
徳洲新聞ダイジェスト
Tokushukai medical group newspaper digest

徳洲新聞ダイジェスト
Tokushukai medical group newspaper digest
2025年(令和7年)05月19日 月曜日 徳洲新聞 NO.1492 4面
葉山ハートセンター(神奈川県)は胸部と腹部のステントグラフト内挿術を開始した。大動脈瘤や大動脈解離が対象で、血管内にステントグラフト(金属製の骨格が付いた人工血管)を留置する治療。体に負担が少ない低侵襲治療のため、高齢者や合併症が心配な患者さんにも対応可能だ。同院では同治療に加え、開胸・開腹手術にも対応しており、患者さんに合わせ最適な治療を提案していく。
「年齢や病状などを理由に治療を諦める時代ではない」と加賀谷医長
胸部大動脈ステントグラフト内挿術の1例目の様子
ステントグラフト内挿術は、カテーテルを用いステントグラフトを病変部に挿入し、血管の内腔から瘤を隔離することで、大動脈瘤の破裂を予防する治療。従来の開胸・開腹手術による人工血管置換術に比べ、術後の回復が早く、高齢者やハイリスク症例にも適応できるのが大きな利点だ。
同治療は画像診断に基づいた正確な術前評価と、個々の患者さんの解剖学的特徴に応じたステント選択が重要。術後はエンドリーク(血液が瘤内に流入する状態)など合併症の監視が必要であり、長期フォローアップが前提となる。
同治療を安全・確実に行うためには、特定の施設要件が求められる。たとえば、血管内治療に精通した心臓血管外科医師や放射線科医師の常駐に加え、緊急時に開胸・開腹手術に切り替えられる体制などだ。
さらに、術前・術後の評価のための高度な画像診断装置と、それらを適切に運用できる人材の配置も必須となる。同治療は多職種によるチーム医療が重要であり、看護師、臨床工学技士、診療放射線技師などとの連携体制が整っていることも施設要件の一部だ。
同院では、2022年11月に胸部と腹部のステントグラフト両方の指導医資格を有する加賀谷英生・心臓血管外科医長が入職し、血管手術の体制を整備。24年12月にハイブリッド手術室(高性能の透視装置を配備した手術室)を開設、翌1月に同治療の実施施設の認定を取得した。
加賀谷医長は「大動脈瘤は放っておくと破裂して大出血を起こし、突然死するケースもあります。基本的に外科的治療が有効ですが、開胸・開腹手術では、高齢者などには負担が大きく、諦めざるを得ないケースもあります」と指摘。「ステントグラフト内挿術であれば、体に負担が少なく、社会復帰が早いのも特徴。1週間ほどの入院となり、退院後も制限のある生活をしなくて大丈夫です」と力を込める。
同治療の1例目は、2月4日に胸部、同25日に腹部をそれぞれ実施し奏功。加賀谷医長は「ハイブリッド手術室の開設により、可能性が広がりました。ステントグラフト内挿術は外科用X線撮影装置(Cアーム)があれば実施することは可能ですが、やはり設備が整っているほうが安全かつ正確に行うことができ、患者さんにも安心して治療を受けていただけます」と強調する。
ハイブリッド手術室であれば、治療中にリアルタイムで正確な画像を取得しながら治療を進めることができ、ステントグラフトの正確な配置やエンドリークの即時評価を実現。また、万が一、血管損傷や予期せぬ合併症が発生した場合でも、迅速に外科的対応に移行できる点が大きな強みだ。
同院のある地域には、同治療に対応している医療施設は少なく、これまでは遠方の医療施設を紹介しなくてはならなかった。また、大動脈瘤の管理は長期にわたるケースも多く、「患者さんから、ずっと診てくれた先生に手術してほしいと言われたこともあります」(加賀谷医長)というニーズもあった。
加賀谷医長は「患者さんに最適な治療を提供するためには、偏った知識・技術ではなく、いろいろな治療手段を有していることが重要です」と強調。大動脈瘤の場合、患者さんの年齢や全身状態、解剖学的条件、瘤の部位や形態などを総合的に考えて治療を決定するため、「開胸・開腹手術、ステントグラフト内挿術、両方のメリット・デメリットを知らないと、患者さんに最適な治療法を提案できません」と説明する。
まずは予定手術でスタッフのスキルアップを図り、大動脈瘤に対する標準的な治療を、より安全に施行することを目指す。次のステップは緊急手術への対応で、大動脈解離に適応を拡大することも視野に入れている。
また、外科的血行再建術を組み合わせたハイブリッド手術も行う予定。主に複雑な大動脈病変に対し適応され、とくに大動脈弓部や胸腹部大動脈のような、重要な分枝血管(脳、内臓、四肢への血流を担う動脈)が関与する部位に有効。ステントグラフトが血管の分枝を覆ってしまうと、脳虚血や内臓虚血など重篤な合併症を引き起こすリスクがある。これを回避するために、分枝への血流を温存・再建するための術式だ。
加賀谷医長は「今は年齢や病状などを理由に、治療を諦める時代ではありません。低侵襲でできるいろいろな方法があります。患者さんや地域の医療施設にも周知していき、地域医療に貢献していきたいです」と意気軒高だ。