徳洲会グループ TOKUSHUKAI GROUP

病気の治療

Treatment of Disease

呼吸器外科の病気:転移性肺腫瘍

「原発性肺がん」とは異なる

肺は体に必要な酸素を取り込むために微細な編目構造となっており、血液のフィルターの役割をしています。心臓から送り出された血液は全身をっめぐってから肺に戻ってきますが、体のどこかに「がん」があり、そこでがん細胞が血液の中にこぼれ落ちて血液の流れにのり肺に流れてくると、肺でひっかかって増殖します。それが転移性肺腫瘍の形成です(図1)。したがって、肺転移が成立するにはがん細胞が血液の中にこぼれ落ちるほどまでに進行していることが必要で、早期のがんでは肺転移が起きることはほとんどありませんが、進行がんになるほど肺転移が起こる可能性は高くなります。

図1 転移性肺腫瘍の主な原発腫瘍と転移経路(日本呼吸器学会HPより)

肺に転移するがんとしては、結腸・直腸がん(大腸がん)、乳がん、腎がん、子宮がん、頭頚部がん、骨・軟部悪性腫瘍、膀胱がん、胃がん、食道がん、肝がん、すい臓がん、卵巣がんなどさまざまで、あらゆるがんが肺に転移するといえるでしょう。肺がんも肺に転移することがありますが、注意すべきなのは例えば「乳がんが肺に転移して肺がんになるわけではない」ということです。「肺がん」というのは、肺の組織を構成する細胞ががん化してできた病気であり「原発性肺がん」といいます。一方、乳がんが肺に転移してできたのは「乳がんの肺転移(転移性肺腫瘍)」といい、「原発性肺がん」とは区別して考えます。たとえ話ですが、日本人同士の夫婦の子どもがアメリカで生まれたからといって白人にはならない(米国籍にはなるかもしれませんが)といえばわかりやすいでしょうか。つまり乳がんから肺に飛んでいったがん細胞は乳がん細胞のままであり、肺がん細胞に変化することはないのです。

また原発巣の初回手術時には転移性腫瘍はなかったはずなのに、手術後数カ月~数年後に転移性肺腫瘍が出現することがあります。つまり「再発」です。しかし原発巣からがん細胞がこぼれ落ちることで転移性肺腫瘍ができ上がるわけですから、それは「手術した時点ですでに肺にはがん細胞が転移していた。しかし画像でとらえきれないほど転移巣が小さすぎて肺転移が存在することに気がつかなかった」ということです。これは"見逃し"でも"医療ミス"でも何でもありません。現在の医療レベルでの限界なのです。言い逃れのように聞こえるかもしれませんが、「見えないものは見えない」のです。

例えば(たとえ話ばかりですみません)賞味期限の切れた食パンを毎日観察してみましょう。しばらくするとカビが生えてどんどん広がっていきますね。ではそのカビはあなたが見つけた瞬間に出現したのでしょうか? きっとそうではないですよね。そのカビはあなたが見つけるよりもずっと前からパンの上に存在していたけれども、ただ「見えなかった」だけなのです。つまり転移性肺腫瘍も同じことで、手術した時点では見えないようなミクロの転移巣が、経過で徐々に大きくなって画像検査で認識できる大きさになった時点で「再発」と診断されるわけです。ですから悪性腫瘍に対し根治手術を行った後も、「再発」がないかどうかを定期的に検査してチェックする必要があるのです。

検査で発見されることがほとんど

通常、転移性肺腫瘍は初期の段階では自覚症状はほとんどなく、検査で発見されることがほとんどです。病状が進行すると、せき・血痰・息切れ・息苦しさなどの症状が出現します。

原発性や良性腫瘍の可能性も念頭に診断

胸部レントゲンやCT検査で診断されます。肺に結節状の影が多発している場合は転移性肺腫瘍の可能性を強く考えますし、過去に悪性腫瘍にかかったことがある人であればその肺転移を最も疑いますが、これまでに悪性腫瘍にかかったことがなければ原発臓器がどこかにないか(どこから肺に転移してきたのか)を検索する必要があります。しかし肺の影が一つだけであった場合には、過去に悪性腫瘍にかかったことのある人でも、転移性肺腫瘍のほかに原発性肺がんや炎症性結節、良性腫瘍の可能性も念頭に置いて慎重に判断する必要があります。判断が難しい場合は、気管支鏡(気管支カメラ)や胸腔鏡手術で組織検査を行うこともあります。

Thomford基準満たせば手術も適応

治療方針は原発腫瘍ごとに異なります。多くの場合、進行がんであることがほとんどですから、化学療法(抗がん剤)が選択されることが多いです。肺転移があるということは、原発臓器からがん細胞が全身に散らばっている状態と考えられますので、画像で見えている病変を手術で切除したり放射線を当てたりしても、画像で見えない小さな病変が次々に出てきてきりがありません。手術や放射線治療はあくまで「局所治療」であり、がんが全身に広がった「肺転移」の状態には適さないわけです。一方で化学療法(抗がん剤)はお薬が血液の流れに乗り全身に作用しますので、転移性肺腫瘍にも有効というわけです。抗がん剤は原発腫瘍により有効な薬剤や投与法が異なります。詳しくは専門医にご相談ください。

先ほどは「転移性肺腫瘍の治療の第一選択は化学療法(抗がん剤)」というお話をしましたが、例外もあります。原発臓器の種類によりますが、Thomfordの基準(表1)を満たし、またすべての転移巣が切除可能な場所にあること、原発巣の初回手術から転移・再発出現までの期間が長い、転移巣が出現してから数カ月以上経過を観察してもほかに新たな病変が出現しないなど、いくつかの条件を満たす場合には肺転移巣を切除することで根治が望めることがありますので、手術や放射線治療が行われる場合があります。

  • 患者が手術に耐えられること
  • 原発巣がコントロールされていること
  • 肺以外に再発・転移がないこと
  • 転移巣が一側肺に限局していること

表1 Thomfordの基準

転移性肺腫瘍の手術は、腫瘍のある部分だけをくり抜く部分切除を行うことが多いです。進行した原発性肺がんではリンパ節転移することがあるので、原発巣だけをくり抜くだけではリンパ節を取り残して再発してしまうので、原発巣のある肺葉とリンパ節を合わせて切除するのが標準的な切除法ですが、転移性肺腫瘍は転移巣からリンパ節転移が起こることはほとんどありませんので、転移巣だけを切除するので十分です。

しかし、小さな肺転移を切除するのは意外と難しいことがあります。肺の表面近くにある1cm以上の病変ならば手術中に触ればわかることが多いのですが、肺の比較的深い(肺の根元に近い)ところにある数㎜程度の病変を触診で同定するのは至難の業です。転移巣がどこにあるのかわからなければ、病変だけを切除するのはできなくなりますから、最悪は転移巣の存在する肺葉を切除することになります。できればそれは避けたいため、転移巣のある場所に手術前に目印をつける必要があります。CT検査をしながら細い釣り針のようなマーカーを肺に打ち込む方法や、気管支カメラで切除すべき範囲に色素などを注入する方法などがあります(どの方法を行うかは施設や術者により異なります)。

転移性肺腫瘍の切除後は、再び新たな転移が出現しないか厳重に経過を観察する必要がありますし、化学療法を行いながら経過をみることもあります。再発した場合には再び切除可能かどうかを再検討して可能なら再手術することもあります。

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