徳洲新聞ダイジェスト
Tokushukai medical group newspaper digest
Tokushukai medical group newspaper digest
2024年(令和6年)09月30日 月曜日 徳洲新聞 NO.1460 1面
一般社団法人徳洲会は大阪大学大学院医学系研究科、リバーフィールドと共同で低軌道衛星通信を用いた移動型遠隔手術システムの実証実験を八尾徳洲会総合病院(大阪府)で実施した。遠隔ロボット支援手術の実現可能性を実用レベルで検証するのが狙い。屋外に配置したロボットアームを院内の手術室から操作し、トレーニング用モデルで縫合・結紮など手技を行い、実験は成功した。同社によると世界初の試み。遠隔医療は離島・へき地医療や災害医療、国際医療支援など幅広い活用が期待されている。
「いろいろな選択肢を含め、安全性を担保しながら遠隔手術につなげたい」と木村副院長
実証実験は6月30日に実施。リバーフィールドが開発し、昨年5月に薬事承認された国産手術支援ロボット「Saroa サージカルシステム」を使用した。
ロボットアームの先端に取り付けた鉗子の駆動に空気圧を採用している点が特徴で、鉗子がどの程度の力を加えているかを術者の手に伝えることができる。
実証実験に参加した外科医師ら(左から5人目が大橋・副理事長)
低軌道衛星(高度2,000km以下)は静止軌道衛星(高度約3万6,000km)よりも地球に近いため、信号の往復時間が短縮し4K映像など大容量データが高速かつ低遅延で送受信できる。山間部や離島といった地理的制約、災害などの影響を受けにくい。
実証実験では「サージョンコンソール」を八尾病院の手術室内、「ペイシェントカート」を同院駐車場のトレーラー内に配置し、低軌道衛星を利用した遠隔手術の実現可能性を検証した。ただし、通信を用いて地理的に離れた空間での遠隔手術は薬事承認範囲に含まれていないため、今回は実証専用機を用いた。
6人の外科医師が参加し、術者として臓器の弾力性を再現したトレーニング用モデルに縫合など手技を実施。徳洲会からは大橋壯樹・副理事長(名古屋徳洲会総合病院総長)、木村拓也・八尾病院副院長、高山悟・名古屋病院副院長、豊田亮・八尾病院外科医長の4人が臨んだ。
木村副院長は「操作や映像に少し遅延が見られ、臨床で行うには、もうちょっと時間がかかると思います」としながらも、「今回はアンテナなどが家庭用のタイプを使用しており、それでもきちんと稼動するか検証することもテーマでした。遅延が発生するだろうという前提の下、ロボットアームの想定範囲内の動作確認ができたことは収穫です」と振り返る。
八尾病院の手術室(左の写真)から操作しトレーラー内でアームの動きなどを確認
木村副院長は「一般的に普及している手術支援ロボットの多くは、操作台とアームがケーブルで直結しているタイプ。Saroaのような地理的に離れた場所からの遠隔操作には対応していません」と指摘。
そのうえで今回の実証実験の意義を「これまで電話回線や光ケーブル、5G、4Gなどを用いた遠隔医療の実証実験が行われていますが、これらが使えなくなったら手術も終わりというわけにはいかない。そういう時に今回のような地上通信インフラに依存しない衛星通信システムに切り替えて行える可能性があります」と説明する。
以前から、八尾病院は木村副院長をはじめ外科医師が毎週、徳之島徳洲会病院(鹿児島県)に赴き同院をサポート。島の患者さんが八尾病院に来院せざるを得ないケースもあり、木村副院長は遠隔手術の実現に対し強い思いを抱いている。
「Saroaのペイシェントカートはエレベーターに乗るくらい軽量で小型。いつか徳之島病院に設置し、当院で操作し手術することを夢見ています。その思いを大橋・副理事長や、実証実験を監修していただいた中島清一・大阪大学大学院医学系研究科特任教授などにお話しさせていただき、実験に至りました」。
大橋・副理事長も「離島・へき地で、日常診療として遠隔ロボット手術を実施できる可能性が見えてきました。大変意義深いと思っています」と強調する。