
徳洲新聞ダイジェスト
Tokushukai medical group newspaper digest

徳洲新聞ダイジェスト
Tokushukai medical group newspaper digest
2025年(令和7年)08月04日 月曜日 徳洲新聞 NO.1503 4面
湘南鎌倉総合病院(神奈川県)の大久保恵太・腎臓病総合医療センター腎移植外科部長は、日本の脳死下臓器提供普及に尽力している。普及が進まない課題を洗い出し、厚生労働省に提言。院内では昨年、脳死下臓器提供の1例目を実現させ、さらに来年の肝移植実施に向けて準備中だ。こうしたなか、日本の臓器移植の現状と改善のための取り組みに関する論文が、『American Journal of Transplantation』(Impact Factor:8.2)にアクセプトされた。
「日本で臓器移植が進まないのは、文化のせいではなく制度の問題」と大久保部長
大久保部長の「なぜ日本の臓器提供は停滞し続けるのか」と題する論文が、臓器移植分野で世界的に権威ある『Americ-an Journal of Transplantation』にアクセプト。日本の臓器移植の現状に鋭く切り込み、その構造的課題と現場発の改革案をまとめた内容は、国際的に高く評価された。
大久保部長の問題意識は明確だ。「日本で臓器移植が進まないのは文化のせいではなく、制度の問題である」――。
これまで日本で移植が進まない理由として、「死生観」や「宗教的背景」など、いわゆる“文化的要因”が挙げられてきた。しかし、大久保部長は「実際には約40%の国民が臓器提供に前向きで、意思表示をしている人も10%以上いる」と、調査データをもとに反論、「問題は制度にある」と強調している。
たとえば、脳死の可能性がある患者さんに対し、臓器提供について話をする医師は、全体のわずか4%程度というデータを示し、「医療現場が臓器提供の話をタブー視していることの表れでもあると考えます」と指摘。この背景には、脳死判定から臓器摘出までのプロセスは、現場の医師にとって時間的・精神的・法的に大きな負担であることも関与している。
一方、制度的な問題のひとつに日本臓器移植ネットワーク(JOT)の機能不全を挙げる。大久保部長は「JOTの人材不足により、地方の医療機関では、移植の必要性を訴えても、東京からJOTのスタッフが来るまでに時間がかかり、臓器提供の機会を逃すこともあると聞きます」と語気を強める。
大久保部長は、こうした問題を厚労省に提言。厚労省はJOTの抜本的な見直しに乗り出した。現在、米国のOPO(Organ Procurement Organization)を参考に、地域型の臓器提供推進機関の設立が検討されており、湘南鎌倉病院も、その拠点のひとつを目指して準備を進めている。
一方、臓器提供の重要性に関し、医療費の問題も指摘する。透析医療にかかるコストは、1人当たり年間約500万円。腎移植を行えば、理論上1,000万円超の医療費が節約できることになり、臓器提供は人の命を救うだけでなく、国の医療財政にも好影響を与える可能性がある。
同院では昨年、脳死下での臓器提供を初めて実施した。これは救急現場の医師に、「患者さんには人工呼吸器を付けてほしい」と大久保部長が依頼し、脳死判定につなげたことがきっかけとなった。この取り組みは、臓器提供のみならず、家族が死を受け入れる“グリーフケア”としての意味合いもあり、論文でも言及している。
また、移植手術を担う人材の育成も急務だ。日本では「移植外科」という専門医の体系が整っていないが、大久保部長は自身を「移植外科医」と名乗っている。今後、米国で訓練を受けた若手医師を招聘し、「当院を日本一の移植施設にしたい」と展望する。
この構想の実現には、診療報酬制度の見直しも不可欠だ。現状では、臓器摘出を行う側ではなく、移植手術を行う側に報酬が偏るという「いびつな構造」がある。これを是正し、「ドナー管理や家族対応に尽力する病院にも、正当な評価と報酬が与えられる仕組みが必要であると考えます」と大久保部長。
さらに、「移植で救われた人の声が、もっと社会に出ることを希望します。こうした発信が変革を生むのだと思います」と力を込める。現状では、プライバシー保護を重視するあまり、成功事例を外に出すことを極端に制限。「この方針の見直しもまた、世論を動かすカギとなります」と訴える。
同院では腎移植に続き、来年の実現に向けて、肝移植の実施準備を進行中だ。大久保部長は外部の医療機関の協力を仰ぎ、体制整備を進めている。肝移植を通じて、同院を多臓器移植に対応可能な先進施設とし、日本全体の移植医療の底上げに寄与することを目指している。
大久保部長は「臓器移植は“特別な医療”ではなく、命をつなぐ“当たり前の選択肢”であるべきです。制度が整えば、救える命は確実に増えます。私たちの取り組みが全国に広がり、多くの命が未来につながることを願っています。こうした活動を進めるなか、論文がアクセプトしたことを、うれしく思います」と喜びをあらわにしている。