶺センター長はタイでの開発中、バンコク病院や陸軍病院などで人工膝関節をテーマにした講演も行った。

新たなセンター創設へ 離島を含め九州カバー

タイのMTECでの会議に出席する長嶺センター長(左) タイのMTECでの会議に出席する長嶺センター長(左)

タイで取得した基礎データをもとに昨年10月、Future Kneeは保険適用。また、システムの実験データは、今年2月の第48回日本人工関節学会、4月の第62回日本リウマチ学会総会・学術集会で発表、好評を博した。

昨年10月16日、福岡病院でFuture Kneeを用いた1例目の手術を施行。患者さんは90歳の女性で、変形性膝関節症により、歩けないほどの症状だったが、同手術により歩行や深く膝を曲げることができるまでに回復した。

手術時に使うガイド器械は近隣の大学病院と共有して使用しているため、頻繁に同手術は行えないが、それでも福岡病院は週1回ほどのペースで実施。5月までに23例の手術を行った。長嶺センター長は「歩けなくなると高血圧や糖尿病など、いろいろな病気を起こしやすくなります。加齢のせいと諦める方も多いですが、膝の痛みは手術で治ります」と強調する。

また、長嶺センター長は月1回、故郷の沖縄県石垣島にある石垣島徳洲会病院に出向き、診療している。膝関節の手術を待つ患者さんが複数いるが、「離島に限らず、膝が悪い高齢の方は全国にたくさんおられます。しかし専門医が少なく、対応しきれていないのが現状です」と指摘する。

こうした現状に対し長嶺センター長は、離島を含めた徳洲会グループの九州の拠点となる人工関節センターの創設を構想。さらにFuture Kneeを用い、アジア各国の患者さんを受け入れる国際医療への対応も視野に入れている。「今後、高齢化が進み患者さんが増えていくことが予想されるため、若い医師の教育が必要不可欠です。また、Future Kneeの開発で得た知見を生かし、日本やタイだけでなく、アジア各国の方々に、よりフィットする人工膝関節の研究も必要です」と意気込みを見せている。

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