徳洲会グループ TOKUSHUKAI GROUP

ダイジェスト

Tokushukai medical group newspaper digest

2017年(平成29年)6月5日 月曜日 徳洲新聞 NO.1085 三面

玉田・山口大学大学院教授
最新のがん免疫療法
遺伝子改変技術を使う

5月度の徳洲会グループ医療経営戦略セミナーの初日、山口大学大学院医学系研究科免疫学の玉田耕治教授(東京大学医科学研究所遺伝子・細胞治療センター委嘱教授)が「遺伝子改変技術を利用したがん免疫細胞療法の実用化」、ロンドン大学公衆衛生大学院博士課程の岩上将夫医師(東京大学大学院臨床疫学・経済学客員研究員)が「徳洲会ビッグデータの研究利用価値~3年間全国38病院55万入院症例から急性腎障害を分析する~」をテーマに講演し注目を集めた。それぞれの概要を紹介する。

「次世代型CAR-T 細胞は動物実験で腫瘍縮小、生存率向上を認めました」と玉田教授 「次世代型CAR-T 細胞は動物実験で腫瘍縮小、生存率向上を認めました」と玉田教授

がん免疫細胞療法は、人間の身体に備わる免疫機能を利用した治療法をいう。玉田教授はまず国内外のがん免疫療法の歴史を解説。1970年代は免疫機能全体を高める非特異的免疫療法が研究されたが、90年代以降はがん細胞を選択的に攻撃する特異的免疫療法が取って代わった。遺伝子改変T細胞移入療法や免疫チェックポイント阻害療法などだ。

「がん免疫療法は『いかにT細胞(がん細胞を攻撃する免疫細胞の一種)を活性化するか』という時代から、『いかにT細胞の働きを抑制されないようにするか』にパラダイムシフト(認識・価値観の大きな変化)が起きました」(玉田教授)

続いて自身の研究分野である遺伝子改変T細胞に言及。「進行したがんの患者さんは免疫状態の悪いことが多く、そもそも体内にT細胞が少なければ、がん細胞を殺せません。そこで遺伝子組み換え技術を活用し、がん細胞を攻撃するT細胞を開発し患者さんに投与することを考えました」と研究の経緯を明かした。

遺伝子改変T細胞を利用したがん免疫療法は大きく分けて、①T細胞受容体の遺伝子導入によるがん免疫療法と、②CAR(キメラ抗原受容体)遺伝子導入による腫瘍反応性T細胞の誘導――の2つの治療法がある。

CAR-T 細胞療法のイメージ図(出典:講演資料より) CAR-T 細胞療法のイメージ図(出典:講演資料より)

①は、多くのリンパ球(腫瘍反応性のない通常の末梢(まっしょう)血Tリンパ球)はがんを見つける“T細胞受容体”をもっていない。しかし、がんを攻撃する腫瘍反応性のあるTリンパ球からT細胞受容体の遺伝子を採取し、通常のTリンパ球に導入することで、がんを認識して攻撃するT細胞をつくることができる。

②は、がん細胞表面の抗原(目印)を認識する抗体と、T細胞活性化を誘導するシグナル伝達領域を遺伝子工学的に結合して作製したCAR遺伝子を、通常のTリンパ球に導入。がん細胞を攻撃するT細胞を作製できる。同療法はこれまでの臨床試験から、急性リンパ性白血病など血液がんに効果があることがわかっており、世界中で研究が進められている。

一方でCAR-T細胞療法は、固形がんに対する治療効果の報告がほとんどないのが現状。玉田教授は「原因を解明して改良し、多くのがんに効果のあるCAR―T細胞療法を開発するのが私の目標です」と語った。目下、固形がんにも有効性を示し得る次世代型のCAR―T細胞の実用化に向けて研究を進めており、マウスを用いた動物実験では有意な腫瘍サイズ縮小、生存率延長を認めた。

岩上・ロンドン大学大学院博士課程 ・ 医師
急性腎障害を抽出
徳洲会ビッグデータ活用

「徳洲会ビッグデータは日本の医学研究をリードするデータベースになり得ます」と岩上医師 「徳洲会ビッグデータは日本の医学研究をリードするデータベースになり得ます」と岩上医師

ビッグデータとは研究や事業活動に役立つ可能性のある膨大なデータベース(DB)。岩上医師はビッグデータ研究を始めた経緯や徳洲会ビッグデータ(徳洲会メディカルDB)を用いた研究事例などを発表した。

岩上医師は湘南鎌倉総合病院(神奈川県)腎臓病総合医療センターで後期研修を行い、その間に腎臓内科領域の臨床研究を実施。英語の発表論文が米国の腎疾患の教科書に引用されたり、日本腎臓学会での発表が優秀演題賞を受賞したりするなど高い評価を受けてきた。

「次のステップとして臨床研究のエキスパートになりたいと思いました」。この思いから東京大学大学院医学系研究科公共健康医学専攻に進学。同専攻臨床疫学・経済学の康永秀生教授がDPC(診断群分類別抱括評価)DBの研究を行っており、康永教授との共同研究で同DBを活用した医療ビッグデータ研究を行う機会を得た。この時に取り組んだ「エンドトキシン吸着療法(PMX)による生存改善効果の検討」をテーマとする研究を通じて「ビッグデータの力を実感した」という。

データベースの発展に向けた提言も(出典:講演資料より) データベースの発展に向けた提言も(出典:講演資料より)

しかしDPCは診療報酬算定のための情報であり採血やバイタルサイン(血圧など)の情報は含まず、腎機能を評価するデータがないため「腎臓内科医が研究に使うには致命的」だった。その折、同大学院生物統計学の大橋靖雄教授(当時)を通じて“徳洲会ビッグデータ”の存在を知った。

その後、後期研修医時代の恩師である湘南鎌倉病院の小林修三・院長代行兼副院長のサポートや、徳洲会インフォメーションシステムの協力により、徳洲会ビッグデータを利用した研究が実現。「入院患者における急性腎障害の頻度・死亡率・長期予後の検討」がテーマだ。2012~14年にかけて38病院55万5940症例の匿名化した(個人を同定できない)データを分析したところ、8万1279症例(14.6%)で急性腎障害を発症していたことが判明。

DPCデータを用いた場合では約1000例の急性腎障害しか拾い出せないこともわかり、徳洲会ビッグデータの医学研究用DBとしての利用価値の高さが際立った。研究では季節ごとの発生数や入院日数、再入院率などもまとめた。岩上医師は同研究で欧州腎臓学会(6月3日から4日間スペインで開催)に演題登録し、世界の数多くの演題のなかから優秀演題賞に選出。「徳洲会ビッグデータを利用させていただき有意義な研究ができました」と謝意を示した。

岩上医師は「徳洲会ビッグデータは日本の医学研究をリードするDBになり得ます」と強調。最後にDB発展の方策や人材育成、データセキュリティの確保、個人情報保護などに関する提言で発表を締めくくった。

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