直言
Chokugen
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直言 ~
笹壁 弘嗣(ささかべひろし)
新庄徳洲会病院(山形県) 院長
2022年(令和4年)08月15日 月曜日 徳洲新聞 NO.1351
問題、昭和歌謡の名曲「津軽海峡・冬景色」、「北の宿から」、「哀しみ本線 日本海」に共通するのは何でしょう。答え、北国と冬と恋に破れた女です。山形に18年住んで、雪は白くサラサラしたものではなく、灰色の重い塊と思えるようになりました。この「直言」は、そんな敗者の昭和歌謡が好きな私の世迷い言です。
今回の理事長選挙も混乱を招いたことは大変残念であり、理事の端くれとして責任も感じます。すでに決着済みのことを報じた週刊誌記事について、執行部は調査をすると表明しました。候補者が関係していては大変と、結果を待って選挙をするよう私は主張しましたが、予定通り行われ、東上震一先生が第4代理事長に選出されました。過去2回と異なり、選挙管理委員会を設置し所信表明後、質疑書提出とそれに対する候補者からの回答も得られるようになりました。これは一歩前進ですが、所信表明はオンラインで、質疑書は同委員会が要約し候補者に閲覧され、それに対する回答も文書での公開となり、対面で討議を行う機会は投票まで一度もありませんでした。前回の選挙で理事会が紛糾したので、それを避けようという配慮かもしれませんが、冷静に議論できる集団でないと理事会が見なされていると、私は強い不満を感じました。
新執行部には、①徳洲会の組織管理体制の構築、②現場からの意見収集、③徳洲会だからこそできる研究、④無駄な医療への取り組み――を望みます。
①は数年間の混乱を真摯に反省し、新たな組織をつくり上げることです。徳洲会は4万人弱の職員を抱える巨大組織になりました。歴史上、大きさゆえに内部崩壊した組織は数多くあります。徳田虎雄・名誉理事長の偉大さや、徳洲会を発展させた鈴木隆夫・元理事長の功績は疑う余地はありませんが、その手法がこれからも通用するというのは間違いです。変えてはいけないことを守りながら、時代に合ったやり方で柔軟に対応することが必要です。医療は弱者のためのものであり、医療人は背負う荷物が重いのは、当然であるということを忘れてはなりません。同時に、弱者は何をやっても許されるとか、医療者は患者さんの奴隷になるという考えには、毅然と対抗しなければなりません。
新理事長の下では意思決定の透明性を保ち、説明責任を果たすために、最高意思決定機関の「社員総会」がどのような構成で、どのような形で行われているかを公表すべきです。いろいろな考えを持った人間が、心を一つにするというのは新興宗教でも難しく、考え方の違いを受け入れたうえで、“生命だけは平等だ”の理念を共有しながら、冷静に議論して集合知を得られるかが重要です。一方では時に血を流す覚悟も必要と思います。
②は現場からの知恵を拾い上げることです。新理事長が全国の病院や施設を回ると宣言されたのは素晴らしいことです。自分の口数を減らしてでも周りの声に耳を傾けてください。とくに初対面の人や反対意見をフラットな気持で聞いてください。『徳洲新聞』に「こんなことを言われた」と書かれると、職員は自分のことを聞いてくれていたと喜ぶでしょう。東上理事長は私のような偏屈者の話も聞いてくださったので心配はしていませんが、多忙でも対面で話を聞くことを忘れないでください。
③は徳洲会ならではの研究をするということです。急性期から慢性期の病院や多数の介護施設を擁する我々にしかできないこと、たとえば介護用品や介護ロボットを開発することは日本の医療と介護に貢献できます。
④は医療改革の中心問題です。「Choosing Wisely(CW、賢い選択)」は世界的に話題になり、我が国でもCW-Japanが発足しましたが、残念ながら浸透しているとは言えません。無駄な検査や薬、手術などを抑制することは医療費抑制だけではなく、国民の利益になるという考えに立って、徳洲会が率先できれば素晴らしいと思います。
③や④の活動に取り組めることは、意味不明の「働き方改革」とは異なり、職員の「働きがい改革」になると信じています。かつて徳田・名誉理事長が家族の死の無念を晴らすために、救急医療を改革したことに次ぐ可能性もあると思います。新体制の下、皆で頑張りましょう。