徳洲会グループ TOKUSHUKAI GROUP

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Tokushukai medical group newspaper digest

2018年(平成30年)10月15日 月曜日 徳洲新聞 NO.1155 一面

成田富里病院
ハイブリッド手術室を開設
ステントグラフト内挿術など実施

成田富里徳洲会病院(千葉県)はハイブリッド手術室を開設、9月18日に1例目の手術を実施した。同手術室は、心臓や脳の血管撮影などに対応した高性能のX線透視装置を配備した手術室を言う。清浄な環境や無影灯による照明など手術室と、カテーテル検査・治療室のそれぞれの特徴をあわせもつ。外科手術と血管内治療の双方に対応可能であるため、網目状の金属が付いて折り畳まれた人工血管を病変のある部位までカテーテルで導き、血管の内側から押し広げて血管を補強する大動脈ステントグラフト内挿術など高度な手術を、より安全に実施することに役立つ。

TAVIやMitraClipも視野

「地域医療に貢献していきたい」と荻野院長 「地域医療に貢献していきたい」と荻野院長

徳洲会グループでハイブリッド手術室を開設しているのは、近年に新築移転した病院を中心に、成田富里病院を含め合計14施設に上る。同手術室は放射線を遮蔽(しゃへい)するために、手術室全体を囲む壁の中に、鉛を埋め込んだ構造となっている。

昨年12月に院長に就任した同院の荻野秀光院長は「当院は2015年9月に開院しました。設計の段階で、すでに将来的にハイブリッド手術室を設置する構想があり、手術室のひとつを、壁に鉛を埋め込んだハイブリッド仕様としていました。私が血管外科を専門としていることもあり、大動脈や末梢(まっしょう)血管の疾患などに対する血管診療の充実を目標に掲げ、血管診療を行ううえで大きな武器となるためハイブリッド手術室を開設しました」と話す。

同院で稼働している手術室は計5室。このうち1室がハイブリッド手術室だ。なお、もう1室は内視鏡下手術支援ロボット「ダヴィンチ」の専用室となっている。
病院名 所在地
札幌東徳洲会病院 北海道札幌
羽生総合病院 埼玉県羽生市
千葉西総合病院 千葉県松戸市
成田富里徳洲会病院 千葉県富里市
湘南鎌倉総合病院 神奈川県鎌倉市
湘南藤沢徳洲会病院 神奈川県藤沢市
名古屋徳洲会総合病院 愛知県春日井市
宇治徳洲会病院 京都府宇治市
岸和田徳洲会病院 大阪府岸和田市
松原徳洲会病院 大阪府松原市
吹田徳洲会病院 大阪府吹田市
福岡徳洲会病院 福岡県春日市
大隅鹿屋病院 鹿児島県鹿屋市
中部徳洲会病院 沖縄県中頭郡北中城村

(2018年10月時点)

7月から9月中旬にかけ、ハイブリッド手術室として使える状態にするための工事を行ったり、高性能なX線透視装置を新たに導入したりするなど準備を進めてきた。新規導入したのは、バイプレーン(X線の照射装置と検知器を両端にもつCアームが2台ある)の血管撮影装置で、従来機と比べ操作性の向上や被ばく低減などを実現、患者さんや術者の負担軽減に貢献する。

同手術室を開設したことで、大動脈瘤(りゅう)が広範囲にわたっている場合などに開胸手術(バイパス手術)とステントグラフト内挿術を同時に施行し、できるだけ患者さんの負担を軽減するハイブリッド手術に取り組むことが可能となった。また、血管内治療の継続が難しいケースでは開胸、開腹手術に移行することがあり、その場合も円滑な対応が可能だ。

当面は胸部・腹部大動脈瘤や末梢血管疾患の治療に加え、ペースメーカー植え込み術やシャント造設手術も、より効率的に施行可能になることから、これら手術を対象にハイブリッド手術室を活用していく方針。

将来的には、現在は標榜(ひょうぼう)していない心臓血管外科の体制が整えば、TAVI(経皮的大動脈弁置換術)やMitraClip(経皮的僧帽弁接合不全修復システム)なども実施する方針。

同院院長に赴任する以前、荻野院長は湘南鎌倉総合病院(神奈川県)で外科部長、シャントケアセンター長、大動脈センター長、副院長などを歴任。その間、胸部大動脈瘤や腹部大動脈瘤に対するステントグラフト内挿術などを多数経験した実績がある。成田富里病院でもハイブリッド手術室が完成する以前から、カテーテル室でステントグラフト内挿術を実施してきた。

1例目は腹部大動脈瘤に対するステントグラフト内挿術 1例目は腹部大動脈瘤に対するステントグラフト内挿術

国内では高齢者人口の増加や動脈硬化など生活習慣病の蔓延を背景に、大動脈疾患は増加傾向にある。大動脈瘤は無症状であることが多く、破裂してしまうと死亡率が高い危険な疾患だ。「動脈瘤が大きいほど破裂のリスクが高まります。目安は5㎝(瘤直径)です。破裂してしまった場合、約85%は死に至ります」と荻野院長は警鐘を鳴らす。

症状が乏しいことから、他の疾患の精査中に、腹部エコーやCT(コンピュータ断層撮影)で発見されることが多い。これらの簡単な検査で容易に発見が可能であるため、定期的な人間ドックの受診が大切だ。

荻野院長は破裂前の患者さんへの適切な治療の実施を目指し、啓発活動に注力。1カ月に4回前後、大動脈瘤に対するステントグラフト内挿術や、末梢血管の疾患である下肢の閉塞性動脈硬化症などをテーマに、医療講演を行っている。

さらに今後、地域の救急隊員を招いてハイブリッド手術室の内覧会を催したり、合同勉強会を開いたりするなどし、地域に開かれた医療資源のひとつとして有効活用を進めていきたい考えだ。

9月18日に施行した1例目の手術は、以前、同院で心臓カテーテル検査を受けたことがあり、経過観察を続けていたかかりつけの患者さん。検査の過程で腹部大動脈瘤が見つかり、瘤が大きくなってきたことからステントグラフト内挿術を実施。外科チームや麻酔科医、手術室看護師、診療放射線技師など多職種チームで遂行。入院期間は4日間で、経過は順調だ。

同院ではその後も大動脈瘤に対するステントグラフト内挿術や、下肢閉塞性動脈硬化症に対するバイパス手術と血管内ステント留置術の同時施行などの症例に取り組んでいる。

同院は昨年、回復期リハビリテーション病棟48床を開設。さらに今年3月には同院10階と11階に病院併設型の介護老人保健施設成田富里徳洲苑が計200床でオープンするなど、急性期から回復期、介護まで診療機能の多様化が進んでいる。今後は、がん医療や在宅医療の分野も強化していく。荻野院長は「地域の医療機関と相補的な関係を築き、地域医療に貢献したい」と意欲を見せている。

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