
徳洲新聞ダイジェスト
Tokushukai medical group newspaper digest

Tokushukai medical group newspaper digest
2025年(令和7年)09月16日 火曜日 徳洲新聞 NO.1509 1面
徳之島徳洲会病院(鹿児島県)は10月1日、現病院から北東方向へ直線距離で約1.5kmの場所に新築移転オープンする。同院は1986年10月に徳洲会グループ初の離島病院として開院。約40年が経過し、建物・設備の老朽化が目立ってきたことから、地域医療の維持・充実や療養環境の改善のため建て替えを実施した。新病院は徳田虎雄顕彰記念館を間近に臨む高台に立地、津波被害を受けにくく、暴風雨を受け流す楕円形の構造とするなど災害や台風に強い病院に生まれ変わった。移転と同時に199床から218床に増床し、さらに12月までに237床となる。地域包括ケア病棟を新たに開設するなど機能向上を目指す。
「結いのひろば」と命名された総合待合は、吹き抜けのゆったりした空間
開放的なオープンカウンター式のスタッフステーション
透析室は33床に増やし、受け入れ能力が向上
主玄関とは別に感染・発熱者専用の入口を設置
暴風を受け流す楕円形が特徴的な新病院の外観
「新しく生まれ変わった建物や装置に恥じないよう職員も研鑽」と田代副院長
徳之島は徳洲会創設者である徳田虎雄・名誉理事長の故郷であり、少年時代に幼い弟を亡くして医師を志すこととなった原点の地だ。1973年に徳洲会を創始してから13年後の86年、徳田・名誉理事長はついにその悲願を叶え、グループ初の離島病院として徳之島徳洲会病院を開院した。
以来、約40年間という長きにわたって島民の方々に寄り添ってきた現病院は、老朽化には抗えず、新築移転を迎え、新たに生まれ変わることとなった。
新病院は鉄筋コンクリート造の地上6階建てで、敷地面積は約3万2,000㎡、延床面積は約1万8,000㎡。新築移転後、長期間、島の医療を守っていくため、新病院には災害や厳しい環境に強い病院という特徴をもたせた。
立地について、現病院は徳之島町亀津の市街地の一角にあり、海抜3mの地点だが、新病院は徳田虎雄顕彰記念館を間近に臨む同町亀徳の高台に位置し、海抜は23mに達する。これにより津波被害のリスク低減を図った。
また、“台風銀座”と呼ばれる奄美群島では、台風対策が欠かせない。
海側から吹き込む暴風雨を受け流す楕円形の構造とし、玄関や救急出入口の周辺には、“ひんぷん”と呼ばれる意匠をこらした衝立状の壁を設け、台風や海風から守る工夫を施した。
さらに、建物内への強風の侵入を防ぐため、風除室を二重に設置。海からの潮風による塩害を減らすため、建物各階の外周部分には水道の蛇口を取り付け、ホースからの水で直接、外壁やサッシを洗い流せるようにした。
非常用自家発電設備は、現病院では燃料備蓄用のタンクから燃料を発電機に投入する際、手動で運搬する必要があったが、新病院では備蓄タンクから自動的に発電機に燃料を供給する仕組みが備わっており、人手が限られる有事の際の省力化に寄与する。
コロナ禍の教訓をふまえ、主玄関とは別に感染・発熱者用の出入口を設け、臨時のプレハブ建屋などを設置することなく、感染外来を開設できるスペースもあらかじめ設計に組み込んだ。
1階のエントランスホールを抜けると、「結いのひろば」と名付けた吹き抜けの広い空間がある。受付や会計、薬局、入退院支援室、売店などで囲まれた総合待合としての役割を有している。
同じ1階にある救急処置室は広いスペースに3ブースを設け、現病院にはない洗浄室を新設。徳之島では農作業中の事故なども多いことから、救急搬送後のスピーディな洗浄と処置を行ううえで有用な設備だ。
急性期機能の向上を図るため、新病院ではHCU(高度治療室)8床を将来的に開設する計画。手厚い人員配置が必要であるため、術後の患者さんや心臓カテーテル後の患者さんの受け入れなど実績をつくりながら、要件を満たすことができ次第、HCUとして届け出を行い、運用を開始する見とおしだ。
3階から5階までが病棟で、海側の病室からは海景を一望できる。各病棟の中央にオープンカウンター式のスタッフステーションを配置し、効率的に患者さんの見守りを行うことができるようにした。また病棟では、見守りカメラの導入による患者さんの安全性向上に加え、スマートフォンから電子カルテの記載が可能になるシステムを導入。これにより、電子カルテ用ノートパソコンをカートに乗せ、ベッドサイドに移動する必要がなくなったため、カートの走行音がなくなり、療養環境の改善にもつながる。
手術室は3室、心臓カテーテル室は1室をそれぞれ確保。透析室は現病院の23床から33床へ10床増床を図った。
1階の主玄関のほかに、後背地の斜面を利用して2階にも出入口を設けた(ダブルアプローチ)。透析室や通所リハビリテーション室は、この出入口のそばに配置。患者さんの利便性を高めると同時に、外来患者さんとの動線を分けることで、密集緩和による感染対策を強化した。
正面の白い外壁の建物が徳田虎雄顕彰記念館。徳之島近海ではホエールウォッチングを楽しむことができる
雄大な太平洋を望む新病院。海側の病室からは海景を一望
同院は新築移転オープンと同時に19床増床し218病床となり、12月にも19床増え合計237床に段階的に増床を図っていく予定。これらの増床分は、HCUや、今後開設を計画している地域包括ケア病棟(34床)に充てていく構想だ。
同院は一般病棟、回復期リハビリ病棟、療養病棟をもっており、これに地域包括ケア病棟が加わることで、ケアミックス病院として、より患者さんの状態に合わせた入院の受け入れ体制を整備していく方針だ。
最上階の6階には雄大な海景を眺望できる職員食堂を設置。職員や患者さん・家族、地域の方々も利用できる。駐車場も現在の2倍以上の約450台に拡張し、利便性を高めた。
医療機器に関しては、256列のマルチスライスCT(コンピュータ断層撮影装置)を新たに導入し、血管造影装置も高性能な装置に更新する。
都市部と遜色ない医療を提供するため、虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞など)に対するPCI(経皮的冠動脈形成術)や、四肢に対するEVT(末梢血管内治療)といったカテーテル治療、不整脈に対するペースメーカー植え込み術など幅広い循環器診療を実践している田代篤史・副院長兼循環器内科部長は、「導入したCTは短時間で鮮明な画像を撮影でき、息止めの時間を短縮できるなど患者さんの負担を軽減します。血管造影装置も被ばく量の低減など患者さんの負担が減る一方で、画質は向上していますので、それぞれ診断能の向上や治療への寄与が期待できます」と説明。
そのうえで「機器を入れるだけでは診療機能の向上とは言えません。やはり、新しく生まれ変わった建物や装置に恥じないよう、職員も研鑽を積みブラッシュアップしていく必要があると感じています。そして、医師をはじめ、さらにマンパワーの拡充を図っていくことが当院の課題だと考えています」と指摘。同院は日本循環器学会専門医研修関連施設の認定を受けており、田代副院長は今後、日本心血管インターベンション治療学会研修関連施設の認定取得も目指す考え。
なお、徳之島は2021年に「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」として世界自然遺産に登録、徳之島には闘牛観戦やホエールウォッチングなど豊かな自然観光資源がある。こうした地の利と健康増進などを組み合わせ、国内外から受診者さんを呼び込む“ヘルシー・リゾート・アイランド構想”の実現に向けて、引き続き邁進していく考えだ。
新納直久院長
2014年に赴任した時より、天井からの水漏れが見られるなど、患者さんには不便をかけてきましたので、何よりも患者さんのために、今回、新築移転できたことをうれしく思います。
離島という特性上、救急搬送を受けた後、当院では対応が難しい場合、奄美ドクヘリや自衛隊ヘリによる島外搬送を行うことが、年間に数十件あります。患者さん・ご家族の負担が大きいため、島外搬送を1件でも減らせるよう、診療体制の充実に注力し、対応できる疾患を増やしていくとともに、HCU(高度治療室)の立ち上げを急ぎたいと考えています。他方、疾患の早期発見・治療のため、予防医療として健診・人間ドックにも力を入れていきたいです。
徳田虎雄・名誉理事長の志を継ぎ、地域の皆さんから信頼される医療を提供できるよう、より一層努力してまいります。
大倉さとみ看護部長
新築移転後、地域包括ケア病棟やHCUの新設を予定しています。これにより、今まで以上に急性期から在宅まで切れ目のない看護を提供できる体制が整います。新病院は海が見える癒やしの環境で、療養環境が大きく改善します。現病院の多床室は6人部屋ですが、新病院では4人部屋となり、病棟のトイレの数も患者さんからのご要望が多かったことを受け、大幅に増やしました。
スタッフステーションはオープンカウンターで患者さんとの距離が近くなり、声をかけていただきやすくなります。入院中、お困りのことがあれば、気軽にスタッフにお声がけください。
島の基幹病院として責任や期待される役割の大きさを感じています。地域全体で発展していけるよう地域の方々から意見を聞き、行政とも連携して、一緒に新たな徳洲会病院をつくっていきたいと考えています。
勇利幸事務長
移転場所の決定まで時間がかかりましたが、結果的に「ここしかない!」という素晴らしい土地に移転することができました。徳田虎雄顕彰記念館を間近に臨む高台で、津波のリスクが低いといった利点のみならず、新病院の敷地には、徳田・名誉理事長が医師を目指すために徳之島から大阪に移った際、学資を捻出するために父の徳千代さんが切り売りした徳田家の先祖伝来の土地が含まれているのです。そこを買い戻して新病院を建てることができましたので、運命的な縁を感じます。
私たちは“生命だけは平等だ”という徳田・名誉理事長が掲げた理念を大切にしています。この想いを胸に刻み、徳之島という地に根差し、これからも地域の皆さんの健康と生命を守る最後の砦として、全職員一丸となって邁進してまいります。