直言
Chokugen
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直言 ~
四十坊 克也(しじゅうぼうかつや)
札幌南徳洲会病院 院長
2021年(令和3年)6月14日 月曜日 徳洲新聞 NO.1291
4月17日土曜日の朝、ゆっくり朝食を摂っていると、当直医から突然電話が入りました。「職員にコロナ陽性者が出ました」。院内クラスター(感染者集団)の始まりでした。関係する病棟、職員にPCR検査を行うと、患者さん、職員、ご家族の計10人の感染が判明。札幌徳洲会病院の感染管理認定看護師や札幌市保健所とも連携し、感染対策を行いましたが、次々に感染が広がり、結局、全病棟に感染者を出してしまいました。ちょうど北海道が第4波に飲み込まれるのと時を同じくし、連日、感染対策に追われました。6月3日に終息しましたが、計33人の感染者を出すことになりました。
クラスターは7月の新病院オープンに向け、準備をしている最中の出来事で、感染対策が最優先となり、新築移転の準備は後回しになりました。一時は移転を延期したほうがいいのではないかという考えが頭をよぎりましたが、5月下旬に完成した新病院建物を見て、予定どおり7月に新しい病院を開こうと決心しました。
当院は88床の小さな病院で、今から約34年前に札幌市の里塚地区に産声を上げ、1996年に徳洲会グループ入りし、札幌南青洲病院(旧病院名)と名付けられました。赤字経営が続き、毎年、院長が代わりましたが、2001年に緩和ケアと総合診療を柱にする方針に切り替え、03年11月にグループ初の緩和ケア病棟(ホスピス病棟)をオープンしました。その後は「ホスピスのこころを大切にする病院」を理念に、発展させてきました。しかし、築30年以上が経過、老朽化が進み、建て替えが必須となりました。私が院長になって新病院建設を目標に掲げ、それから10年が経ち、ようやく現実のものとなったのです。
新病院をつくるうえで提示したのは、5つのコンセプトです。①徳洲会の理念と当院の理念の融合、②3つのH(Hospitality、Healing、Hope)を提供する病院、③日本一のホスピス、④高齢者医療を充実させ、地域包括ケアの核となる病院、⑤透析を継続できる病院――これらを実現するために緩和ケア病棟を今の1病棟18床から2病棟40床に拡張し、また人工透析も25床に増床しました。
3階建ての最上階の東と西にそれぞれ20床の緩和ケア病棟があります。大きな特徴は全室ほぼ個室という点です。すべての部屋にトイレとサンルームがあり、大きな窓から光が差し込む穏やかな空間をつくり出しました。さらにナースステーションは吹き抜けの開放型とし、職員や患者さんが行き交うスペースになっています。本当に素晴らしい病棟が出来上がりました。
2階は障がい者病棟48床と透析室、リハビリテーション室があります。見晴らしの良い窓から入る陽光は、清々しさを醸し出しています。
1階の正面玄関から入ると、左側に森が見えるガラス張りのシュヴァービング広場という憩いの場があります。グランドピアノが置かれ外来の待合室として四季折々の姿が楽しめるでしょう。新病院は1万㎡を超える敷地に建ち、病院らしくない外観です。医療機器はCT(コンピュータ断層撮影装置)を64列タイプに更新。また1.5テスラのMRI(磁気共鳴画像診断装置)を新規導入しました。
新病院の課題は、増床した緩和ケア病棟をどう運営していくかです。これまでの病床編成から大きく変更したため、従前と同じやり方では厳しいと感じています。より良いケアを提供することで、患者さんが集まる病院にしなければなりません。また透析医も必要です。今後、さらに高齢化する地域を支えるには、認知症診療、訪問診療の充実も不可欠と考えています。
クラスターの際は、外来診療の中止など、地域の皆さんに大変なご迷惑をおかけしました。終息後に「大変でしたね」と、多くの患者さんからねぎらいの言葉をいただきましたが、私自身は診療制限をしたことを悔しく思いました。今後は二度と起こさないと決意し、新病院に向かいたい考えです。
徳田虎雄・医療法人徳洲会名誉理事長は「院長は『夢・希望・ロマン』を語りなさい」と言われました。夢を語り続けて10年――新築移転の夢は正夢になりました。さあ、新しい病院でチャレンジです。
皆で頑張りましょう。