徳洲新聞ダイジェスト

Tokushukai medical group newspaper digest

2026年(令和8年)02月02日 月曜日 徳洲新聞 NO.1528 4面

湘南鎌倉総合病院
日本の音楽療法をタイへ“輸出”
トヨタ財団「国際助成プログラム」に採択

湘南鎌倉総合病院(神奈川県)は、日本とタイに共通する高齢化の進展に対応するため、両国の知見を生かした非薬物的認知症予防モデルの構築・実践を目的としたプロジェクトを企画、トヨタ財団の「2025年度国際助成プログラム」(助成金額1,000万円)に応募し採択された。プロジェクトでは、認知機能やオーラルフレイル(口腔機能の衰え)の改善を期待して、現在、同院が取り組んでいる音楽療法のノウハウをタイに"輸出"し、タイ有数の民間国際病院と協力して現地の高齢者の方々に提供する。

認知機能改善など期待

「当院の音楽療法の知見を活かしてタイに貢献していきたい」と助成金贈呈書をもつ則竹室長

トヨタ財団国際助成プログラムに採択されたプロジェクト名は「超高齢社会への新たな挑戦:日タイ交流による非薬物的認知症予防モデルの構築と実践」。昨年5月に医療協力のMOU(覚書)を締結したバンコク国際病院およびタイのヤマハと協働して取り組んでいく。

バンコク国際病院に12年間勤務した経歴をもち、今回のプロジェクトの責任者を務める湘南鎌倉病院の則竹淳・臨床研究センター臨床研究支援室室長は「タイをはじめ東南アジア諸国は、これから超高齢社会(65歳以上の人口が総人口の20%超)の到来を迎えます。タイでは2029年にも超高齢社会に突入すると言われています」。

湘南鎌倉病院の音楽療法を視察するバンコク国際病院関係者(後列) 音楽療法の参加者と交流する小林修三院長

「こうしたなか、これら国々では高齢者対応や予防医学が後手に回っており、認知症の発症予防などの取り組みが急務となっています。そこで、薬物療法などと異なり1対多の活動により、低コストで、認知機能の改善などによって健康寿命の延伸が期待できる音楽療法を、海外の必要とされる場所で実施し貢献していければと考え、今回のプログラムに応募しました」と経緯を説明する。

タイにも音楽療法はあるが、日本で行われているものとは異なるという。タイでは、いわゆる「受動的音楽療法」であり、これは音楽を聴くことが主な活動で、たとえば抗がん剤治療中の患者さんなどを対象に、痛みや不安の軽減、リラクゼーションなどを目的として実施している。

一方、同院が実践している音楽療法は「能動的音楽療法」であり、歌唱や楽器演奏、リズムに合わせた身体運動などと幅広く、参加者に能動的な活動を促すものだ。認知機能やオーラルフレイルの改善、コミュニケーション能力の回復などによる健康寿命の延伸を期待して実施。

「能動的音楽療法では、単に音楽を聴くという個人的な体験にとどまらず、自ら楽器に触れ他者と音を合わせるという相互作用を重視しています。こうした能動的な参加によって、認知機能の維持や社会性の回復が期待でき、集団での音楽活動は参加者同士のコミュニケーションを促し、孤立の防止にも寄与すると考えられます」(則竹室長)

科学的検証に注力

同院ではエビデンス(科学的根拠)の構築を目指し、こうした音楽療法を昨年6月から実践。総合診療科の熊谷知博部長が研究責任者を務め臨床研究として行っており、神経伝達物質などを測定する血液検査や唾液検査、認知機能などを確認する問診、舌圧など身体能力の測定、海馬体積の測定、発声・表情・筆圧解析を実施し、経時的変化を評価する。

タイで音楽療法を実施していくにあたっては、同院の音楽療法関係者と、バンコク国際病院のスタッフがWEB会議で綿密な打ち合わせを実施。バンコク国際病院の関係者が来日し、湘南鎌倉病院で音楽療法の視察も行った。

タイ現地の方々や文化を考慮した音楽療法プログラムを組み立て、バンコク病院でも臨床研究として取り組む。音楽療法の介入効果を客観的に評価するため、湘南鎌倉病院と同様に科学的検証に力を入れ、エビデンスの創出を進めていく考えだ。「バンコク国際病院には、オーストラリアや英国、日本の音楽療法士資格をもった方たちがいますので、それぞれの知見をもち寄り、ベストなプログラムで実施したいと話し合っています」と則竹室長。

他方、タイには仏教を基底とする豊かな精神文化があり、瞑想やマインドフルネスといった手法がある。これらを日本の音楽療法のウォーミングアップやクールダウンの場面に取り入れることも模索していく方針だ。

トヨタ財団国際助成プログラムの助成期間は27年10月末まで。プロジェクトの締めくくりとして開催を希望しているのが、音楽療法に参加した方々による日本とタイの両国でのコンサートだ。また今回のプロジェクトは、湘南鎌倉病院とバンコク国際病院に加え、楽器やコンサートホールの提供などに関して、タイにある日本の総合楽器・音響機器メーカーのヤマハの現地法人の協力も得ながら行っていく。助成金は人件費や渡航費、必要な物品購入などに充てる。

「薬物に頼らない音楽療法は他の医療資源が限られた地域でも展開できる可能性を秘めています」と則竹室長は期待を寄せる。

湘南鎌倉病院は近年、「未病(健康と病気の間で連続的に変化する状態)の改善」や「病気にならない身体づくり」の取り組みにも力を入れており24年11月には、その拠点として「国際未病医療センター」を院内に開設した。未病の段階で病気を予防し、健康寿命を伸ばすことを目的として、食事・運動指導や音楽療法、認知症予防に向けた個別プログラムなどの提供を活動趣旨としている。

日本の音楽療法の知見が、文化の異なるタイ でどのように結実し、新たな高齢者支援の形を提示できるのか。約2年間のプロジェクトの行方が注目される。

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