徳洲新聞ダイジェスト
Tokushukai medical group newspaper digest
Tokushukai medical group newspaper digest
2021年(令和3年)6月14日 月曜日 徳洲新聞 NO.1291 一面
札幌南徳洲会病院(88床)は7月5日、現在地から北西に約2㎞の札幌市清田区平岡五条に新築移転オープンする。現病院は築30年以上が経過し、老朽化が進んでいた。新病院では緩和ケア病棟を現在の18床から40床(2病棟に各20床)にほぼ倍増、人工透析のベッドは17床から25床に拡大する。またCT(コンピュータ断層撮影装置)を更新、MRI(磁気共鳴画像装置)を新規導入するなど診療機能の充実を図り、より一層、地域に貢献していく考えだ。
暖色系で温かみのある新病院 クリニック棟もスタイリッシュな外観 緩和ケア病棟の開放的なスタッフステーション 緩和ケア病棟の病室はベッドのままトイレのそばまで移動が可能
移転先は周囲にマンションや戸建て住宅などが建ち並び、近くに幹線道路が走る住みやすいエリア。「シュヴァービングの森」という木々が繁る緑地帯に隣接し、自然環境にも恵まれている。
新病院は地上3階建てで、敷地面積は約1万106㎡、延床面積は約7181㎡。現病院では一般病床(すべて障がい者病棟)70床、緩和ケア病床18床だが、新病院では一般病床(同)48床、緩和ケア病床40床と病床再編を行う。
新病院は①徳洲会の理念“生命だけは平等だ”と札幌南病院の理念「ホスピスのこころを大切にする病院」の融合、②3つのH(Hospitality、Healing、Hope)を提供する病院、③日本一のホスピス、④高齢者医療を充実させ、地域包括ケアの核となる病院、⑤透析を継続できる病院――の5つのコンセプトを掲げている。
緩和ケア病棟があるのは最上階の3階。東病棟と西病棟にそれぞれ20床ずつあり、全室ほぼ個室。すべての部屋にトイレとサンルームがあり、患者さんは思い思いに時を過ごすことができる。
スタッフステーションは吹き抜けの開放的な空間となっており、カウンターの位置が低く、患者さんと職員の距離が近いのが特徴だ。この造作は院内の随所に見られ、1階の医事課の受け付けや、薬局のカウンターなども同様に低く設定している。また、人工透析は現在の18床から25床に拡充、透析専用の玄関も設けた。透析室は2階にあるが、新病院は緩やかな斜面に沿って建てており、高低差をうまく活用し東玄関の同一階とすることを実現。2階の一般病棟に入院する患者さんと、外来で透析治療を受ける患者さんが、エレベーターで上下に移動することなく、スムーズに透析室に行くことができ、利便性が高い構造となっている。
このほか2階にはリハビリテーション室や、花や野菜を育てたり、散歩や歩行訓練などリハビリを行ったりすることができる“ひだまりテラス”を設置。障がい者病棟のスタッフステーションの横には、食事やテレビを視聴できるコミュニケーションコーナーを設けた。
1階は外来や健診センターを開設。また、入院、外来、居宅サービスのすべてに関する相談を受け付ける相談支援受付のコーナーも設置。患者さんや家族にもわかりやすくするために、相談窓口を一本化した。
医療機器に関してはCTを64列タイプに更新、1.5テスラのMRIを新規導入した。通常診療や健診・人間ドックに活用していく方針だ。
新病院は現病院と床面積がほとんど変わらないため、スペースの有効活用に腐心した。たとえば、広めに取られた階段の踊り場をミーティング兼休憩スペースとして活用することも想定している。
新病院では患者さんの「こころの痛み」への癒やし効果を期待して、院内にさまざまなアートを配置。1階の正面玄関には、透き通ったガラスのなかを滝のように水が流れ続けるアクアウォールを設置。さらに、玄関を過ぎると、シュヴァービングの森をガラス越しに臨むことができるシュヴァービング広場と名付けた空間があり、そこにはグランドピアノがある。同広場では今後、ボランティアの協力を得て、お茶の提供や演奏会などを行う計画だ。
さらに2階と3階の病棟入口付近の壁には、シュヴァービングの光と風をテーマにした日本画家による絵画を拡大転写した壁画が目を引く。これは、NPO法人ホスピスのこころ研究所の理事長を務める前野宏総長が編集協力し、「ホスピスのこころ」をテーマとする書籍を出版した著者の小森康永・愛知県がんセンター精神腫瘍科部部長の夫人が日本画家という奇遇により実現した。各階にもピアノを配置し、折に触れて演奏会を催す予定だ。
札幌南病院の新築移転にともない、これまで同院とは別の場所にあったホームケアクリニック札幌、緩和ケア訪問看護ステーション札幌といった関連施設を敷地内に集約する。独立した2階建てのクリニック棟を建てた。同クリニックなどは8月に移転先でオープンする予定だ。
クリニック棟1階には、アイヌ語で「かけ橋」を意味するruyka(ルイカ)と名付けた吹き抜けの空間が広がる。バイオエタノールを燃料とする本物の暖炉を設け、ここにもピアノを置いた。相談・教育・研修の各種機能を担う地域緩和ケアセンターの運営を構想している。
当院がホスピスケア(終末期医療)の取り組みを開始してから20年が経ちます。当初より、「ホスピスのこころ」は病院全体を運営していく際の基本理念になると考え、“生命だけは平等だ”の徳洲会の理念に、さらに当院では「ホスピスのこころを大切にする病院」を加えてきました。「ホスピスのこころ」とは「弱さに仕えるこころ」であり、患者さんも医療者もいずれ死に行く弱い存在として平等・対等であるという意味です。
ホスピスのこころを共有・実践してきた20年の経験を生かしながら、当院の特色を最大限に打ち出し、質・量ともに日本一のホスピスを提供できる病院づくりに職員一同邁進(まいしん)します。新病院は、これまで以上に患者さんにとって快適で居心地の良い場所を目指します。
専門的な治療・ケアによる苦痛の緩和に加え、随所に取り入れた絵画や音楽といったアート、臨床宗教師の活動などを通じ、スピリチュアルペイン(心の痛み)に対する癒やしを提供していきたいと考えています。
新病院建設が正式に決まったのは構想から7年が経過した3年前です。昨年3月に着工し順調に工事が進捗(しんちょく)、いよいよ新病院がオープンを迎えます。緩和ケアと総合診療の二本柱に加え、ふくじゅそう外来(認知症外来)、健診、人工透析、そして当院とともに新築移転するホームケアクリニック札幌や緩和ケア訪問看護ステーション札幌と連携し、訪問診療にも力を入れていきます。
当院は4月に新型コロナウイルスのクラスター(感染者集団)を経験しました。一時は移転の延期も頭をよぎりましたが、グループ病院や行政の協力の下、何とか終息させることができました。感染対策を講じながら、職員一同、協力し合って患者さんや地域に貢献していきたいと考えています。
新病院は受け付けや薬局、病棟のスタッフステーションのカウンターが、とても低い造りになっています。「お家のようにくつろげる場所」、「病院らしくない病院」という当院の要望を取り入れた設計会社の提案で実現しました。物理的に障壁が低く、「お気軽にお声がけください」という雰囲気を自然に醸し出す仕かけとしてふさわしいものだと思います。
また、緩和ケア病棟の病室内のトイレは、扉と一緒に壁の一部が大きく開く形状をしており、ベッドごとトイレに近づくことが可能で、ベッドからそのまま便座に座り直すことができます。各病棟に浴室を備えるなど、快適な療養環境のために随所に工夫を施しました。
積極的に地域との交流をもちたいと考えています。新病院の周辺にはマンションや住宅が建ち並んでいますので、コロナ禍の終息後に町内会や老人クラブなどに出向き、対面式の医療講演を再開していく予定です。
また、これから長期にわたって移転先で病院を運営していきますので、地域社会の一員として、周辺の住環境を守りながら、まちづくりにも貢献していきたいと考えています。高齢で独居の方々も多い地域ですので、移転後は新病院へのアクセスを確保するため、現病院と新病院の間を結ぶシャトルバスを運行し、今後、ニーズをふまえてルートの拡充を検討していきます。