徳洲新聞ダイジェスト

Tokushukai medical group newspaper digest

2026年(令和8年)10月19日 月曜日 徳洲新聞 NO.1565 3面

福岡徳洲会病院薬剤部
演題発表など学術活動に意欲
渡邊部長と秦副部長が「FIP2026」へ参加

福岡徳洲会病院薬剤部の渡邊裕之部長と秦晃二郎・副部長は、カナダ・モントリオールで開かれた第84回国際薬剤師・薬学連合国際会議(FIP2026、8月30日~9月2日)でポスター発表を行った。同部署は近年、渡邊部長の方針の下、部署全体で学術活動に励み、学会発表や論文執筆など精力的に取り組でいる。

FIP2026で研究成果を発表する渡邊部長 FIP2026で研究成果を発表する秦副部長

渡邊部長の発表は「Utility of Regular D-dimer Measurement in Patients Receiving VEGF Inhibitors」(VEGF阻害薬投与患者におけるDダイマー定期測定の有用性)がテーマ。VEGF阻害薬は、血管内皮増殖因子(VEGF)という物質を不活発化することで腫瘍組織の血管新生を抑制する薬。がん細胞の増殖を阻害する効果が期待できる一方、血栓塞栓症をはじめ重篤な有害事象と関連することが知られている。

渡邊部長は、血栓塞栓イベントの診断に広く用いられているバイオマーカーにDダイマーを挙げながらも、その有用性がVEGF阻害薬で十分に報告されているのはベバシズマブを投与した患者さんのみで、「ラムシルマブなど、その他のVEGF阻害薬に関するエビデンスは限定的で、最適なモニタリング頻度に関する合意形成もなされていない」と指摘。自院で2023年12月にVEGF阻害薬投与後のDダイマー定期測定を運用方針として導入したことを紹介し、同方針が血栓塞栓イベントの早期発見・管理に及ぼす影響について検討結果を発表した。

診療記録から、定期測定の導入前群と導入後群に分けて評価した結果、Dダイマー測定率は5.5%から74.0%に大幅に上昇。VEGF阻害薬投与患者さんに対する血栓塞栓症の早期発見・早期対応につながる可能性を示した。また、Dダイマー値が1.0 μg/mLを超えるケースでは、追加の診断的評価や治療変更の契機となっていたことから、同値がリスク評価で臨床的有用性を有する可能性を示唆し、より安全かつ効率的な治療プロトコル(実施計画書)を確立するため、さらなる検討に意欲を見せた。

秦副部長は「Chemotherapy-induced dysgeusia: association with baseline serum zinc levels and response to zinc supplementation」(化学療法に起因する味覚障害:治療前血清亜鉛値との関連および亜鉛補充療法への反応性)がテーマ。まず、がん化学療法に起因する味覚障害について「頻度の高い有害事象」とし、患者さんの生活の質(QOL)や治療への参画意識を低下させる点を説明した。リスク因子には亜鉛欠乏が認識されているものの、化学療法との具体的な関連や、亜鉛補充療法のメリットに関する臨床的エビデンスが不十分な現状も指摘した。

そのうえで、自院では23年6月以降、新規のがん化学療法患者さんに対し、レジメン(治療計画)開始時に血清亜鉛値を測定し、亜鉛欠乏患者さんが味覚障害を生じた場合には、経口亜鉛製剤を投与するプロトコルを運用している取り組みを紹介。

同年12月まで新規がん化学療法レジメンを開始した165例を対象に、効果を検証したところ、ベースラインの亜鉛欠乏は味覚障害発症の有意な予測因子とは言えなかったものの、亜鉛補充療法は治療対象例の約半数で有効だったことを提示。

約半数で有効でなかった点については、「化学療法に起因する味覚障害の原因が多様で、亜鉛状態のみに依存するものではないことを示唆しています」と説明した。また、大腸がん患者さんで高い発症頻度だったことを明かし、薬剤側・患者さん側の因子に関するさらなる検討の必要性も指摘した。

今後の研究については、「支持療法の最適化に向けて、亜鉛療法の明確な適応の確立と亜鉛以外の原因の同定に焦点を当てるべきです」と締めくくった。発表を終えた秦副部長は「海外の薬剤師に自分たちの取り組みを紹介できたことは、とても貴重な経験になりました。さまざまな国の発表に触れ、新たな気付きも得ることができました」と振り返り、「この経験を今後の臨床や研究活動にも生かしていきたいです」と声を弾ませた。

専門性を高めていく風土醸成

同院薬剤部は近年、こうした学術活動を活発化。日々の業務で感じた疑問や気付きを研究につなげ、学会発表や論文として積極的に発信している。具体的には、学会発表は20年度5件だったが、25年度は18件に増加。論文は2報から6報となり、著書・総説などを含めると、さらに多くを手がけている。

日々の業務で感じた疑問や気付きを研究や業務改善につなげる活動は、各薬剤師の成長意欲も向上。認定・専門・指導薬剤師など資格取得者は延べ41人(20年)から110人(26年)に増加し、薬学博士の学位取得者も2人から5人となった。渡邊部長は「学術活動や資格取得を通じて、専門性を高めていく風土が少しずつ部内に根付いています」と笑顔。「学術活動を身近なものとして取り組み、一人ひとりが成長し、その成果を国内外に発信できる薬剤部にしていきたいです」と意気軒高だ。

PAGE TOP

PAGE TOP