直言
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直言 ~
鈴木 隆夫(すずきたかお)
一般社団法人徳洲会理事長
2020年(令和2年)6月1日 月曜日 徳洲新聞 NO.1238
新型コロナウイルス感染症は瞬く間に世界中に広がり、大きな混乱をもたらしています。日本では1カ月半余り続いた緊急事態宣言がようやく解除されましたが、第2波、第3波が到来する恐れがあり、予断を許しません。これまで徳洲会病院の医療従事者は、恐れながらも見えない敵に果敢に立ち向い、患者さんに真摯に接してきたことを、心から誇りに思います。現場のスタッフが少しでも安心して診療に臨めるように知恵を絞り、対策を講じて支えた職員の皆さんも然りです。
徳洲会グループは、いち早く感染管理部会を中心に国内外の情報を収集し、不足した物資を適時適所に供給、必要な対策を発信し支援するなど、先手を打ち防御態勢を強化しました。
しかし、この間、医療崩壊への配慮や「病院は感染者が集まる怖い場所」という先入観により、患者さんの足は病院から遠のきました。グループの収益の大部分を担う都市部の超規模病院を中心に、外来・入院患者数も大幅に減少。結果として、他の医療機関と同様に医業収益、利益とも大きく減じ、この影響は当面続く可能性があります。
未知のウイルスが人間や社会生活、経済に与える影響は想像を絶します。世界では大企業の経営破綻が起こっています。私たちは今日と明日をどう乗り切るか、職員約3万5000人の叡智を絞り立ち向かわなければなりません。私たちが今できることのひとつは、自院の感染対策を万全にしたうえで、「病院が一番安全な場所である」と地域に向けて発信することです。外来患者さんや出入り業者の感染対策だけでなく、職員自らも感染機会から身を守り、2次感染を発生させない仕組みを講じる必要があります。私たちは医療者の集団です。私たちを通じ患者さんに感染を広げてはならないことを強く再認識しなければなりません。
新型コロナウイルス感染症以外の病気を抱え、病院を受診したい患者さんがいます。そうした方々が安心し、来院できる準備が整っていることを伝えるためにも、職員一人ひとりの心構えと行動が要となります。
この未曽有の大災害が、医療・介護・福祉のあり方を根本的に変える機会を与えたとも解釈できます。人類は過去にもペストやスペイン風邪の大流行など、社会構造が根こそぎ変わるような危機を乗り越えてきました。脱皮しない蛇が死んでしまうように、古い考えの皮をいつまでも被っていては内臓から腐っていき成長できないどころか死に至ります。
この状況下でも、生き残りを図り、安心、安全、親切で質の高い医療を届け続けることが求められます。その答えは皆で共に考え悩み、試行錯誤して導き出すのです。この苦境を乗り切る原則は、いつも同じです。患者さん、利用者さんを呼び戻し収入増を図りながら、節約して支出を抑えるしかありません。
徳洲会は他に先駆けて回復を遂げ、新しい未来を切り拓くと信じています。この危機を乗り越えた先には、ICT(情報通信技術)やAI(人工知能)などテクノロジーの活用が拡大します。顔認証システムでの受付や支払い、清掃ロボットや滅菌ロボットなど、自動化できる分野は急ピッチで改革を進めなければなりません。
緊急事態宣言下でリモートワークやオンライン授業が急速に広がったように、医療でもオンライン診療やオンライン服薬指導、遠隔ICU(集中治療室)、遠隔ロボット手術、遠隔透析治療などが普及することでしょう。すでに徳洲会でも研究開発が始まっている胸部画像診断支援AIなどをはじめ、機械に任せられるものは任せ、人は人にしかできない業務に、より限局されていくに違いありません。
徳洲会は“決して諦めない集団”であってほしいと願います。徳洲会を徳洲会たらしめるものは、理念の実践としての医療・介護・福祉を、現場で体現している職員と、これをサポートしている職員です。
社会構造が変わっても徳洲会が存続する限り、理念が変わることはありません。地域社会に存続を許され、選ばれ、安心、安全、親切で質の高い医療・介護・福祉を提供し続けるために、どんな時代でも新しい徳洲会に生まれ変わる気概をもつことが大切です。皆で頑張りましょう。