2019年(令和元年)12月16日 月曜日 徳洲新聞 NO.1215 三面
TIS創立10周年
徳洲会ICT化促す 「次の10年はAIとPHR」
徳洲会インフォメーションシステム(TIS)は創立10周年を迎えた。同社は徳洲会病院への電子カルテの導入や医療ビッグデータを蓄積するインフラの構築、データの統計解析を行うシステム開発などを通じ、グループ全体のICT(情報通信技術)化を統括・推進している。尾﨑勝彦社長に同社の展望を聞いた。
「選ばれる病院にならないと生き残れません」と尾﨑社長
TISは2009年10月28日、電子カルテの統合、グループ全体の情報共有化などを目的に設立。尾﨑社長は「10年前には今の会社の形は想像できませんでした。モチベーションの高い社員のおかげです」と目を細める。
大きなターニングポイントのひとつとして、尾﨑社長は「グループ専有のネットワークを確立したこと」を挙げる。
現在、徳洲会の全病院が閉域網のVPN(VirtualPrivate Network)を整備、65病院の電子カルテも同ネットワークに接続している。こうした環境の下、グループ内の各種データを一元管理できるようになった。
運用の背景には、グループ横断的な情報システム管理部会(SE部会)の設立がある。同部会は各病院に所属するシステムエンジニア(SE)約130人で構成、医療分野のICTに関する情報提供・共有、法的事項の整備など行う。尾﨑社長は「各病院のSEが勝手に電子カルテを設定したら、情報の一元管理はできません。こうした部会があるのが、徳洲会の最大のメリットと言えます」と強調する。
同様に医療データのマスターコード(管理番号)統一も、グループの各診療科の医師やコメディカルなどで構成する各部会と協力することで実現。現在までに約8割のコードを統一した。
こうしたデータは、グループ内で学会発表や臨床研究などに活用、MID – NET(国の医療情報データベース)にも提供している。同データベースは医薬品などの副作用の解析に用い、安全対策の高度化を推進するのが目的。これまで徳洲会から10病院がデータを提供していたが、今年からさらに10病院を追加した。
また、TISはBI(病院運営管理)ツールの構築、薬品発注管理システム「MEDITIS」や医療材料発注管理システム「ZAITIS」の開発などにより、病院運営をサポートしている。
もうひとつ大きなターニングポイントとして、「17年度から新卒採用を開始したこと」が挙げられる。現在、社員30人のうち新卒入社は12人、さらに来年度入社予定の新卒内定者も7人いる。尾﨑社長は「新卒採用を始めた時は嬉しかったです。当社には可能性があふれています。これからも若い力を育てていきたい」と意欲的だ。
試験中の受付システム
これからの10年のキーワードとしてAIとPHRを掲げる。
一般社団法人徳洲会とシーメンスヘルスケアは、AI(人工知能)ソリューションを用いた画像診断の共同研究と検体検査の工程の完全自動化、人材最適化に向けた超音波研修プログラムに関するパートナーシップ(共同事業)契約を締結。TISは徳洲会が保有する医療ビッグデータを匿名化、機密保持に万全を期し研究用に提供している。
AIを活用した受付システムの開発にも着手。機械学習を用いた自然言語処理、人物同定機能、顔認識機能、音声認識機能などを深化し、医療現場のさまざまな場面で応用できるシステムを目指す。また「Aiカルテ構想」も推進。これは患者さんの既往歴や主訴、画像・検査データ、文献データなどを使い総合的に診断をサポート、最適治療の選択支援を行うものだ。
一方、PHR(PersonalHealth Record)は、患者さん本人が自らの医療・健康情報を管理し、いつでも情報にアクセスできる仕組み。専用サーバーに保存した健診結果データを、受診者はスマートフォンなど端末からアクセス、いつでも閲覧できる。現在は徳洲会グループの職員を対象に試験運用しており、修正を加えたうえで今年度中には職員以外の一般に向けサービスを開始する計画だ。
尾﨑社長は「これからは患者さん一人ひとりに、よりきめ細かいサービスを提供する必要があります。選ばれる病院にならないと生き残れません。10年間で築き上げた基盤を生かし、次の時代のニーズを読んで、成長していきたいと思います」と未来を見据えている。