徳洲会グループ TOKUSHUKAI GROUP

ダイジェスト

Tokushukai medical group newspaper digest

2017年(平成29年)10月16日 月曜日 徳洲新聞 NO.1104 一面

パーキンソン病
ペースメーカー症例に実施
MRgFUS 湘南藤沢徳洲会病院が世界初

湘南藤沢徳洲会病院(神奈川県)は9月26日、ペースメーカーを埋め込んでいるパーキンソン病患者さんに対するMRガイド下集束超音波治療(MRgFUS)に奏功した。ペースメーカーを有する患者さんに同治療を実施することは世界的に例がなかったが、院内倫理委員会(IRB)の承認を得て治療を実施。伊藤恒・神経内科部長は「対象患者さんの幅が広がる可能性が示されました」と話している。

対象患者さん広がるきっかけに

MRI室に入る前にペースメーカーの設定を切り替える MRI室に入る前にペースメーカーの設定を切り替える

患者さんは沖永良部島(鹿児島県)在住の70歳代男性。振戦優位型のパーキンソン病を発症し、右手の震えに悩まされていた。その後、洞不全症候群(洞結節の機能低下により徐脈が生じる不整脈のひとつ)も発症し、ペースメーカーを埋め込んでいた。

湘南藤沢病院でMRgFUSを統括する伊藤部長は、沖永良部徳洲会病院で、この患者さんを診療していたが、従来の薬物治療では振戦が改善しなかった。脳外科的な治療は希望されず、MRgFUSによる視床凝固術を行った場合、振戦の改善が予想されたが、ペースメーカーを有する患者さんは湘南藤沢病院で行っている同治療の臨床研究では、除外基準に該当してしまう。

湘南藤沢病院でのMRgFUSの経過

3月14日本態性振戦1例目
4月25日パーキンソン病 振戦優位型1例目
8月22日本態性振戦10例目(受付終了)
8月29日パーキンソン病 ジスキネジア1例目(1人治療待ち、残り8人受付中)
9月26日パーキンソン病 振戦優位型 ペースメーカーあり
10月3日パーキンソン病 振戦優位型3例目(4人治療待ち、残り3人受付中)
しかし、沖永良部病院の奥間五月・看護副主任が「なんとかならないものでしょうか」と発言したことをきっかけに、伊藤部長は複数の医師やメーカーと協議を重ね、従来の臨床研究とは別の臨床研究として治療を行うことを決断。院内のIRBにかけることで、第三者からの承認を得た。治療に先立ち、中部徳洲会病院(沖縄県)の轟純平・循環器内科医長がMRI(磁気共鳴画像診断)に対応できるペースメーカーに変更する手術を行った。

「ペースメーカーを埋め込んでいる患者さんに対する超音波治療は禁忌とされていますが、これは腎結石破砕術などペースメーカーから近い位置への超音波照射を想定しているからです。今回は超音波発生装置とペースメーカーの距離が離れているので、超音波がペースメーカーに影響を与える可能性はきわめて低いと考えました」(伊藤部長)

MRI室内のCCDカメラからの画像で治療効果をモニタリングする伊藤部長(左) MRI室内のCCDカメラからの画像で治療効果をモニタリングする伊藤部長(左)

治療前日には、沖永良部病院から賀来千勢子・看護副主任も来院。「読書が好きな方ですので、右手が震えることでページをめくるのが大変だったようです」。

治療当日は、ペースメーカーの不具合が生じた時に備えて除細動器が用意され、同院の田中慎司・循環器内科部長も待機した。まず、ペースメーカーの設定をMRIの影響を受けないように切り替えてから患者さんが入室。その後は、MRIガイド下に標的部位を確認しながら、超音波による熱凝固を繰り返した。

MRガイド下集束超音波治療(MRgFUS)

MRI(磁気共鳴画像診断)と超音波装置を組み合わせた治療法。MRIでリアルタイムに患部の位置と温度をモニタリングしながら、1024本の超音波を集束し患部を熱凝固する。外科的侵襲や感染のリスクがないこと、覚醒下に治療を進められること、治療直後に効果を確認できることなどが特徴。昨年12月に本態性振戦(自分の意思と関係なく身体の一部が震える疾患)の治療用医療機器として薬事承認を受けている。

今回は患者さんの右手をビデオカメラで撮影しながら治療。4回目の照射から超音波照射中に震えがなくなってきた。さらに照射を重ねると震えが完全に消えただけでなく、筋強剛(きんきょうごう)(パーキンソン病に特有の筋緊張の亢進)も消失、8回の照射で治療は終了。心配されていたペースメーカーの不具合は生じなかった。

伊藤部長は「患者さんに対して何かできないかと皆が知恵を絞った結果です。一例の治療経験にすぎませんが、MRgFUSを実施することができる患者さんの幅が広がる可能性が示されました」と話している。

パーキンソン病・ジスキネジア
MRgFUSの臨床研究で1例目

患部の温度が上がっているかモニタリングしながら治療を進める 患部の温度が上がっているかモニタリングしながら治療を進める

湘南藤沢徳洲会病院(神奈川県)は8月29日、ジスキネジア(不随意運動の一種)をともなうパーキンソン病の患者さんにMRガイド下集束超音波(MRgFUS)による淡蒼球(たんそうきゅう)凝固術を実施した。患者さんは70歳代女性で15年前にパーキンソン病を発症。薬物治療を続けてきたが、症状の日内変動やジスキネジアが顕著であるため、同治療を受けることになった。

この患者さんはジスキネジアをともなうパーキンソン病患者さんを対象とした臨床研究の1例目。振戦の治療ターゲットは視床腹内側核(ふくないそくかく)であるのに対し、ジスキネジアの治療ターゲットは淡蒼球内節となる。淡蒼球は視床よりも外側に位置しているため超音波が届きにくく、ターゲットの温度が上がりにくいのが難点だ。

当日の治療は超音波を12回照射して終了した。本態性振戦の治療よりも超音波の照射エネルギーを強くせざるを得なかったため、軽度の頭痛が生じたが、すぐに軽快。ターゲットが視神経に近いため視野障害の有無を確認しながら治療を進めたが、問題は生じなかった。治療後にジスキネジアは消失、抗パーキンソン病薬を半分以下に減らすことができた。

治療翌日、患者さんは「座ると足が震えてしまいバスや電車に乗れなかったのですが、これで安心して乗れるので近場に旅行に行きたいです。飲む薬の量が減ったのも嬉しいです」と笑顔を見せた。

同院の伊藤恒・神経内科部長は「淡蒼球凝固術は視床凝固術よりも技術的に難しいのですが、山本悟・眼科部長にもご協力いただき、重篤な有害事象を生じることなく治療を行うことができました」と振り返っている。

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