
徳洲新聞ダイジェスト
Tokushukai medical group newspaper digest

徳洲新聞ダイジェスト
Tokushukai medical group newspaper digest
2026年(令和8年)11月02日 月曜日 徳洲新聞 NO.1567 1面
野崎徳洲会病院附属研究所(大阪府)は、がん転移研究部の山口英樹・主幹研究員が国際的な学術誌のエディター(編集委員)に選任、また、疾患機能ゲノミクス研究部の圓岡真宏・主任研究員の研究課題が科学研究費助成事業(科研費:国が交付する競争的研究資金)の「挑戦的研究(萌芽)」に採択されるなど、着実に成果を上げている。徳洲会グループは臨床医療に注力すると同時に、医学の発展に貢献するため学術・研究活動を推進しており、各専門領域の学術集会の独自開催に加え、個々の病院や多職種が日々の臨床の成果を生かした学術・研究活動に従事。また同研究所を含め5病院が文部科学省から研究機関として指定を受けている(表)。
「質の高い論文を世に送り出したい」と山口・主幹研究員
「発達障害の治療法確立を目指します」と圓岡・主任研究員
野崎病院附属研究所は動物実験施設も有する(写真はマウスに試薬を注射する圓岡・主任研究員)
山口・主幹研究員がエディターに就任したのは、『Scientific Reports』(シュプリンガー・ネイチャー発行)という自然科学全般を対象としたオープンアクセスの国際的な学術誌。影響度を示す指標であるインパクトファクター(掲載された論文が他の論文で引用された回数によって算出)は4.9と高い評価を受けている。長年にわたる研究業績が国際的に認められた結果で、山口・主幹研究員は、がん関連の基礎研究分野を担当する。
「とても名誉なことだと受け止めています。私自身は30年近く、がん転移の仕組みやプロセスを解明する研究に取り組んできました。この15年ほどはスキルス胃がんや腹膜播種を主な研究対象とし、転移の抑制に効果がある創薬などを目指して研究を続けています。著名な学術誌のエディターを務めることで当研究所の認知度向上に寄与し、質の高い論文を世に送り出すことで科学全体の発展に貢献していければと考えています」(山口・主幹研究員)
エディターの役割は、『Scie-ntific Reports』事務局から依頼された専門分野の論文に対し、精査したうえで、まず論文の内容が同誌のポリシーに合致し科学的な質が保たれているかを確認。次に適切な査読者を選定し、その後、査読者のコメントをふまえて「採択」や「却下」、修正・再投稿を促す「改訂」といった判断を下す。
「研究者として歩み始めた頃は“病気はなぜ生じるのか”という好奇心が原動力でしたが、患者さんを目の当たりにする機会が増えるにつれて、“人の役に立ちたい”という思いが強くなってきました。これからも“患者さんのためになる研究”ということを意識して取り組んでいきたいと思います」と抱負を語っている。

圓岡・主任研究員の研究課題は「成熟脳における不要シナプスの選択的除去による神経回路再編と発達障害治療戦略の創出」。シナプスは脳内の神経細胞同士の接合部を指し、生体が複雑な活動を行う際に必要な情報伝達を担う。同研究は発達障害の発症に関与するとされる不要シナプスを選択的に除去し、分子標的アプローチによる治療法の確立を目指す世界初の試み。
挑戦的研究(萌芽)は「これまでの学術の体系や方向を大きく変革・転換させることを志向し、飛躍的に発展する潜在性を有する研究」と定義。同研究所は、継続中の研究課題を含めると現在12件の科研費を獲得しており、AMED(日本医療研究開発機構)や複数の民間助成金なども精力的に獲得し、研究活動を一層加速させている。
ヒトの脳内では2歳前後の発達期にかけて多くのシナプスが爆発的に形成され、通常は刈り込み(除去)というプロセスを経て、“交通整理”されるように必要なシナプスだけが残る。それが適切に除去されないことが発達障害の発症に関与していると考えられている。発達障害の根治療法はいまだ存在しない。
「本研究では、神経細胞に発現するタンパク質の一種を欠損させた発達障害モデルのマウスを用い、近年開発された不要細胞除去技術(Crunch)を活用して標的シナプスを選択的に除去、従来困難とされてきた発達期の神経回路異常の後天的な改善について、検証を行います」(圓岡・主任研究員)
現在は動物実験の段階だが、研究が進展すれば、将来的にはヒトの発達障害の新規根治的治療法の創出につながる可能性が期待できる。