徳洲会グループ TOKUSHUKAI GROUP

病気の治療

medical treatment

代謝性疾患:糖尿病

尿病とは高血糖が持続する状態の総称

1971~1980年のデータで糖尿病患者と日本人一般の平均寿命を比べると男性で約10年、女性では約15年の寿命の短縮が認められています。

デンプンに代表される糖質(炭水化物)は、私たちの生命を維持する最も大切な栄養素の1つです。糖質は消化されてブドウ糖となり、血液中から全身の細胞に取り込まれて、主なエネルギー源として利用されます。循環血液中のブドウ糖を血糖といい、血糖値とは血液中のブドウ糖の濃度(mg/dl)を表しています。炭水化物を摂取すると血糖値は高くなり、運動などによりブドウ糖がエネルギーとして消費されると血糖値は低くなります。

健康な人の場合、血糖値はインスリンやインスリンと逆の働きをもつホルモン(グルカゴン等)のバランスにより、一定の範囲内にコントロールされています。そのため、食事や運動をしても血糖値が極端に変動することはありません。

正常な状態では膵臓から分泌されるインスリンとグルカゴンにより血糖値は概ね60~140mg/dlに調節されますが、この調節機構が障害されると高血糖が引き起こされます。糖尿病とは唯一の血糖降下作用を持つホルモンであるインスリンが膵臓から分泌されない、またはその量が不足している、あるいは分泌されているにもかかわらず十分に作用しないなど、さまざまな原因で慢性的に高血糖が持続する状態の総称です。慢性的な高血糖が結果的に是正されない場合、以下の慢性合併症を招きます。

主要な慢性合併症

  1. 大血管合併症;虚血性心臓病、脳血管障害、閉塞性動脈硬化症
  2. 細小血管合併症;網膜症、腎症、神経症

主要な慢性合併症は上記のように集約されます。合併症進行の典型例として次のような症例が想定されます。

34歳のときの検診で糖尿を指摘されたが放置。42歳で全身倦怠、体重減少を自覚したため病院を受診し、糖尿病との診断を受ける。内服治療を継続していたがHbA1c7.5%前後で推移。56歳で急性心筋梗塞発症、冠動脈内ステント留置。65歳で糖尿病性腎症、末期腎不全にて透析療法受療開始。70歳で脳梗塞発症、右片麻痺を生じ、車椅子生活となる。

コントロールがうまくいかなければ上記のように数回にわたり致死的疾患を合併することもあります。

成因と病型分類

※糖尿病は、下記のとおり4つのタイプに分けられています。

  1. ▽1型:インスリンをつくる膵臓の細胞が何らかの原因で破壊されることでインスリンがつくられなくなり、糖尿病になります。子どもや若年者に多くみられます。
  2. ▽2型:インスリンの分泌が不足し、はたらきが悪くなるために起こります。主に中高年以降にみられますが、若年者の発症も増加しています。日本人の糖尿病患者の大半が2型糖尿病とされています。
  3. ▽その他特定の機序、疾患によるもの:遺伝子の異常によるもの、他の病気や薬剤に伴って起こるものがあります。
  4. ▽妊娠糖尿病:妊娠中に胎盤でつくられるホルモンが、インスリンのはたらきを抑えるため、十分なインスリンがつくられない場合に血糖が上昇します。肥満、高齢妊娠、家族に2型糖尿病患者がいる、あるいは過去の妊娠で高血糖を指摘された場合に起こりやすいとされています。

糖尿病治療で目指す3つのコントロール目標

血糖コントロールの目標は、可能な限り正常な代謝状態を目指すべきであり、治療開始後早期に良好なコントロールを達成し、その状態を維持することができれば長期予後の改善が期待できます。
しかし実際には、年齢、罹病期間、併存疾患や血管合併症の有無、低血糖リスクの高低、医療サポート体制の良否等個別の状況を鑑み、HbA1c測定結果に基づき3つの範疇に分けて設定されています。具体的には血糖の正常化を目指す際の目標としてHbA1c6.0%未満、合併症予防のための目標としてHbA1c7.0%未満、治療困難な際の目標としてHbA1c8.0%未満という基準が設けられています。

治療の基本は生活習慣の改善

治療は食事、運動療法、薬物(内服、インスリン)療法がありますが、ここでは食事、運動療法について解説します。米国疾病予防センター(CDC)は、糖尿病の食事療法について、糖尿病の人は

推奨項目 食品例
脂肪特に飽和脂肪やトランス脂肪摂取の制限 肉の脂身、揚げ物、全乳、ケーキ、クッキー、クラッカー、パイ、ラード、ショートニング、マーガリン
砂糖を多く含む食品の制限 果物味の飲料、ソーダ、砂糖を含むコーヒーや紅茶
果物味の飲料、ソーダ、砂糖を含むコーヒーや紅茶 100%の全粒穀物による朝食シリアル、オートミール、玄米、100%の全粒粉パンなど
バラエティに富む野菜果物の摂取 果物は、新鮮なもの、冷凍もの、缶詰、乾燥もの、100%の果物ジュースを選ぶべきである。毎日、多くの野菜を摂取すべきである。例えば、濃い緑色の野菜(ブロッコリー、ホウレンソウなど)、オレンジ色の野菜(ニンジン、カボチャなど)、豆(黒豆、ソラマメなど)

これに加えて、米国国立医学図書館は次のように注意を喚起しています。砂糖を多く含む食品を制限すること、摂取する方法としてより少量ずつ1日にわたって摂取すること、いつどのくらいの炭水化物を食べるかに注意を払うこと。アルコールの摂取を減らすこと、食塩を減らすことを挙げています6 )。
さらに世界保健機構(WHO)は、「糖尿病」という文書のなかで、次のように述べています。

2型糖尿病を予防し合併症を防ぐために、次のようにすべきである。

  1. 健康的な体重にして、それを維持すること。
  2. 体をよく動かすこと(ほぼ毎日、中等度の強度の運動を1日に30分以上行うこと。体重をコントロールするためには、それ以上の運動が必要である)
  3. 健康的な食事をすること(1日に果物と野菜を3~5単位食べること。また、砂糖と飽和脂肪の摂取を減らすこと。)
  4. 禁煙(喫煙は、心血管疾患のリスクを高める)。

以上、食事療法について総論的に解説しましたが最後に歯周病との関連について最近の知見を紹介します。歯周病は、心筋梗塞やバージャー病、肋間神経痛、三叉神経痛、糖尿病と密接な関係にあることが最近の研究8)9)で明らかになってきました。糖尿病ではPorphyromonas gingivalis感染が分泌を促進する腫瘍壊死因子と呼ばれるタンパクにより糖尿病が増悪され、それによって歯周病がさらに増悪されるという負の連鎖が起こるとされています。これは「歯周病菌連鎖」と呼ばれており糖尿病の治療を考えるとき、歯周病の治療も極めて重要であることを示唆しています。

参考文献
  1. 坂本信夫「内科診療の進歩糖尿病合併症の成因と対策」第78巻第11号、1989年、 doi:10.2169/naika.78.1540。
  2. Sakamoto.N et al (1983). “The features of causes of death in Japanese diabetics during the period 1971-1980.”. The Tohoku Journal of Experimental Medicine 141 (Suppl): 631–638. doi:10.1620/tjem.141.Suppl_631. ISSN 1349-3329.
  3. 厚生労働省:http://www1.mhlw.go.jp/topics/kenko21_11/b7.html#A71
  4. 日本糖尿病学会編・著: 糖尿病治療ガイドライン2016, p27、南光堂, 2016
  5. CDC: https://www.cdc.gov/diabetes/managing/eatright.html
  6. 米国国立医学図書館:https://medlineplus.gov/diabeticdiet.html
  7. WHO: http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs312/en/
  8. 吉江弘正他 『臨床歯周病学』 医歯薬出版 2007年 ISBN 9784263456040
  9. Khader YS, Dauod AS, El-Quaderi SS et al.: "Periodontal status of diabetics compared with nondiabetics: a meta-analysis." Journal of Diabetes and Its Complications. January–February, 2006 Volume 20, Issue 1, Pages 59–68, doi:10.1016/j.jdiacomp.2005.05.006

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