
徳洲新聞ダイジェスト
Tokushukai medical group newspaper digest

Tokushukai medical group newspaper digest
2026年(令和8年)02月23日 月曜日 徳洲新聞 NO.1531 1面
札幌東徳洲会病院医学研究所は旭川医科大学、医薬基盤・健康・栄養研究所との共同研究により、膵がんの発がんに関連する主要な遺伝子変異を高感度に検出する解析法の構築に成功した。6色マルチプレックスデジタルPCR(遺伝子の絶対定量を行う検査装置)を活用した「PlexScreen-dPCR」と「PlexID-dPCR」というふたつのアッセイ法(検体の定性的評価・定量的測定法)だ。前者は低頻度変異を高感度に検出し、後者は変異種の同定を目的とした技術。臨床実装が実現すれば、膵がんの早期診断や悪性化リスク評価、薬剤選択など個別化治療の促進につながることが期待できる。
「患者さんのため臨床応用を目指し、研究を加速させていきたい」と水上部門長(左)、小野部門長
研究成果はMedical Laboratory Technology(臨床検査技術学)分野でインパクトファクター(IF)が世界1位の国際学術誌『Clinical Chemistry』にアクセプトされ、オンライン公開された。
論文タイトルは「Six-Color Multiplex Digital PCR Assays for Comprehensive Screening and Identification of Multiple Driver Mutations Associated with Pancreatic Carcinogenesis」。
膵がんは早期診断がきわめて難しい難治がんのひとつ。初期には自覚症状がほとんどないことなどが理由だ。5年生存率は10%程度と非常に低く、早期発見技術の確立と実用化が課題となっている。
札幌東病院医学研究所は今回、解析技術・ノウハウを生かし、自施設で保有するデジタルPCRを用いた解析やサンプル(検体)処理などを担った。従来のデジタルPCRは、主にふたつの蛍光色素を用いた2色検出が主流だったが、2023年に6色の色素を検出するマルチプレックスデジタルPCR法が実用化され、一度に測定できる変異ターゲットが大幅に増加した。
今回の研究では、この6色マルチプレックスデジタルPCRを応用し、膵がんの発がんに関連しドライバー遺伝子と呼ばれるKRASおよびGNASというホットスポット変異(通常よりも高い頻度で突然変異が集中的に発生する特定の塩基配列部位)を検出するため、「PlexScreen-dPCR」と「PlexID-dPCR」という特徴の異なる2種類のアッセイ法を構築した(表)。
「PlexScreen-dPCR」は名称のとおりスクリーニングに適した手法で、ホットスポットのあらゆる遺伝子変異の「有無」を極めて高い感度で検知することに主眼を置いている。検出限界は最高で0.03〜0.06%という高感度を示し、大量の正常DNAの中に埋もれたわずかながん細胞の兆候を逃さない手法として期待できる結果を得た。
一方、「PlexID-dPCR」は、ホットスポットに生じる主要な14種類の変異種を特定する手法として開発した。
両アッセイに関して、23検体の膵がん由来FFPE組織(切除腫瘍および細針生検)、または12検体の体液を採取して抽出した遺伝子を用いて測定した結果、すでに得られていた変異情報と高い一致率を見せ、信頼性の高い診断性能を有することが示唆された。
小野裕介ゲノム診断研究部部門長は「ホットスポットにある多くの遺伝子を調べる手法としては、大規模シーケンシング(非常に多数の遺伝子を解析する技術)もありますが、それと比較しても今回の手法は、PCRベースであるためサンプル処理など作業時間の短縮やコスト効率の向上が望めます。双方の特徴を生かし、早期発見につながる拾い上げや頻繁な再発モニタリングを行う場面での有効活用のほか、変異遺伝子を精密に調べることで薬剤選択や悪性化リスク評価などにつなげていくことが期待できます」と展望している。
水上裕輔がん生物研究部部門長(旭川医科大学内科学講座消化器内科学分野教授、医薬基盤・健康・栄養研究所難病・免疫ゲノム研究センター難治性疾患研究プロジェクトリーダー)は「徳洲会病院の研究所として、次の課題はやはり、今後どう患者さんのために実装化し、貢献していくかということです。論文の掲載誌は、この分野では世界トップのジャーナルで、何度かトライしてようやくアクセプトされました。実用化に向けて着実にステージを上がっていることが証明されたと受け止めています。ラボの研究員も喜んでいます。これを励みに臨床応用を目指し、一層研究を加速させていきたい」と意欲を見せる。
最大の目標は、手術可能なステージ0もしくは1の状態で膵がんを早期発見することだ。今後の工程として、より多くの臨床検体を用いた精度確認のバリデーション(妥当性確認)や、解析手法のさらなるブラッシュアップに取り組んでいく方針。
「北海道内にある徳洲会内外の病院で構成する臨床研究グループから、検体など提供いただいていますが、今後は道外の徳洲会病院の先生方のご協力もいただきながら、しっかりとしたデータを蓄積していければと考えています」(水上部門長)
その先の展開として構想しているのが、膵がんにとどまらず、肺がんや大腸がん、乳がんなど幅広いがん種を対象とした「デジタルPCR遺伝子パネル」の確立による個別化治療の進化だ。さらに、病理画像などを組み合わせて統合的な解析を行うバイオインフォマティクスの実現も視野に入れている。