STORY4胸を切らない心臓弁手術 TAVI~経カテーテル大動脈弁治療術~
Story4 Transcatheter aortic valve treatment
Story4 Transcatheter aortic valve treatment
大動脈弁狭窄症とは、心臓の左心室と大動脈を隔てている弁(大動脈弁)の動きが悪くなり、全身に血液を送り出しにくくなる状態のことです。
大動脈弁狭窄症にはさまざまな原因がありますが、先天性やリウマチ性のほか、近年は加齢や動脈硬化が原因の場合が増えてきています。
大動脈弁狭窄症は軽度なものでは症状が現れにくく、大動脈弁狭窄は徐々に進行するため、長期間無症状の時期があります。他の病気の検査などで見つかる場合がほとんどです。 多くは50代、60代になってから症状が現れます。大動脈弁狭窄症では、他の弁膜症とはやや異なった症状があるのが特徴的です。
そのひとつは狭心痛(きょうしんつう)です。 狭心痛とは、運動時や階段を昇った時などに現れる胸痛発作です。
冠動脈硬化症による狭心症と症状は同じですが、大動脈弁狭窄症では冠動脈狭窄がなくても強い左室肥大により、狭心痛が現れます。 また、高齢者では冠動脈の病変を合併していることもしばしばあります。
2つめは失神です。多くの場合、体を動かす時に心拍出量が低下して、脳血流が減ってしまうために起こります。
安静時に現れる失神は、一過性の心室細動(しんしつさいどう)、心房細動(しんぼうさいどう)、房室(ぼうしつ)ブロックなどの不整脈が原因になる場合があります。
3つめは他の弁膜症と同様、体を動かした時の息切れや夜間発作性呼吸困難といった左心不全の症状です。 大動脈弁狭窄症では、このような狭心痛、失神、心不全症状が現れ、そのままにしておくと予後不良になります。
以前は、一般的には、生命予後は狭心痛が現れると5年、失神が現れると3年、心不全が現れると最も悪く、生命予後は2年と言われていました。ただ高齢者の方は症状が乏しいことが多く、最近ではエコーで重症大動脈弁狭窄症と診断された方は、症状の有無にかかわらず、1年以内の死亡率は50%を越えると言われています(2年以内で約70%の死亡率)。
また、大動脈弁狭窄症はまったく元気であった方が突然死する可能性があるもっとも代表的な疾患です。
大動脈弁狭窄症は聴診で疑い、エコーで確定診断します。
定期的な心エコー検査と感染性心内膜炎の予防で十分ですが、狭窄は徐々に進行するので注意が必要です。重症の弁狭窄であっても無症状で心機能が正常な場合は、半年から1年ごとの定期的な心エコー検査で経過観察することになります。
ただし、激しい運動や労働は避けるべきです。
重症の弁狭窄で大動脈弁狭窄症による症状があったり、心機能が低下してきている場合には、薬物治療にこだわらずに外科手術がすすめられます。 手術は人工弁による置換術です。 最近では、高齢者の大動脈弁狭窄症が増えてきています。 高齢者の場合、手術するかどうかや、手術の時期の決定は必ずしも容易ではありません。
徳洲会グループの一部病院では、これまで手術に耐えられないと判断された高齢の方などにも可能な新しい治療方「TAVI」を行っています。
TAVI (タビ) は機能が低下している心臓の弁(大動脈弁)をカテーテルと呼ばれる医療用の管を用いて人工の弁と置き換える治療法です。
外科的治療 | TAVI (経心尖アプローチ) | TAVI (経大腿アプローチ) | |
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人工心肺 | 要 | 不要 | 不要 |
アプローチ経路 | 開胸 | 肋間(小開胸) | 大腿動脈 |
侵襲度 | 高 | 中 | 低 |
平均治療時間 | 5~6時間 | 3~4時間 | 2~3時間 |
平均入院期間 | 約2週間 | 約1~2週間 | 約1週間 |
人工弁の耐久性 | 生体弁:10~20年 機械弁:20~30年(半永久的) |
新しい治療であるため長期耐久性の臨床データは現在のところなし(5年まではあり)。 | |
抗凝固療法 | 生体弁:治療後、2~3ヶ月程度 機械弁:生涯にわたり必要 | なし | |
抗血小板療法 | なし | 治療後1剤もしくは2剤 (チエノピリジン系薬、アスピリン) |
重症 | 軽症 |
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薬剤やバルーン拡張術・外科的治療・TAVI | 経過観察のみ |