病気の治療
medical treatment
medical treatment
脂質異常症そのものの自覚症状はほとんどないため、大半は検診により指摘されて受診されるケースです。しかし、脂質異常症は動脈硬化を進行させる重要な危険因子であり、これにより脳血管障害や虚血性心疾患など動脈硬化性疾患を合併し、生命に危険をもたらします。若年発症の心筋梗塞自験例中、低HDL血症例が稀ではありませんでした。したがって、その治療にあたっては動脈硬化を起こす危険因子(高血圧、肥満、糖尿病、尿酸値、脳血管障害、喫煙習慣などの有無、加えて年齢、家族歴等)を十分に評価したうえで治療方針を立てる必要があります。
脂質異常症はLDLコレステロール140㎎/dl以上、中性脂肪150mg/dl以上、HDLコレステロール40mgdl未満のいずれかを満たすものと定義されます1)。以前は総コレステロールが220mg /dlという基準が含まれていましたが新たなガイドラインでは総コレステロールの基準は削除されました。
さて、高脂血症の基準にあるLDLコレステロールはいわゆる悪玉コレステロールであり、HDLコレステロールはいわゆる善玉コレステロールです。一般的にはLDLコレステロールが上がれば上がるほど、HDLコレステロールが下がれば下がるほど動脈硬化が起こりやすいと考えられています。中性脂肪に関しても動脈硬化、糖尿病、急性膵炎との関連が示されているので注意が必要です。
空腹時に採血して総コレステロール、中性脂肪、HDLコレステロールを測定します。LDLコレステロールは {総コレステロール−中性脂肪/5-HDLコレステロール}の式から計算します。基準値は前述のとおりです。
脂質異常症があることを指摘されたら、家族性高コレステロール血症(血縁者に起こる)など若年で狭心症・心筋梗塞を起こす可能性の高い脂質異常症の有無を診断できる専門医を受診することが望ましいのですが、その前にまず内科医を受診してください。甲状腺機能低下症、糖尿病、薬剤などが原因で脂質異常症が起きている場合もありますので、他の因子の関与を検討する必要があります。
一般的には卵などコレステロールを多く含む食事や動物性脂肪を多く含む食事は避け、魚や野菜を中心にバランスを考えた食事を摂りましょう。可能であれば自分のペースで1日30分以上歩きましょう。運動と食事が治療の基本となります。それでも下がらない場合は薬物療法の適応を考慮する必要があります。
内服薬としては、LDLコレステロールが高い場合はHMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン製剤)や胆汁酸吸着レジンであるコレスチミドが処方されます。また、小腸でコレステロールの吸収を抑制するエゼチミブも時に有用です。中性脂肪が高い場合はフィブラート系製剤やニコチン酸が処方されることがありますが、予後改善の観点からいまだ賛否両論があります。薬を内服する場合には服用開始から数カ月間異常がなければ、以後は3~4カ月ごとのチェックを受けてください。
多くの臨床試験により、高脂血症の治療が心筋梗塞や脳梗塞の発症防止に有用であるという結果が示されており、LDLコレステロールを下げたほうが病気になりにくいという結果が出されています。4S試験2)では、すでに虚血性心疾患をもっている人を対象にしていますが、発症年齢に関係なく心筋梗塞の再発を予防するためには、スタチン系製剤で血中LDLコレステロール値を低下させれば予防効果が認められたという成績が発表されています。
日本においてもスタチン系製剤を用いた大規模臨床試験のMEGA試験3)における高齢者の解析でも、これを服用した群において心血管イベント抑制効果が証明されています。ただし、75歳以上の後期高齢者についてはすでに心筋梗塞を起こしている場合は別として、そのような病気を起こしていない人に対する治療根拠については十分なデータが得られておらず、主治医とよく相談する必要があります。