徳洲会グループ TOKUSHUKAI GROUP

徳洲新聞ダイジェスト

Tokushukai medical group newspaper digest

2020年(令和2年)5月25日 月曜日 徳洲新聞 NO.1237 一面

NPO法人TMAT
南アフリカ共和国で外傷研修を実施
銃創・刺創治療など診療スキル習得

国内外の被災地で医療支援活動などを行うNPO法人TMAT(徳洲会医療救援隊)は、銃創や刺創など外傷治療の研修を行うため南アフリカ共和国に隊員を派遣した。日本では東京五輪や大阪万博など数多くの大規模な国際イベントを控えており、銃を使った事件やテロなどが発生する恐れがある。一方、日本には銃創や刺創といった重度外傷に対する診療スキルをもった医療従事者が少ないのが現状だ。そこでTMATはこうした外傷に対応できるようにするため、世界でも症例数の多い南アフリカのトラウマ(外傷)センターで研修を実施した。

6人が1カ月にわたり貴重な体験

銃撃された患者さんの体内から摘出した弾丸銃撃された患者さんの体内から摘出した弾丸

左の写真は銃撃された患者さんの体内から取り出した弾丸だ。銃犯罪が少ない日本では目にする機会は滅多にないが、こうした患者さんが一晩に何人も搬送される医療機関があるのも世界の現実だ。TMATの隊員はそのような苛烈な現場で研修を行った。

派遣隊員は、第1陣から第3陣まで2人1組で計6人。2019年10月から12月末までそれぞれ1カ月間現地に滞在し研修した。

第1陣として南アフリカを訪問したのは、湘南鎌倉総合病院(神奈川県)の河内順・副院長兼主任外科部長と湘南藤沢徳洲会病院(同)の澤村直輝・外科医長。第2陣は、湘南藤沢病院の髙力俊策副院長兼主任外科部長と湘南鎌倉病院の村田宇謙・外科医長。第3陣は、八尾徳洲会総合病院(大阪府)の當麻俊彦・整形外科部長と札幌東徳洲会病院の合田祥悟・救急センター医師だ。

このほか各組の引き継ぎに関する事務的調整などのため、TMATの野口幸洋・事務局員兼ロジスティクス統括(一般社団法人徳洲会課長補佐)が適宜、現地に赴いた。

(右から)村田医長、髙力副院長、プラニ教授、合田医師、當麻部長(右から)村田医長、髙力副院長、プラニ教授、合田医師、當麻部長
河内副院長(中央)と澤村医長(その左)河内副院長(中央)と澤村医長(その左)

研修先のトラウマセンターをもつ医療機関は、南アフリカ北東部にある同国最大の都市ヨハネスブルグに立地するChris(クリス)Hani(ハニ) Baragwanath(バラグワナ) Academic(アカデミック) Hospital(ホスピタル)とNetcare(ネットケア) Milpark(ミルパーク) Hospital(ホスピタル)という病院。「銃創治療など国内では経験する機会がなく、トレーニングを受ける場所もありません。南アフリカは銃犯罪などが多発する一方、都市部にある大病院の医療水準は日本や欧米並みに高いことから、世界有数の外傷治療の研修地となっています」(髙力副院長)

18年以降、TMATの橋爪慶人理事(東大阪徳洲会病院院長)や河内副院長、當麻部長、社徳国際部の佐藤昌則部長らが現地を訪問し、研修先病院と徳洲会の医師受け入れに関して協議。ロケーションチェックや書類申請、契約締結など着々と準備を進めてきた。TMAT草創期の中核的なメンバーで、徳洲会病院での勤務歴がある在南アフリカ共和国日本国大使館の中村燈喜医務官からの勧めやサポートがあり、現地での研修が実現した。

「たった一晩で銃創5人刺創は20人近くも搬送」

研修を通じ多くの症例に接してスキルアップ研修を通じ多くの症例に接してスキルアップ
摘出した弾丸を手にする髙力副院長摘出した弾丸を手にする髙力副院長

バラグワナ病院はヨハネスブルグの南西部に位置するソウェト地区に建つ。病床数は約3200床に上り、同院によると「世界で3番目に大きな病院」で、スタッフ数は6700人を超える。ヨハネスブルグを州都とするハウテン州に所在する40ある病院のひとつであり、ハウテン州保健当局が資金を提供し運営している。外傷医療を統括するフランク・プラニ教授は世界でも著名な医師。TMAT隊員は同院のER(救急外来)やトラウマユニット(外傷病床)で研修を行った。

ミルパーク病院はネットケアグループという南アフリカ最大の民間医療グループが運営する医療機関。高度な外傷救急センターを有し世界でもトップレベルの病院のひとつ。国際標準の外傷外科治療であるDSTC(Definitive Surgical TraumaCare)を確立したケネス・D・ボファード教授が所属。プラニ教授は同院でも手術を行っている。

今回訪問した6人はオブザーバー(観察者)として、手術の支援などを行いながら見学中心の研修を行った。

髙力副院長は「とくにバラグワナ病院では毎日毎日、驚くほど銃創、刺創の患者さんが搬送されてきました。たった一晩で銃創は5人、刺創は20人近くにも上り、とにかく症例が多い。一つひとつの手技は外科医としてすでに身に付けている技術で問題ないと感じましたが、救命しながらどのように治療を組み立てていくか、治療戦略の考え方はとても勉強になりました。症例数が多いといっても同じ症例はひとつとしてなく、治療戦略の立て方もケースバイケースです。それだけに多くの症例を見られたことは、とても有意義で貴重な体験でした」と振り返る。

バラグワナ病院ER には毎日多くの患者さんが搬送バラグワナ病院ER には毎日多くの患者さんが搬送

救急医療や外傷医療ではダメージ・コントロール・サージェリー (DCS)という治療の考え方がある。蘇生目的の初回手術、全身の安定化を図る集中治療、修復・再建手術の3要素からなる外傷治療戦略のことだ。銃創や刺創といった特殊な重症外傷に関するDCSを、多くの症例を通じて研修できた意義は大きい。

隊員たちは研修で、頸部(けいぶ)銃創による食道・気管損傷、腹部刺創や銃創による腹腔内(ふくくうない)臓器損傷、胸部刺創による心損傷、肺損傷、四肢の切断や血管損傷、植皮に至るまでの多種多様な手術などを、多数の症例を通じて学んだ。バラグワナ病院とミルパーク病院以外の施設でも、プラニ教授の案内により手術に立ち会ったり外科合同カンファレンスなどに参加したりした。

ロケーションチェックでバラグワナ病院を訪問した橋爪院長(右手前)ロケーションチェックでバラグワナ病院を訪問した橋爪院長(右手前)

現地での生活は、宿舎と病院の間をレンタカーで移動し、危険とされる地域に立ち入らないように気を付けていれば、「危険を感じることはなかった」(髙力副院長)。

髙力副院長は「ある程度、経験を積み外傷医療に興味がある医師であれば、南アフリカでの研修内容は非常に有益です。今回だけで終わりにせず、できればTMATとして今後も継続していきたい」と展望している。

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