2016年(平成28年)11月7日 月曜日 徳洲新聞 NO.1056 四面
内視鏡下甲状腺切除術
札幌市で唯一実施
札幌徳洲会病院
札幌徳洲会病院は、4月に保険適用となった甲状腺良性腫瘍やバセドウ病などに対する内視鏡下甲状腺切除術の保険診療を実施している。執刀医に厳しい条件があるため、同施術の実施施設は全国でもわずかで、札幌市内の認可施設は同院のみ。従来の甲状腺切除術は首元に大きな傷痕が残り、とくに若い女性に多い甲状腺疾患の治療の障壁となっていたが、内視鏡下手術は高い整容性(見た目)が期待できるため、保険診療開始後、同院に患者さんから問い合わせが相次いでいる。
豊富な経験生かし国際支援も
国内外で内視鏡下甲状腺切除術の技術指導をする片山部長
甲状腺は、甲状腺ホルモンを分泌する重さ10~20gの小さな臓器で、喉頭(こうとう)隆起(喉(のど)ぼとけ)の下に位置する。この4月、甲状腺ホルモンの分泌量が過剰となる甲状腺良性腫瘍やバセドウ病に内視鏡下甲状腺切除術が保険適用となった。
一般の手術では首元を横に10㎝程度切開、術後も目立つ位置にケロイド状の痕が残ることもあり、患者さんが、なかなか手術に踏みきれない要因となっていた。内視鏡下手術は傷口が2~3㎝と小さく、切開場所も鎖骨下や腋窩(えきか)(わきの下)など目立たない場所を選ぶことができるため、整容性が高いのが特徴。
また、低侵襲のため術後2日ほどで退院可能で、仕事などで多忙な人でも手術が受けやすいメリットがある。
ただ、甲状腺の内視鏡下切除術を保険診療で行うには、外科、内分泌外科、耳鼻咽喉(いんこう)科、頭頚(とうけい)部外科のいずれかの診療科の経験年数が10年以上で、かつ当該技術の執刀医としての経験症例数が5例以上の常勤医が在籍―という厳しい施設認定条件がある。
皮膚切開部から金属棒を挿入、皮弁をもち上げる手術器具を開発
同手技は、これまで先進医療でしか認められてこず、全国9施設のみで症例が集積されてきた経緯があり、研修場所の少なさから執刀医要件をクリアする医師の数はきわめて少なく、認定施設は北海道全体で5施設にとどまる(10月6日現在、北海道厚生局)。
札幌病院で同手術を執刀する片山昭公・耳鼻咽喉科部長は、同手技を開発した日本医科大学付属病院の清水一雄・外科学主任教授(現・名誉教授)に師事、前任地の旭川医科大学で研鑽(けんさん)を積み、後進を育成、経験症例数は300例を超えている。
内視鏡下甲状腺切除には多種多様なアプローチ方法が存在するが、片山部長は鎖骨下アプローチを推奨。傷口が目立ちにくいだけでなく、術中に副損傷(意図せぬ場所に傷がつくこと)があった場合でも指が届くため、緊急止血などが容易で、重篤な事態になりにくいからだ。片山部長は「過去300例のなかで1例も通常の頚部外切開手術(オープン手術)に移行したケースはありません」と好成績をアピール。
タイ・タンマサート大学客員教授として現地医師らに技術指導
また、片山部長は手術を円滑に行うための器具も考案し、医療機器メーカーから販売されている。皮膚切開部から金属棒を差し込み、皮弁を吊り上げて視野と手技を行うための空間を確保する器具で、通常の内視鏡下手術で必要な二酸化炭素の注入が必要なく、管理も容易でリユーザブル(再使用可能)と経済的であるため、今では国内だけでなく海外でも広く使われている。
片山部長は、その豊富な経験をもとに海外でも技術指導。タイから札幌病院に研修を受けに来ていた医師に同手術器具を贈った縁で、昨年からは同国タンマサート大学の客員教授となり、今年は8月に4日間の日程で同地に赴き内視鏡下甲状腺切除術のコツなど披露した。片山部長は「タイの医師は仕事熱心で知識レベルも高く、教えがいがあります」。
これまでにも、清水・主任教授らとともにチェルノブイリ原発事故の影響で甲状腺がんの発生率が高いベラルーシ共和国に赴き、内視鏡下手術を実施したり、現地で技術指導をしたりした実績があり、国際医療支援は片山部長のライフワークのひとつとなっている。