徳洲新聞ダイジェスト

Tokushukai medical group newspaper digest

2026年(令和8年)02月09日 月曜日 徳洲新聞 NO.1529 3面

1月度 徳洲会グループ 医療経営戦略セミ
「盾」の細胞治療と「矛」の標的化分子治療
従来と一線画すALS先端治療戦略
寺島・湘南鎌倉病院特任部長が解説

徳洲会グループ医療経営戦略セミナーの1日目、湘南鎌倉総合病院(神奈川県)の寺島智也・脳神経内科特任部長は「ALSを中心とした神経疾患への先端治療戦略~細胞治療と標的化分子治療~」と題し講演した。

ALSの早期診断と治療介入の重要性を説く寺島・特任部長

筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、全身の筋力低下を招く進行性の神経変性疾患。国内の有病率は2020年に1万人を超え、今なお増加している。発症から5年以内に、多くが呼吸障害に至る過酷な疾患である一方、既存薬であるリルゾールやエダラボンは、病勢をわずかに遅らせる対症療法の域を出ない。寺島・特任部長は、この現状を打破すべく、細胞そのものを活用する「細胞治療」と、必要な場所に薬剤を届ける「標的化分子治療」という2段構えのパラダイムシフトを提唱した。

まず、細胞治療の最前線として、骨髄由来細胞の脊髄への集積現象に着目した戦略を示した。ALSの病態悪化には、中枢神経の免疫を担うミクログリアが深く関与。本来は神経保護に働くべき免疫細胞が、炎症を惹起する「M1型」に傾き、神経保護を担う「M2型」とのバランスが崩れることが、神経脱落の大きな一因とされる。

これに対し寺島・特任部長は、独自の誘導法により、骨髄細胞を効率的にM2型に分化させた「BM-iMG細胞」を開発。この手法は従来法に比べ約5倍という細胞数を確保できる利点をもち、実際にマウスモデルでは、運動機能の劇的な改善と生存期間の延長を証明した。

さらに、この細胞制御技術はALSにとどまらず、脳梗塞の慢性期モデルでも、発症2週間後の投与で運動機能を回復させる成果を創出。

こうした知見は、すでに脊髄損傷治療で実用化されている骨髄由来間葉系幹細胞(ステミラック)との併用や、同院の大竹剛靖・副院長兼再生医療科部長が進めるCD34陽性細胞を用いた腎再生医療とのシナジー(相乗効果)など、臨床現場での早期実現が期待される。

細胞による保護という「盾」の戦略に対し、次なる「矛」として提示したのが、特定の細胞にのみ治療薬を送り届ける標的化分子治療の革新だ。その肝となるのが、臓器ごとの「郵便番号」を特定する「モレキュラー・ジップコード」という概念。寺島・特任部長は、留学時に知り合った米MDアンダーソンがんセンターのブラジル人研究者から、直接伝承されたファージディスプレイ法(ブラジルメソッド)を駆使し、特定の組織にのみ結合する「ホーミングペプチド」を同定する技術を確立した。

この技術を応用し、標的組織にのみ特異的に遺伝子を導入することに成功。寺島・特任部長は「副作用を最小限に抑え、必要な場所にのみ薬剤を届けるこのデリバリー技術は、従来の全身投与型療法とは一線を画す、次世代の精密医療を具現化するもの」と力を込めた。

さらに、ALSの病態の核であるRNA代謝異常に対する最先端の介入策として、エクソソーム(細胞外小胞)に着目した研究も紹介。エクソソームの構成タンパク質を工学的に改変し、独自のホーミングペプチドを組み込むことで、患部へ薬剤を送り届ける「標的化エクソソーム」の開発を進めている。

ALSは、初期段階では末梢神経障害や脊髄疾患などとの判別が困難であり、診断の遅れが予後を左右する。

寺島・特任部長は、48人の患者さんから得た髄液サンプルの解析を通じ、疾患の進行速度を明確に分けるふたつの有力なマイクロRNA候補を同定したことを明かし、「このバイオマーカー研究が進展すれば、患者さん一人ひとりの予後を予測し、最適なタイミングで先端治療を投入することが可能となります」と締めくくり、難病に立ち向かう決意を示した。

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