徳洲会グループ TOKUSHUKAI GROUP

直言

Chokugen

徳洲会グループ研修委員会 委員長
大隅鹿屋病院(鹿児島県) 副院長
田村 幸大(たむらゆきひろ)

直言 生命 いのち だけは平等だ~

田村 幸大(たむらゆきひろ)

徳洲会グループ研修委員会 委員長 大隅鹿屋病院(鹿児島県) 副院長

2022年(令和4年)04月25日 月曜日 徳洲新聞 NO.1335

徳洲会では単に医療技術のみならず
救急を断らない姿勢を学ぶこと継承
医療情勢が大きく変化する時代でも変わらずに

183人の初期研修医の皆さん、ようこそ徳洲会グループへ。徳洲会グループ研修委員会委員長として、皆さんへメッセージを送ります。皆さんの大学生活後半は新型コロナの影響で学校に行くことも、部活動をすることも、帰省することもままならず、大変な日々だったと思います。とりわけ臨床実習にも制限が生じたことは、本当に苦しかったはずです。患者さんに触れる機会が減ってしまったことを不安に思っている人も少なくないでしょう。でも心配無用です。皆さんほど実臨床に触れたいと強く動機付けられ、入職した研修医は過去にいないからです。その思いの強さが学びを加速してくれるはずです。

状態の厳しい患者さん搬送 「よく連れてきてくれた」

私の若い頃の経験を紹介します。1998年に救急を断らない医師になることを目標に、徳洲会での研修を開始、初期研修2年間は大隅鹿屋病院、3年目は福岡徳洲会病院で研鑽し、4年目で徳之島徳洲会病院へ赴任しました。ドクターヘリも配備されていない時代であったため、島内で完結できない疾患や重症外傷は、自衛隊ヘリによる島外搬送で対応。そのなかでも記憶に残っているのは、劇症肝炎に陥り緊急で血漿交換が必要となった症例です。「すぐに島外搬送して血漿交換を行えば救命できるかもしれない。しかし、目の前の患者さんは人工呼吸管理まで必要となっており、搬送しても救命できないかもしれない。こんな状態で受け入れていただける病院はあるのか」。

鹿児島徳洲会病院の阿部好弘院長(現・伊江村立診療所所長)に相談したところ「すぐに運んでください」との返事。自衛隊ヘリに私と看護師が同乗し搬送することに。定期便なら1時間のところがヘリコプターでは2時間。人工呼吸器を積むことができなかったため、看護師と交代でバッグ換気を行いました。血圧を測定しようにも、爆音と振動で自動血圧計はエラー表示の繰り返し。点滴の速度調整をしようにも、揺れが強く滴下のカウントは不能。突風による激しい揺れで、私も看護師もヘリコプター酔いに見舞われました。気が遠くなりそうななかでもバッグ換気を止めるわけにはいかず、鹿児島市街地に近付き、ヘリポートで待機する鹿児島病院のドクターカーが目に入った時は、涙が出そうになりました。

20年前の2時間の経験は、今でもはっきりと記憶しており、徳田虎雄・名誉理事長が「離島でも高度医療を提供したい。そのためには離島だけではなく、都市部にも離島を支える病院をつくらなければならない」と考えた理由を体感しました。都市部の病院は、へき地・離島を支えられるよう、人的にも設備的にも体制を充実させることが大切だと痛感しました。

この搬送の話には続きがあります。ヘリポートでは阿部先生がドクターカーに乗り待機されていました。搬送中の経過、治療内容を伝え終わったところで、阿部先生から「かなり厳しい状態だな……」との言葉。「こんなに状態が悪くなってから搬送されても、手の施しようがないよ」と言われても仕方がないと覚悟しましたが、思いがけない言葉が続きました。「よく連れてきてくれた」と。「ここまで来て良かった」と心のなかで泣きました。搬送される一例一例には多くの人の思いがあり、努力があり、協力があるのです。

断らない医療が地域からの 信頼得て患者さん託される

徳洲会グループは2021年度に19万9061件の救急搬送を受け入れました。その診療の多くに研修医も参加し、成長の機会となりました。徳洲会では単に医療技術を学ぶだけではなく、救急を断らない姿勢を学ぶことが、代々受け継がれています。医療情勢が大きく変化する時代にあっても、変わることなく救急を受け入れる姿勢が地域からの信頼につながり、多くの救急患者さんを託されるのです。

今度は皆さんが、その命のリレーに参加する番です。机上の勉強と違い、思いどおりにならないこともあるでしょう。悔しい思いをすることも、挫折することも何度もあるでしょう。それでも皆さんは、頑張ることができると信じています。コロナ禍という困難な状況を乗り越え、医師になったからです。その経験は今後の研修の糧になるはずです。皆さんが救急外来で「よく連れてきてくれました」と対応している姿を、目の当たりにすることを楽しみにしています。

皆で頑張りましょう。

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