天井を見続ける1日からの脱却「口から食べるプロジェクト」

口から食べるプロジェクト2

小川静岡徳洲会病院はケアミックス型病院ですが、開院後10年経過しても慢性期病棟は、ほぼ寝たきりの患者さんで、経管栄養の方が7割以上を占め、離床することなく、ただ天井を見つめて1日が終わる生活を送られていました。 私は、その状況に違和感を感じながらも、どのように改善すれば良いかのか分からないまま日々働いていました。 そんな時、紙屋克子氏の“生活支援技術”を知り「当院でも何か変わるかもしれない!」と思い、看護部長のご協力のもと院内で技術研修を行い、患者さんへの介入をスタートさせました。
まずは、拘縮のある患者さんにバランスボールを使用して拘縮を改善し、車いすに移乗させることで、患者さんの表情に変化が現れました。 さらに、経管栄養の患者さんが、食事風景を見て「食べたい」と声を出したのです。 主治医の許可を得て、姿勢を整えとろみ茶を口の中に入れると「ごっくん」と飲み込むことができ、さらに「もっと」と催促され二口目も飲むことができました。 すぐに結果が表れ、とても驚きました。

その後、紙屋氏の病院ラウンドを月1回行えるようになり、委員会を立ち上げました。 学びを深めるだけでなく、しっかりとした結果が伴うため、とてもやりがいを感じています。 患者さんを寝かせきりにせず、離床させることで「会話ができる」「髪をとかすことができる」「カップを持つことができる」など、まさに生活行動が大幅に回復することを目の当たりにしました。 この経験を活かし、栄養についての学びも深めるため、NICD(意識障害・廃用症候群のある患者さんの生活行動回復看護)の学会認定を取得。 「低栄養患者さんの体重を増やすために、何をしたら良いか」を検討するため、管理栄養士と共にNSTを立ち上げました。

口から食べるプロジェクト1


食べられない患者さんを食べられるようにする

摂食嚥下に対する知識を深めるため“日本摂食嚥下リハビリテーション学会認定士”を取得し、経管栄養患者さんを経口摂取に移行していきました。 患者さんは食べたいという欲求が叶うと「うれしい」と笑顔になります。 その笑顔を広げるため、もっと口から食べられる患者さんを増やしたいという思いが強くなっていきました。
「口から食べるプロジェクト」の師長 建山幸さんが在籍する熊本の桜十字病院に、院長を含む4名で見学に行きました。 この病院は、当院と同時期に開院し「食べられるようになる」をブランドコンセプトとした、全国から摂食嚥下を希望する患者さんが、最後の砦として訪れるような病院です。 今後、高齢化はますます進み、食べられなくなる患者さんは増えていきます。 少しずつ築いてきたNST活動をもとに、患者さんの「食べたい」という欲求を満たすことが当院でもできると確信し「食べられない患者さんを食べられるようにする」を当院のブランドコンセプトにしていこうと考えています。

現在はSTが入職し、多職種でのNST回診が行えるようになり、耳鼻科医師・看護師・言語聴覚士・管理栄養士・ソーシャルワーカーが集合し嚥下回診・ミールラウンドを開始しています。 看護部では「口から食べる」勉強会を開催し、座学から食事介助の技術指導を行い、少しずつスタッフの食事介助への意識が変わってきています。


摂食嚥下障害のある患者さんの最後の砦として!

NPO法人「口から食べる幸せを守る会」理事長の小山珠美氏を講師に迎え「食事介助技術セミナー」を開催しました。 院長・看護師・リハビリ(PT・OT・ST)・管理栄養士・感染対策・医療安全・介護福祉士・ドクターズクラークの30名が参加。 基礎的な内容を理解した上で、不良姿勢での食事介助を身をもって経験し、自分の行ってきた食事介助がいかに危険であったかを認識しました。 また、ベッドや車いすでの食事介助では、いかに正しい姿勢で食事介助をすることが重要であるかを教えていただきました。 例えば、ギャッジベッドで頭を上げる際は、足から上げるようにし、次に頭を上げ良い角度になったら、患者さんの背中から踵まで手を入れて圧を抜く。 この圧抜きを忘れてしまうと、患者さんが非常に苦しい思いをしてしまい、褥瘡の引き金にもなりえます。 圧抜きはそれほど重要なものなのです。

さらに災害時における口腔ケアと食事介助についても学びました。 床にシートを敷き、布団やクッションでポジショニングを整え、介助する側も横たわりながら実施。 災害はいつ起こるかわからないことを念頭に、この30名が院内の職員へ伝達し、正しい姿勢での食事介助はもちろん、災害時に院内の全職員が介助を実践できる体制を整えたいと思います。

多職種と連携し、摂食嚥下障害の患者さんの最後の砦として静岡徳洲会病院を頼っていただけるよう切磋琢磨し、技術の普及と技術の統一化を図りながら、看護部は常に進化していく必要があると感じています。