
直言
Chokugen

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直言 ~
新納 直久(にいろなおひさ)
徳之島徳洲会病院(鹿児島県) 院長
2025年(令和7年)12月08日 月曜日 徳洲新聞 NO.1521
去る10月1日、当院は念願であった新築移転を果たしました。旧病院は地域医療を支えてきた大切な拠点でしたが、老朽化と医療需要の変化により、将来を見据えた施設整備が不可欠となっていました。今回の移転は、単なる建て替えではなく、「どこに新病院を建てるのか」という根本的な課題との長い格闘の末に実現しました。
当初は現地での建て替えを検討しましたが、敷地条件や医療機能の拡充を考えると困難であることが判明したため、環境条件、地権状況、災害リスクなど多くの要素を慎重に検討した結果、今の所在地となりました。その後、この土地には象徴的な由来があることがわかりました。ここは元々、徳田家の畑であり、徳田虎雄・名誉理事長が大阪大学医学部に通うための学資を工面するべく、ご両親が切り売りした土地だったのです。徳洲会の原点と言える「志を育んだ土地」に新病院が建ったのは、大きなご縁であり、時を超えて思いが結ばれたように感じています。
今回の新築移転では、医療提供体制の強化にも大きな前進がありました。島内の2有床診療所から19床ずつ、計38床を譲り受け、旧病院の199床から218床へと拡大しました。12月には237床に増床し、より幅広い医療需要に応えられる体制となります。また、地域包括ケア病棟を整備するとともに、今後稼働するHCU(高度治療室)8床も設け、急性期から回復期まで切れ目のない医療提供を目指しています。
医療機器の刷新も大きな柱です。とくにGEヘルスケアの256列CT(コンピュータ断層撮影)装置の導入は、離島医療における診断能力を飛躍的に高め、心血管疾患をはじめ救急医療の質向上に直結します。
新築移転で最も心配したのは患者さん移送でした。離島・沖縄・九州ブロックから車両を、また多くの関連施設からご支援をいただき、無事に移送を終えられました。3回リハーサルを重ね、当日、見事なチームワークを発揮した職員にも心から感謝しています。
私が担当する産婦人科では、妊産婦さんが安心して出産に臨める環境づくりを重視しました。新病院では陣痛・分娩・回復までを同一空間で行えるLDR室を2室整備し、病室は全室トイレ・シャワー付きの個室としました。島内の妊婦さんはもちろんのこと、里帰り出産の方にも快適に過ごしていただけると考えています。
また、救急動線見直し、検査体制強化、入院環境改善、回復期リハビリ拡充など、高齢化が進む徳之島に必要な医療機能も総合的に整えています。さらに、電子カルテや情報共有システムの最適化などICT(情報通信技術)活用も進み、医療の質と職員の働きやすさの向上にもつながっています。
課題はマンパワーですが、診療体制は着実に強化されつつあります。現在、常勤医は6人ですが、来年4月には徳之島出身の外科医2人が常勤として着任予定です。内科はこれまでの週替わり応援に加え、半年の予定で総合診療医が着任し、関西ブロックの病院からは2カ月ずつ医師の派遣も始まりました。12月からは週4日勤務で総合診療担当医の応援も決定しています。また、毎週3日勤務の非常勤の麻酔科医も確保できました。
新築移転から2カ月余り、あっという間でしたが、そのなかで痛感したことがあります。まだ許可病床を使い切れておらず、医療を必要としている島の方々に医療サービスを十分に提供できていないのではないかということです。新しい設備や体制を整えるだけではなく、それを最大限に活用し、地域の健康を支える責務を果たさなければならないと感じています。
新病院の完成は、建物が新しくなったことだけを意味するものではありません。地域と共に歩み、未来の医療を守るための新たなスタートラインを切ったのです。徳洲会の理念“生命だけは平等だ”を胸に刻み、島の方々に最も信頼され、最も身近な医療機関であり続けることを目指し、職員一同、より一層努力してまいります。
かつて若き徳田・名誉理事長の学びを支えた土地に、今、地域の未来を支える病院が建ちました。この土地に宿る思いを受け継ぎ、徳之島の医療の新しい歴史を築いていく所存です。
皆で頑張りましょう。