徳洲新聞ダイジェスト
Tokushukai medical group newspaper digest
Tokushukai medical group newspaper digest
2022年(令和4年)11月28日 月曜日 徳洲新聞 NO.1366 1面
徳洲会グループは“生命だけは平等だ”の理念の下、離島・へき地医療に精力的に取り組んでいる。主に都市部の病院から離島・へき地の病院に対し、短期・長期にわたり専門医や指導医クラスの医師を絶え間なく派遣する一方、初期研修医や専攻医が離島・へき地の病院で総合的な診療能力を習得するなど、都市部病院と離島・へき地病院は相補的な関係を構築。今号ではグループのスケールメリットを生かした初期研修医・専攻医にかかる取り組みを紹介する。
症例について指導医に相談する前村・初期研修医(左から2人目)
名瀬徳洲会病院(鹿児島県)で地域医療研修を行う湘南藤沢徳洲会病院(神奈川県)の前村叶基・初期研修医は「すぐに検査に頼るのではなく、問診や身体診察などで主体的に情報を取るようになりました。指導医にはすぐに答えをもらわず、自分で考えてから相談するようにしています」と心構えを語る。
研修では指導医の下で診察、検査を行い、治療方針を考え、入院が必要なら患者さんに説明、さらに病棟管理まで一連の流れを経験。「ここでは救急外来で初期対応した後も、ずっとひとりの患者さんを診ることができます。救急対応時にはわからなかったことが、時間の経過とともにわかることもあり、勉強になります」と強調する。
前村・初期研修医は整形外科を志望しているが、専門外のことでも患者さんの「異常に気付ける」医師になりたいと希望。そのために名瀬病院で学んだ「全人的に患者さんを診るルーティン」を継続していきたいと考えている。
「徳洲会病院以外の初期研修医と交流できるのも地域医療研修のメリット」と前村・初期研修医。それぞれの病院の研修プログラムについて情報交換するだけでなく、休日には同期とマリンスポーツを楽しんだり、加計呂麻島ハーフマラソンに挑戦したりしている。
訪問診療先でインフルエンザ予防接種を行う黒木・初期研修医(左)
「体調はお変わりありませんか」。庄内余目病院(山形県)で地域医療研修中の黒木尭宏・初期研修医(所属は湘南藤沢病院)は、訪問診療先で患者さんと家族に優しく話しかけた。患者さんは通院困難で数年前に外来受診から訪問診療に切り替えた90代女性。この日は食事の摂取状況や体調の確認に加えインフルエンザ予防接種を実施した。
庄内余目病院では内科チームの一員として、発熱外来や内科外来、救急外来、病棟管理、訪問診療と幅広い業務に携わる。「高齢患者さんがとても多く、治療が終わっても独居や老々介護などのため自宅にスムーズに戻れず、退院調整に難渋することがしばしばあります。患者さんの生活背景や家庭環境なども考慮した対応に尽力しています」。
こうした環境が医師としての成長に寄与。「医局内の垣根が低く何でも相談しやすい」という職場の雰囲気も追い風だ。医師が少ないため初期研修医に任される役割が大きく、より強い責任感の涵養にもつながっている。
寺田康院長は「疾患だけを治しても患者さんは帰れません。地域医療のそうした特質への対応力を養い、へき地でも『(患者さんは)もう歳だから仕方がない……』と看取りを待つ“あきらめの医療”ではなく、必要に応じて急性期医療を提供する姿勢を身に付けてほしい」とエールを送る。
「一貫して診られる医師になりたい」と安次富・初期研修医
「北海道という北の大地に憧れて選びました」と話すのは、日高徳洲会病院(北海道)で地域医療研修を行う野崎徳洲会病院(大阪府)の安次富俊介・初期研修医。「野崎病院では急性期の患者さんを中心に診ることが多かったのですが、日高病院では同じ病院のなかに急性期から慢性期の患者さんまでいます。術後の変化への対応や、退院するにあたっての家庭の事情への配慮など、見るべきポイントが多く、日々学んでいます」。
外来では、診察した入院適応の患者さんの診断や治療方針を決めるといった一連のプロセスを、指導医のアドバイスを受けながら経験。へき地である同院では、できる検査や治療に制限があるが、「そのなかで何ができるのか自分でまずは考え、判断するということを繰り返すことが、力になっていると感じます」と研修の手ごたえを語る。また、病棟業務をしつつ救急搬送の受け入れがあると対応に回るなど、多忙な毎日を過ごしている。その一方で、休日には新鮮な海鮮を楽しんだり、馬産地であることから牧場に行ったりしている。「外科を志望しており、治療から緩和ケアまで一貫して診られるようになりたいと思っていたので、日高病院で外来・入院・退院という一連の流れを研修した経験を生かしたいです」と意欲的だ。
内視鏡検査を行う杉浦専攻医
石垣島徳洲会病院(沖縄県)で地域医療研修を受けているのが、宇治徳洲会病院(京都府)の杉浦麻由子専攻医だ。「内科を志望していますが、石垣島病院では粉瘤や皮膚の処置など外科の診療も行うため、研修での学びは多いです」と話す。ダイビングによる減圧症(減圧にともなって引き起こされる頭痛など)や釣り針による外傷など、島ならではの疾患も目にする。
資源が限られた離島では、都会のような医療提供が難しいケースもある。同院では対応できない場合、救急車で近隣の病院に搬送することが簡単にはできず、また空路で運ぶ場合も、その間の体調変化などにも気を遣いながら、適正な治療を行う必要がある。こうした離島ならではの環境が医師としてのスキルアップにもつながっている。「脳梗塞の患者さんの診療の場合、投薬や点滴などですむのであれば、こちらで診るなど任される範囲が大きいです。大変ですが、そのぶんやりがいを感じます」。
患者さんや地域の方との距離感が近いことも島の魅力のひとつ。「石垣島以外の島から来院する患者さんのニーズも把握できるよう、休日にはそうした島を訪れ、生活背景を知るようにしています」と、オフの時間も上手に活用している。
明るい仲間と共に医師としての力を磨く福田専攻医(後列右)
瀬戸内徳洲会病院(鹿児島県)には現在、3人の専攻医が研修している。そのひとり、福田雄太専攻医はグループ外の飯塚病院から10月に赴任。総合診療の専門医を目指し、数ある連携施設のなかから奄美大島の瀬戸内病院を選択した。「もともと離島医療に興味があったこと、医療資源が限られるなかで自ら判断しながら医療を行う環境は、なかなかないと思い希望しました」。
現在、午前中は外来、午後は病棟管理を行い、高齢者を中心に、さまざまな症例に対応する。「多様な疾患の基礎知識が求められるため、毎日勉強しなければなりません」と福田専攻医。また、2~3週に1回のペースで訪問診療や、フェリーで移動し加計呂麻島での診療活動も実践している。
在宅生活を希望する患者さんが多いことから、外来や検査などを活用し、できるだけ入院を回避するよう努めるなど患者さんの意向に沿った診療を心がけている。「加計呂麻島の場合、こちらから行く日以外は基本的にフェリーで瀬戸内病院まで来ていただかなければなりません。受診のタイミングなど患者さんの環境についても考えます」。
同院での研修は来年3月まで。「生活面についても、島民の方が優しく、24時間営業のコンビニエンスストアもあり、楽しく快適に過ごしています」と話す福田専攻医は「医師としての力を身に付けるには良い環境です。できるだけ幅広くひとりで対応できるようになりたいです」と意欲を燃やしている。
「医師になって良かったと思える瞬間をひとつでも多く経験してほしい」と平島センター長
自立したひとりの医師として成長し、責任をもって患者さんを診るための「心構え」を養えるように指導しています。離島病院では、診療科にとらわれず全人的に患者さんを診る機会が多く、そのなかで診察から検査、治療まで経験することで、大きく成長できます。研修期間中に「医師になって良かった」と思える瞬間をひとつでも多く経験してほしいです。主役は研修医と考え、なるべく手を出さないように気を付けています。
グループ病院から応援に来た専門医の先生とも積極的に交流し、知識の幅を広げてほしいです。また今後はコロナの状況にもよりますが、病院の外に出て、地域の方々との交流、ほかの離島病院・診療所での情報共有などできれば良いと考えています。