徳洲会グループ TOKUSHUKAI GROUP

直言

Chokugen

福田 貢(ふくだこう) 一般社団法人徳洲会専務理事 八尾徳洲会総合病院(大阪府)総長

直言 生命 いのち だけは平等だ~

福田 貢(ふくだこう)

一般社団法人徳洲会専務理事 八尾徳洲会総合病院(大阪府)総長

2020年(令和2年)11月16日 月曜日 徳洲新聞 NO.1262

生きている限り幸福にと願うのみならず
そのための手立てを模索することも命題
救命救急に勝利し得られた長寿の岸にあるもの

以前のことです。その男性は職場で胸痛を生じ、間もなくショック状態となり当院へ搬送されました。急性心筋梗塞でした。まだ45歳でしたが、緊急冠動脈造影で左冠動脈主幹部を含む複数の病変が見られ、準緊急に冠動脈バイパス手術を行いました。術後経過は良好で、1カ月後に職場復帰が叶いました。彼の娘さんは当時12歳、息子さんは8歳でした。退院後、外来診療を開始、48歳で糖尿病と脂質異常が顕在化しましたが、おおむね経過は良好でした。51歳の時、「娘が大学に受かりました」と、外来でうれしそうに話してくれました。翌年、タール便の排出がありました。胃がんが原因でした。当院外科で胃切除を行い無事終了、以後の外来では、がん再燃の有無の確認などが診療に加わりました。「先生、息子が大学を卒業してね。東京の会社に就職したよ」と、彼が話してくれたのは心筋梗塞発症から14年後のことでした。62歳の時には初孫もできたと闊達(かったつ)に話してくれ、穏やかな時間が流れました。

しかし、72歳を迎えると足がだるくて歩けないと訴え、さらには頻回に失神が見られました。腹部大動脈終末部での閉塞と心臓の徐脈が症状の原因であり、動脈閉塞にはカテーテル治療、徐脈には永久ペースメーカーの植え込み手術を行い症状は消失。76歳で腸閉塞を契機に急速な腎機能の悪化が生じ、血液透析を開始。その頃からか整理のつかない言葉の轍(わだち)から抜け出せず、同じ話を繰り返す様子が幾度となく見られるようになりました。発語も少なくなりました。「先生、もう俺あかんのやろ」。その後、蔦(つた)に這(は)われるように認知能が削がれ、78歳で力尽きました。

自己の自立を優先する生き方 やがて命との折り合い付かず

医学部では人の死について教えられることはありませんでした。死は異常なものであり、つねに回避すべき対象と考えてきました。しかし、救命された命を喜び、子どもたちの成長を支え次へのバトンタッチを貫徹した彼の姿は、幾度かの重い病と闘ってきた姿と重なり、生き抜いた末に生き物としての限界を迎えたように映りました。「お疲れさま」と声をかけることはあっても、「もっと頑張ってほしかった」などとは言えませんでした。

医療と公衆衛生の発展は命の行く末を変えてきました。私が子どもの頃、故郷の村では高齢まで生き長らえる人は少なく、高齢者は村の祭事を司り言い伝えや習わしの擁護者として敬われ、大事にされていました。しかし今となって高齢であることは希少価値を失いました。家族世代間に見られた相互依存の関係は薄れ、親子ともに自立して生きる時間が長くなりました。親をひとりにしておくことを恥とする文化は消えようとしているように見えます。これは子が薄情になったとかの問題ではなく、親子ともに望んだこと、お互い自立した自己の維持を優先とした結果であり、〝子どもに迷惑はかけられない〟とはこうした選択の結果なのかもしれません。

しかし、自己の自立を優先する生き方はやがて矛盾を迎えます。遅かれ早かれ重い病気や障害が襲ってくる、その結果として自立を維持できなくなり、命の現実との折り合いが付かなくなります。長い独居闘病生活の末に、衰弱し居場所を失ってしまう人がいます。「先生、私が死んだらどうなるん。葬式を挙げてくれる人はおらんし、献体をすれば火葬の費用はみてくれる?」。先天性心臓病で手術時期を失い、呼吸困難のために入退院を繰り返す84歳の女性は入院中にそう話しました。

チームや組織としてどんな価値観共有し準備すべきか

救命救急医療は徳洲会の原点です。医師として駆け出しの頃から今に至るまで、ともに難局を越えてきた患者さんとの出会いの多くは、救急の現場から始まりました。不安と安堵(あんど)の時間をともにし、生きることについての価値観を共有する瞬間を重ねました。

私たちの仕事は〝人々の健康と生活を守ることである〟と理念は謳(うた)っています。救命救急に勝利して得られた長寿の岸にある課題とは何か――。もし人らしく生きることに限界があるとしたら。治療不能な衰え行く命を前にした時、傍(そば)にいてできることは何か。チームや組織としてどんな価値観を共有し何を準備すべきなのか。人が生きている限り幸福でいられるようにと願うのみならず、そのための手立てを模索することも私たちの課題であるような気がします。

皆で頑張りましょう。

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