徳洲新聞ダイジェスト
Tokushukai medical group newspaper digest
Tokushukai medical group newspaper digest
2022年(令和4年)08月15日 月曜日 徳洲新聞 NO.1351 1面
南部徳洲会病院(沖縄県)は人工関節に特化したロボティックアーム手術支援システム「Mako」を導入した。同システムは人工関節を設置する際の前工程である骨切り(傷んだ骨を削る工程)をサポートする機器。ロボティックアーム(人の手の代わりに作業を行う機械の腕)を医師が操作することで、安全かつ正確な手術を可能にする。徳洲会で初導入。1例目は5月9日に実施。
人工関節に特化したロボティックアーム手術支援システム「Mako」(写真提供:日本ストライカー)
加齢にともない膝関節や股関節の軟骨がすり減ることで発症する変形性関節症。進行すると痛みが強く、QOL(生活の質)の大幅な低下を招く。薬物療法や運動療法、装具療法で効果が得られなくなった場合、外科的に人工膝関節置換術や人工股関節全置換術を行うことが治療の選択肢となる。
これら手術は、骨切り後に人工関節に置き換える治療で、痛みを取り除く効果が高い。ただし、どんなに質の高い人工関節を用いても、骨切りが正確に行われなければ、脱臼や痛みなどの合併症が起きる可能性がある。
この骨切りを安全かつ正確にサポートするのが、手術支援システム「Mako」だ。同システムはロボティックアーム、カメラスタンド、ガイダンスモジュールで構成。手術ではカメラスタンドに映し出された画像を見ながら、医師がロボティックアームを操作し、メーカーの補助者がガイダンスモジュールから操作をサポートする。
「ロボット支援手術が日本でも主流に」と新垣部長
これまでの骨切りは、骨の変形が強かったり固かったりすると、弾かれてうまく切ることができず、また、神経や血管を傷付けるリスクがあるため、時間をかけて少しずつ切り進めなければならなかった。こうした状況を回避するために、骨切りガイドを設置し作業を進めるが、設置に時間がかかるうえに、骨がもろいとガイドがずれてしまい、正確に骨切りができないなど課題があった。
一方、Makoシステムを用いれば、骨切りガイドは不要。同システムでは医師がロボティックアームの操作をするが、手振れすることなく正確に動き、かつ治療計画にない部分にさしかかると自動的に止まる仕組みだ。手術範囲は事前に1㎜単位でのCT(コンピュータ断層撮影)画像を撮影し、精密なデータを入力することで決まる。
同院は、同システム導入前の2019年9月に、ナビゲーションシステムを導入。これは画像データを取り込むことで、手術する角度や深さを指示するデータを表示し、視覚と数値を確認しながら手術が可能。ただし、実際に手術を施すのは医師の手だ。新垣宜貞・整形外科部長は「Makoはナビゲーションシステムの先にある先端的な機器と言えるものです。3年前に米国で見学し、恐らく日本でも主流になっていくだろうと感じ、当院でも導入したいと考えていました」と明かす。
Makoを用いた人工膝関節置換術の様子
Makoシステムの導入は、患者さんにとってもメリットが大きい。そのひとつが手術中の合併症の低減。海外文献によると、30例中で人の手による手術での合併症は8~18件だが、同システムを用いると0件となったとの報告がある。新垣部長は「人の手による手術は医師の経験や感覚によるものも大きく、周辺の血管や神経を傷付けるリスクがあります。傷を付けると修復に時間がかかり、痛みを残す原因にもなります。一方、Makoでは、手術が必要な範囲内でしか動きませんので、術中の合併症は低減されます」と強調する。
また、手術時間が短くなり、個人差があるものの術後の痛みも軽減され、入院期間の短縮につながる。正確な手術により患者さんに安心感を与え、満足度も高くなる。
新垣部長は「大腿骨頸部骨折に対してMakoは使えないため、これまでどおりナビゲーションシステムによる人工股関節全置換術を行っています。今後は、変形性膝関節症や大腿骨内顆骨壊死など痛みの原因が関節内側部にある症例に対しては、内側部のみを人工関節に置換する人工膝関節単顆置換術も行う予定です」と展望。「ロボット支援手術に関する知識がない患者さんもいますので、丁寧な説明を心がけます。地域の医療機関への広報活動も強化していきます」と意欲的だ。